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「……はい。
そろそろ許してあげます」
そう言いながら、エミリアさんはようやくつねっていた手を放してくれた。
うーん……? 結局なんだったんだろう、理解しがたい……。
「き、気が済んだようで何よりです……。
さて、それじゃジェラードさんのブレスレットに戻りましょうか」
「そうですね、そうしましょう!」
ジェラード用のブレスレットは何度も普通の結果に終わっているから、そろそろ成功させたいところだ。
でもエミリアさんの新魔法、グロリアス・スターライトがあればすんなり出来てしまうかもしれない……!
「それじゃエミリアさん。さっきの魔法をお願いします!」
「あの魔法は封印されました」
「へ?」
封印? どゆこと?
「とある事情により、あの魔法は使わないことに決まりました」
むむむ?
「……もしかしてバニッシュ・フェイトで消しちゃったの、怒ってます?
それなら、すいませ――」
むぎゅ。
「いたいれす」
何故か、またほっぺをつねられてしまった。
「あの魔法には素敵な思い出ができたので、アイナさん以外のために使うことを止めたんです。
えへへ、許してくださいね」
「……ふぁい」
私が変な発音で返事をすると、ようやくつねっていた手を放してくれた。
うーん……。せっかく覚えた魔法なのに、ちょっともったいないかも……?
でもまぁ、エミリアさんが決めたことなら仕方が無いか……。
「……さて。
それでは気を取り直していきましょう。れんきーんっ」
バチッ
そしてかんてーっ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
──────────────────
【ブレスレット(S+級)】
一般的な装身具
※錬金効果:風刃
※追加効果:素早さが1%増加する
──────────────────
「――ッ!
きました! エミリアさん、やっとです!」
「おめでとうございます! ……結局10回以上やりましたけど」
「やっぱり鬼門でしたね……。何か憑いていたんでしょうか」
「あはは、そうかもしれませんね。
それで、付いた効果は『風刃』……ですか。どんな効果ですか?」
「ぱぱっと見ちゃいましょう! かんてーっ」
──────────────────
【風刃】
物理攻撃時、風の刃による追撃を行う
──────────────────
「……これは攻撃系の効果、みたいですね?」
「そうですね。攻撃力はいまいち分かりませんけど、使い勝手は良さそうかも?」
「ふむ……」
こういう特殊効果って、その攻撃力次第で価値がずいぶん変わるんだよね。
1割の増加でもかなり強いと思うけど、普通の攻撃と同じくらい……つまり攻撃力が2倍になるようなものなら、とんでもなく強い効果になるわけで。
「これはジェラードさんに渡して、あとで感想を聞くことにしましょう」
「そうですね、そうしましょう!」
「……さて、今回作りたかったものは全部終わりましたね。
エミリアさんもご協力、ありがとうございました」
「いえいえ、わたしは見ていただけですから!」
「そうだ。折角ですし、何か足りなくなったものはありませんか?
紙でも、ヘアオイルでも」
「前に頂いた分がありますので、もう少し大丈夫です! 無くなりそうになったらお願いしますね。
……あ。もしかしてこれって、ご褒美な感じですか?」
「大体そんな感じです!」
「それならお願いをひとつ、聞いてくれますか?」
「え? はい、私ができることなら」
「それじゃ――
……目を瞑って、少しじっとしていてもらえますか?」
「えっ」
そんなことを言われた瞬間、ミラエルツでの例の夜が思い出された。
「べ、別に構いませんけど!
変なことはしないでくださいねっ!?」
「変なこと?」
エミリアさんは不思議そうに首を傾げたあと、しばらくしてから急に顔を赤くした。
「ちょっ……! あ、あんなことはしませんよ!!?」
「い、一応ですよ! それなら大丈夫です、はい! 瞑りました!」
エミリアさんの顔を見るのも少し気まずくなったので、私はさっさと目を瞑ることにした。
「ありがとうございます。
……それじゃ、失礼しますね」
「え?」
――ぎゅっ。
「むむ……?」
うーん……。何やらエミリアさんに抱き締められたようだ。彼女の優しい体温が伝わってくる。
抱き着かれるのは、最近は慣れてきたんだけど……うーん?
しばらく黙っていても動きが無いので、ちょっと声を掛けてみた。
「エミリアさーん。どうしたんですかー?」
「えへへ、アイナさんを抱き締めているところです♪」
「それは分かりまーす」
まぁ、抱き締められるの自体は良いんだけど……何で急にまた?
「わたしも誰かに甘えたくなるときもあるんですよ~っ。
えいえいっ」
エミリアさんは、腕に力の強弱を入れて私をいじってくる。
「うわああああ、何するんですかーっ」
「あはは♪ それではこれくらいで許してあげましょう。
はい、目を開けて良いですよー」
「むぅ?」
目を開けると、すぐ近くにエミリアさんがいた。
そして自分の身体を出来るだけ確認したが、特に変わったことはなく……本当に抱き締められただけのようだった。
「……さて、と。
それではアイナさんに癒されましたので、わたしはそろそろ戻って寝ますね!」
「あれで癒されたんですか?」
「はい、とっても!」
……もしかして、あれかな。
犬や猫を抱き締めて癒される感じだったのかな。
なるほど、私で代用が効いたかは分からないけど、それなら良しとしよう。
「それは何よりでした……。
では、ゆっくりお休みください」
「はーい、また明日! お休みなさーい」
そう言うと、エミリアさんは部屋から出ていった。
うーん、それにしても……
「私、そんなに動物っぽいかなぁ?」
部屋の鏡に、自分を映してふと呟く。
実際、そういう可愛らしさは無いと思うんだけどなぁ? 人それぞれってことかな……?
……まぁそれはそれとして。
やろうと思っていたアーティファクト錬金も全部終わったし、明日は予定通り魔法のお店に行くとしよう。
ジェラードにお願いしているミスリルの件もそろそろ動き出すだろうし、そっちも注意していかないとね。
それにしても、最近は何だかんだで神器関連のことが多くなってきたから……神器作成も、少しずつ現実味を帯びてきた気がする。
……とは言っても、まだまだなんだけどね。
それでも何だか、嬉しいな。
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