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第十八章 縄張り
暖かな日差しが眩しい。
重い瞼をゆっくりと開けると
綺麗に整った横顔。
長い睫毛。
規則的な呼吸音。
翔太💙「亮平せんせい……」
身体を少しだけ起こして、顔を覗き込む。
薄っすら茶色の混じった上品な髪色。
サラサラと真っ直ぐに伸びる前髪。
人差し指で掬って、睫毛を覗き込む。
翔太💙「……可愛い」
なんでこんなこと思ってるんだろうって、
少しだけ、変な気持ちになった。
翔太💙「……っ!」
不意に掴まれた手首が痛い。
前髪の隙間から、鋭い眼光が俺を捉えた。
翔太💙「先生、起きてたの?」
手首を掴まれたまま引き寄せられるように、
亮平の腕の中にすっぽりと収まった。
トクトクと心臓の音が響くほど、ピッタリとくっついて。
苦しいはずなのに、
少しだけ、離れたくないと思った。
翔太💙「せんせい?」
亮平💚「…………」
再び規則的な寝息を立て、目を瞑っている。
まだ、寝てる?
抱きしめられるような形で固定された。
ふぅーっと深くため息をつく。
ゆっくりと瞼を閉じ、
今度は息を吸った。
翔太💙「先生の……匂い……好き」
安心する。
――なんでかは、分からないけど。
翔太💙「……?」
後ろに回された腕がゆっくり動く。
布の隙間から指先が滑り込んだ。
翔太💙「せんせい?……せんせい!」
亮平💚「しーっ静かに」
亮平💚「一晩我慢したんだ……もういいだろ?」
翔太💙「やっ……だめっ」
逃げようとしたけど腕が強くて動けない。
逃げたいのに、全部が嫌なわけじゃないのが、一番困る。
亮平はくすっと笑った。
亮平💚「昨日あんな声出しておいて?」
翔太💙「あれは……っ」
耳元で息がかかる。
亮平💚「覚えてない?復習してみる?」
指先がゆっくりと背中をなぞる。
翔太💙「っ……せんせい」
亮平💚「亮平」
翔太💙「……りょ、亮平せんっ……あっ」
亮平💚「耳……弱いんだね。力抜けちゃって可愛い」
耳朶を甘噛みされ、上半身の力が抜ける。
自分じゃないみたいに、簡単に崩れていく。
その間も指は動き続け、下へ下へと這った。
ほんの一瞬だけ、
――このままでもいいかもしれないって、思ってしまった。
そのとき、突然のアナウンス。
📢
「医局寮の皆さまにお知らせします」
翔太💙「え?」
📢
「ただいまより」
少し間。
📢
「外科的外傷検診を開始します」
翔太💙「へっ?」
亮平💚「……この声……アイツ💢」
📢
「対象者は」
一瞬の沈黙。
📢
「渡辺」
翔太💙「はい?」
📢
「阿部」
亮平💚「ちっ……黒豹め」
📢
「両名は部屋で待機するように」
ドアの向こうから続く声。
蓮🖤「起きてるんだろ」
一瞬、空気が止まった。
亮平は小さく息を吐く。
亮平💚「……最悪」
翔太💙「せ、先生どうするの」
蓮の声がもう一度響く。
蓮🖤「開けるぞ」
ドアノブが回る。
――
カチャ。
躊躇いのない音だった。
ゆっくりと開いた扉の向こうに白衣姿の目黒が立っていた。
蓮の視線が部屋の中を一度だけなぞる。
ベッド。
乱れたシーツ。
亮平。
そして――
お腹が露わになった翔太。
一瞬だけ沈黙。
さっきまでの空気が、一気に現実に引き戻される。
翔太💙「……先生」
蓮は何も言わない。
ただ見た。
冷ややかな目で。
亮平がそっと、翔太のシャツの裾を戻した。
蓮 🖤「いつまで寝てる……お楽しみ中だったようだな?」
蓮は腕時計を見ると、淡々と言った。
蓮🖤「……検診だ」
亮平が小さく笑う。
亮平💚「本気?」
蓮は答えない。
亮平💚「何よ?外科的なに?勝手に作らないでよ」
ゆっくりベッドに近づく。
翔太の前で止まった。
黒い瞳が、ゆっくり翔太を見下ろす。
蓮🖤「顔」
翔太💙「えっ」
顎を掴まれる。
ぐい、と上を向かされる。
指先が唇の端をなぞった。
蓮🖤「……増えてるな」
翔太💙「ち、違っ」
亮平が横で笑う。
亮平💚「診察したから」
蓮の視線が亮平へ向く。
ほんの一瞬。
蓮🖤「余計なことするな」
亮平💚「内科判断」
蓮は小さく鼻で笑った。
そして。翔太のシャツの襟に指を掛けた。
翔太💙「先生!」
布が少しだけ下がる。
首筋。鎖骨。そこに残る赤い痕。蓮の目が細くなる。
蓮🖤「……外傷」
翔太💙「違います!」
蓮 🖤「明らかに濃くなってる」
亮平が肩をすくめた。
亮平💚「処置跡」
蓮🖤「そうか」
そのまま蓮は言った。
蓮🖤「阿部」
亮平💚「なに」
蓮🖤「検診補助」
亮平は一瞬黙ってから笑う。
亮平💚「面白そうだ」
翔太💙「ちょっと待って!」
亮平がベッドの片側へ。
蓮は反対側へ。
翔太は真ん中。
完全に逃げ場がない。
蓮の手が、首筋に触れる。
ゆっくり。
確かめるように。
蓮🖤「体温高い」
亮平が反対側から覗き込む。
亮平💚「脈も早いね」
翔太💙「先生たち!!」
亮平💚「診察だよ?シャツを脱ぎなさい」
蓮 🖤「脱げないなら手伝うが」
半べそを描きながら、翔太は震える手で、
渋々シャツを脱いだ。
ベッドが軋み、片側に傾くと
もう一度軋み戻されるように、また傾いた。
亮平の指が背中につーっと触れる。
翔太の肩が小さく跳ねた。
亮平💚「背部」
蓮🖤「前面」
同時だった。
翔太の身体がびくっと震える。
翔太💙「やめて……やだよ」
蓮が低く言う。
蓮🖤「患者は静かにしろ」
亮平が笑う。
亮平💚「診察中」
二人の手が同時に動く。
逃げ場はない。翔太はベッドの上で息を呑んだ。
そして蓮が静かに言う。
蓮🖤「……やっぱり増えてる」
亮平💚「どこ」
蓮の指が、翔太の首筋をなぞる。
蓮🖤「ここ」
亮平が少し笑う。
亮平💚「ああ――それ」
亮平💚「俺」
一瞬。
黒豹と狼の視線がぶつかる。
空気が止まった。
蓮🖤「……増えてるな」
翔太💙「え?」
蓮の指が首筋をなぞる。
亮平が背中に手を回した。
亮平💚「背部も」
翔太の身体が小さく震える。
翔太💙「えっ……そんなとこ触られてません」
少しの沈黙。
亮平が、くすっと笑った。
亮平💚「そう?」
軽い声。
でも、どこか楽しんでいるみたいに。
蓮の指が、背中をなぞる。
ゆっくりと。
確かめるように。
蓮🖤「……あるな」
翔太💙「え?」
蓮🖤「自覚ないのか」
低い声。
逃がさない言い方。
亮平が、さらに近づく。
亮平💚「見えないところほど、残るんだよ」
翔太💙「……っ」
言葉が詰まる。
何も知らないはずなのに、
触れられた場所だけが、熱を持って思い出される。
覚えてないはずなのに、
身体だけが知っているみたいで。
蓮🖤「誰に付けられた?」
翔太💙「知らない……!」
即答だった。
でも、その声は少しだけ揺れていた。
亮平が、小さく笑う。
亮平💚「へぇ」
少し間。
亮平💚「じゃあ――誰のものでもないんだ」
その言葉に、空気が変わる。
蓮の目が、細くなる。
蓮🖤「違うな」
一歩、距離を詰める。
蓮🖤「“つけたやつのもの”だ」
そのとき。
蓮の手と、亮平の手が翔太の肩の上で触れた。
一瞬。
二人とも止まる。翔太は気づかない。
でも――空気が変わる。
蓮の視線がゆっくり上がる。亮平を見る。
亮平も笑ったまま動かない。
数秒の沈黙。
亮平💚「黒豹」
蓮🖤「狼」
二人の手はまだ、翔太の身体の上で触れたまま。
亮平💚「……縄張り?」
亮平が小さく言う。
蓮🖤「マーキングだ……どけろよ亮平」
蓮の声は低い。
亮平💚「そっちこそ」
そして亮平がわざと翔太を少し引き寄せる。
翔太💙「ちょ、先生」
蓮の指が強くなる。
蓮🖤「触るな」
亮平💚「もう触ってる」
亮平💚「それに、どっちに反応してるか、分かってるでしょ」
蓮 🖤「すごい自信だな」
亮平💚「お前は?自信ないなら降りろよ」
翔太の顎を勢いよく掴んだ蓮。
あまりの速さに、動けない亮平と翔太。
荒々しく唇を奪う。
舌が捩じ込まれイヤらしい水音が響く。
離れたとき翔太の唇から一滴、雫が落ちた。
唇が、わずかに開いたまま。
紅潮したままの顔で、雪うさぎは、ただそこにいた。
何をされたのか、どう感じたのか、自分でも分からないまま。
――でも、嫌だったはずなのに。
蓮 🖤「悪いな……自信無くしたか?」
亮平💚「ふっ悪趣味だな」
翔太💙「ぼーっ」
ニヤリと笑った目黒先生。
蓮 🖤「雪うさぎ……?余韻を楽しむな」
翔太💙「楽しんでません!」
蓮は腕時計を見る。
蓮🖤「終わりだ」
翔太💙「えっ?」
蓮🖤「外科判断」
翔太💙「検診じゃないじゃないか!」
蓮はもう興味なさそうに背を向ける。
蓮🖤「仕事だ」
翔太💙「は?」
蓮🖤「5分で支度しろ来い」
蓮はドアの前で振り向く。
蓮🖤「制服持って俺の部屋へ来い」
黒い瞳。
ニヤリと笑った。
蓮 🖤「ストッキングを忘れるなよ?」
蓮は廊下へ出ていく。ドアが閉まる。
部屋に残るのは翔太と亮平。
少しの沈黙。
亮平は笑っていない。ただ静かに翔太を見る。
亮平💚「翔太」
翔太💙「はい」
亮平はゆっくり言う。
亮平💚「黒豹に捕まると」
少し間。
亮平💚「逃げられないよ」
翔太💙「え?」
亮平は小さく笑う。
亮平💚「でもね」
翔太の首筋を指でなぞる。
亮平💚「狼も」
少し近づく。
亮平💚「しつこい」
翔太💙「……先生」
亮平は最後に小さく言う。
亮平💚「覚悟して」
翔太の頭をぽん、と軽く叩く。
亮平💚「行っておいで」
翔太💙「……はい」
足は動いてるのに、どこに向かってるのか、分からなくなっていた。誰に引っ張られているのかも、もう分からない。
翔太は慌てて部屋を出る。
ドアが閉まる。
亮平は一人。
静かな部屋。
亮平は小さく笑う。
亮平💚「……自分から巣穴に入ったんだ」
亮平💚「覚悟しなさい……逃げ場はないよ」
亮平💚「雪うさぎ」
sona
コメント
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短いセリフたちが暗示みたいでどことなく不気味😂翔太の気持ちはどっちに傾くんだろう?他のメンバーは????