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#恋愛
らりるれろ
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尊の事を憎んでいたはずなのに、ごっそりと表情を失った彼を見て『何とかしなくては』という気持ちに駆られた。
『よろしく』と握手の手を差しだしたが、尊はそれが見えていないように、うつろな目をして黙ったままだった。
篠宮家で生活するようになってから数か月の間、尊はたびたび黙っていなくなった。
報告を聞いた父が探させたところ、尊はさゆりさんや妹と暮らしていたマンションの前で座り込んでいたそうだ。
何回もそのような事が起こり、母がキレた。
『鍵を持っていないあなたが家を抜け出すたびに、うちはいつ空き巣に入られるか分からない危険に晒されている事を分かっているの!?』
そう言われ、尊は『すみませんでした』と言い、家から抜け出さなくなった。
けれど学校を休んではマンションに行く事があり、とうとう父はマンションを解約し、さゆりさんに買い与えたグランドピアノを、防音の効いた別の場所に移した。
そして心が空っぽになった尊に『ピアノをやらないか?』と言い、習わせ始めた。
篠宮家にもグランドピアノがあり、俺も一応教室に通っていた。
当時はヴァイオリンや水泳、書道など、様々な習い事で多忙な日々を送っていた。
けれど俺は自宅でピアノの練習をするのは許されているのに、母は父に『あの子にうちのピアノを触らせないでちょうだい』と言い、尊が自宅のピアノに触れる事はなかった。
食事も、最初は母がお手伝いさんに『食事はあの子の部屋に運んでちょうだい』と言ったが、そこだけは父が譲らず『食事は家族全員でとるものだ』と言った。
けれど父も多忙な人なので、毎晩家で食事をする訳ではない。
三人で食事をする時は通夜のように静かで、俺はその頃から神経性の腹痛持ちになった。
次第に尊のほうから『今日は部屋で食べます』と遠慮し、父がいない時は部屋で食事をとるのが当たり前になっていた。
最初は尊を憎んでいたはずだった。
でも母が想像以上の憎悪を尊に向けるのを目の当たりにして、自分の中にあった怒りはどこかへ消えてしまった。
同時に湧き起こったのは、母がヒステリックに怒るたびに『この空気を何とかしなければならない』という焦りだ。
母は何かがあれば尊に文句をつけ、何もなくても文句を言う。
大好きな母が憎悪に表情を歪ませ、耳障りな声を放つのを聞きたくない俺は、学校にいる間から話題をいくつか考えて用意し、母の怒りが爆発した時に、さり気なく話を逸らしていた。
本来なら母の怒りを受け止めるのは父なのに、あの人は『仕事が忙しい』を理由に、尊を引き取ったくせに父親らしい事をほとんどしなかった。
住む家、服、金、ピアノ、教育、そのようなものは惜しみなく与えたが、十歳の尊が頼りにできる人は誰一人としていなかった。
だからせめて俺は〝兄〟として優しくしてあげたいと思った。
本当は尊を憎んでいたはずだったが、その時点で、さゆりさんがたぶらかしたのか、父が押しかけたのかは分からないが、俺たちを裏切った父が悪い事は変わりないと理解した。
そして浮気相手の子供であっても、母と妹を喪ってショック状態にあり、生きるので精一杯な尊に、鞭打つように怒鳴りつけ、いびる母も間違えていると思った。
母の気持ちは分かる。でもやりすぎだ。
母が尊を思うままに怒鳴りつけたあと、一瞬見せる『あぁ、スカッとした』というような、嬉しそうな表情を見るのが堪らなく嫌だった。
さゆりさんが父の子供を産んだのは事実だが、父を受け入れたにしても、父に襲われたにしても、女性が男性を無理矢理襲って子供を作るという事は、ゼロではないにしろ、ほぼあり得ない。
だから彼女に尊と妹を産ませたのは、父の意思だ。
外で女性と関係して子供を作っておいて、尊を快く思わない母と俺がいると分かっておきながら、篠宮家へ迎える無神経さにも腹が立った。
十分な経済力があるのに施設に送るのは違うし、引き取っただけまだマシだ。
でも、この状況が尊にとって〝幸せ〟であるとは思えなかった。
彼が一人の時に話しかけ、当時流行っていたアニメやゲームの話題を振ったが、尊はそういうものに触れていなかったのか、興味を持つ心の余裕もなかったのか、話が弾む事はなかった。
でも『お母さんがごめんな』と謝る事もできず、俺は傍から見れば道化のように、意味があるのか分からない話を尊に振り、ろくな反応を得られずに空回っていた。
尊を見ていると、母親と妹を喪った事実をまだ受け入れられずにいるのに、継母に怒鳴り散らされる毎日を送り、心ここにあらずという感じだった。
寝て起きて食事をして学校に通っているが、生きているという感じがしない。
篠宮家の息子たるもの、名門と言われる私立学校に通わなければならない。
そう思った父は名門私立大学付属小学校で、丁度欠員のあった学校の試験を尊に受けさせた。
尊は無事合格してそこに通っているが、友達がいるという話も聞いていない。
複雑な気持ちはあれど、『俺が味方になってあげないと、尊は一人だ』と思ったから、『勉強はついていけているか?』とか『いじめられていないか?』と声を掛けたが、尊から帰ってくるのは『うん』とか『いや』とか、その程度の言葉だった。
コメント
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いやあ、この回は胸にくるものがあったわ…。兄の視点で描かれる家庭の空気感がもう、息が詰まりそうだった。母の尊への憎悪が暴走していく様子を見て、自分の怒りがどこかへ消えてしまうって感覚、すごくリアルで切なかった。父は金だけ出して問題から逃げてるし、尊は心がぽっかり空いたままだし、そんな中で「俺が兄としてなんとかしなきゃ」って空回りする主人公の焦りが痛いほど伝わってきた。憎むべき相手だったはずなのに、誰も救えない板挟み状態…この重さ、めっちゃ刺さった🔥