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これを見る前に、、
これこの物語はetさんとyanくんしか出てきません。ご注意ください。
注意が遅くなってしまい、すみませんでした。
それは、あの日と同じような夕暮れだった。
窓から射し込むオレンジの光が、教室の床を静かに染めている。
赤崎yanは、今日も旧校舎に足を運んでいた。
あの「橘eln」と名乗る少女に、会うために。
…いや、正確に言えばちょっと違う。
彼女は言った。
その名前は仮のもので、本当の名前は覚えていない、と。
仮名なのに、なぜかしっくりきていた名前。
“橘eln”という響きは、彼女のオレンジ色の髪にも、少し棘のある口調にも、不思議と似合っていた。
でも、仮の名前の奥には、まだ語られていない“本当の彼女”が隠れている。
yanは、その奥に触れてみたいと思っていた。
——そして今日。
彼は手に“あるもの”を持って来ていた。
昨日、えとが残していったリボン。
鮮やかなオレンジ色で、光の下でやわらかく揺れる。
yanはポケットからそれを取り出し、机の上にそっと置いた。
「……これ、忘れもんだぞ」
「わあ、ありがと。なくなったかと思った〜」
背後から聞こえた声に振り返ると、いつものようにえとが立っていた。
今日は少し髪を結っている。片方のサイドだけをゆるく束ね、無造作に垂らしていた。
「髪……なんか違うな」
「うん、リボンがあったから。ちょっとだけ試してみた」
「似合ってんじゃん」
yanが言うと、えとはほんの一瞬だけ目を見開いた。
そして、照れ隠しのように顔をそらして言う。
「ふ、ふーん……バカメッシュがそう言うなら、信じてあげる」
「誰がバカメッシュだ!」
言い合いながらも、二人の間の空気はどこか、昨日よりもあたたかい。
「……で、今日は何教えてくれるんだ? あのルール、まだ生きてんだろ?」
「もちろん。今日はね、“リボンの記憶”について」
「リボンの記憶……?」
elnは、夕日に目を細めながら話し始めた。
「たぶん、あのリボンは、生前あたしがずっとつけてたものだと思うの。
なんでかって言うと……着けたとき、胸の奥がすごくぎゅーってなって、懐かしい気持ちがした」
「そっか……」
「だけど、誰に貰ったのかは、思い出せない。
“誰か”がくれた気がする。でも、その人の顔も名前も……何も、出てこない」
elnは笑う。でも、それはあまりにも痛々しくて。
まるで、笑顔という仮面を被ったまま、泣き叫んでいるようだった。
「……悔しいよね。全部がぼやけてて、
ただの『怪異』としてしかここにいられないなんて」
「……そんなことねぇよ」
yanの声が、思わず鋭くなった。
「たとえ記憶がなくても、お前は“橘eln”で、
俺がここにいる理由だ。怪異とか幽霊とか、そんな肩書きで片付けんな」
「……yan」
「それに……思い出せないなら、思い出せるまで一緒に探せばいい。
お前が誰だったか、何があったか、どうしてここにいるのか。
全部、おれが知ってやる」
一瞬、沈黙が流れた。
夕焼けが、elnの横顔を黄金色に染めている。
「……へぇ、そういうのって、普通“好きな子”に言うセリフじゃない?」
「……っ、な、なに言って……!」
「ふふ、顔真っ赤」
「……ばっ、か、ちげーし!!」
elnは少しだけ目を細めて、リボンを髪から外した。
「これ、しばらく持っててくれない?
また、ちゃんと“私自身”を思い出せたとき……
そのとき、返して欲しいなって」
yanは無言でリボンを受け取った。
それはたった一つの、でも確かな“約束”だった。
「……ああ、絶対返してやるよ。お前が、“本当のお前”に戻ったときにな」
そのとき、教室の時計が音もなく動いた。
秒針が、今日という日がもうすぐ終わることを、無言で知らせていた。
「じゃあね、yan。また、明日」
そして、elnはいつものように、ゆっくりとその姿を消していった。
まるで、夕陽に溶けるように。
手のひらには、オレンジのリボンが残っていた。
そこにあった、確かな“体温”だけが――彼女が存在した証。
yanは、それを胸ポケットにそっとしまった。
「……また明日。俺も、ちゃんと来るから」
その声は誰にも届かない。
でも、それでもいいと思った。
なぜならそれは、彼の心の中にだけ、しっかりと残る“橙色の記憶”だったから。
(続く)