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赤崎yanは、昨日受け取ったオレンジ色のリボンを胸ポケットに忍ばせ、今日も旧校舎に足を運んでいた。
それは決して、習慣というわけではなかった。
昨日の約束、いや、むしろ“探し物”をしに来たようなものだ。
彼が探しているのは、ただひとつ——
elnの“過去”の断片。
そして、今日の探求は、一つの“ヒント”から始まった。
昨日、elnはぼんやりとこう言った。
「誰かが、私を描いてくれた絵があった気がする。でも、その顔は見えない。」
その言葉が頭から離れなかった。
「肖像画」とは、ただの絵ではない。
“顔”は、その人物の本質や存在を表すものだ。それを描いてもらったというのなら、その絵には何か大切な秘密が隠されているはずだ。
そして、elnの過去を知るためには、この手がかりを追うしかない。
yanはまず、図書室に向かっていた。
旧校舎の一番奥にある、ほとんど誰も寄りつかない小さな図書室。
その場所には、確か、古い美術部の資料が眠っているはずだ。
図書室に足を踏み入れると、すぐに目の前に広がる古びた書棚の間をすり抜けるように歩き始めた。
横目で見つけた古いアルバムに手を伸ばし、ページをめくっていく。
そこには、誰かが描いた風景画、静物画、そしてポートレートがたくさん収められていた。
だが、yanが探しているのは、どこにも見当たらなかった。
(……ないのか?)
そう思った矢先、ふと目に留まった一枚の白黒写真があった。
その写真には、若い美術教師が描かれた絵の前で微笑んでいる女性が写っていた。
その女性は、笑っているが、どこか儚げで、どこか寂しげな目をしていた。
その顔を、思わず見入ってしまう。
(……これ、まさか)
彼は思わずアルバムを手に取った。その写真をじっくりと見る。
その女性が、確かに見覚えがあった。
それは、elnだった。
だけど、その顔は、今のelnとは少し違って見えた。
髪型も少し短めで、表情も少し柔らかく、あまり“仮面”をかぶっていないように見えた。
その写真の隅には、やはり“美術教師”の名前が書かれていた。
それは、yanにとっても見覚えのある名前——
鏑木俊哉。
そして、そこに添えられたメモには、こう書かれていた。
「彼女の絵、これから展示会に出すつもりです。もしよければ、見に来てください。」
そのメモの内容が、yanの頭をぐるぐると駆け巡る。
(展示会?あの時、elnはまだ学生だったのか?)
yanはすぐに立ち上がり、アルバムを手にしたまま、図書室を出た。
次に彼が向かったのは、美術室だった。
ここには、あの“鏑木俊哉”という美術教師が残した作品や記録があるはずだ。
yanは、教師の名前が刻まれた作品を探していた。
そして、美術室の奥に隠された小さなアトリエスペースに辿り着く。
その空間は、まるで時が止まったような雰囲気で、誰も触れなかった絵の具や道具がそのまま残されていた。
その部屋の片隅には、ひときわ目を引く大きなキャンバスが一枚、壁に掛けられていた。
yanはその絵に近づくと、深く息を吸って、目の前の絵に目を奪われた。
それはまさに、**“誰かを描いた肖像画”**だった。
しかし、驚くべきことに——
その絵の人物は、顔がまるで消されているように描かれていた。
微妙な筆致で、まるでその人物の顔が“ぼかされた”ような形で。
まるで、存在してはいけない顔のように。
yanの手が震えた。
その肖像画には、間違いなく、elnの姿があった。
だが、その顔はどこか、今の彼女とは違う。
見知らぬ誰かの顔が、代わりに描かれているように感じた。
そしてその絵の隣に、小さく一行の文字があった。
「“鏑木et”の肖像画。」
その名は、ついに**“鏑木et”**と書かれていた。
そこにあったのは、まさに“本当の名前”が刻まれていた瞬間だった。
yanの心臓が、どくんと音を立てた。
(続く)