残響
(小柳視点)
マナのぬくもりは、まだ手のひらに残っていた。
唇に触れた感触も、声も、全部鮮明なのに――隣には、もういない。
(小柳)「……はは。……そっか」
帰り道、風が冷たかった。
いつもならスマホで音楽をかけて、なんとなくごまかしていたのに、今日は何も聴きたくなかった。
部屋に入って、鍵を閉めて、鞄を投げて、
そのまま、ベッドに沈み込んだ。
(小柳)「……俺の、どこが……」
ぽつりと落ちた声が、自分でも驚くほど弱かった。
理屈ではわかってた。マナが星導をずっと想ってたこと。
自分はその隙間に入り込んだだけだって。
でも、それでも――本気だった。
(小柳)「俺、ちゃんと……好きだったのに……」
声が震える。
涙なんて、出るわけないと思ってたのに、気づいたら頬が濡れてた。
鼻の奥がツンとして、声にならない息がもれる。
(小柳)「……どうして……」
星導のことを責めたいわけじゃない。
マナのことを恨みたいわけでもない。
ただ、自分のどこが足りなかったのか、それが怖いくらいわからなかった。
(小柳)「優しくした……一緒に笑った……
マナがしんどいとき、ずっと隣にいた……のに……」
思い返すほど、自分の姿が惨めに思えた。
奪ったと思った瞬間のキス。あの一瞬だけが、まるで夢みたいだった。
(小柳)「……俺、なんだったんだろうな」
もう、スマホを開く気にもなれなかった。
メッセージを送るのも、電話をかけるのも、きっと今は意味がない。
ただ、ただ、静かに目を閉じた。
“夢なら、どうかあの瞬間のままでいてくれ”
そう願って、布団にくるまったまま、声を押し殺して泣いた。
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