テラーノベル
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私の中に魔力があるというなら、無能と罵られてきた日々を変えられるのではないだろうか。
脳裏に私を蔑む継母の顔がよぎり、鼓動が跳ね上がった。
「大丈夫だ。もう、何も隠すことはない」
まるで、私が魔法を使えないと知っているようなヴィンセント様の口振りに、鼓動はますます激しくなる。
もしかして、もう隠さなくていいの……?
恐る恐る顔を上げると、そこに穏やかに微笑むヴィンセント様がいた。
私が無能だと罵られた理由を、貴方に嫁げと言い渡されたのは、無能な子どもを成すためだっていうことを、全てヴィンセント様に打ち明けていいの?
「ヴェルヘルミーナ……魔法の使えなかった母と、その母から生まれた私は無能だろうか?」
「──!? い、いいえ。そのようなことは決して!」
「何も心配することはない」
穏やかな微笑みに、肖像画の中にいたクレア様とローゼマリア様が重なった。
ヴィンセント様は、本当にお優しい。
私を傷つけないよう言葉を選び、私が自ら打ち明けることを待ってくださっている。
大きな手に触れると、そっと握りしめられた。冷えた指先にじわじわと温もりが沁み込んでくる。それを放したくて、唇を震わせながら、勇気を出した。
「私も……魔法が使えますか?」
消えそうな声に「ああ」と頷いたヴィンセント様は、私を強く引き寄せた。そのまま厚い胸に頬を押し付ければ、力強い心音が耳に響いた。
「必ず使えるようになる。私が、その魔力を解放しよう」
顔を上げなくても、ヴィンセント様が静かに笑みを浮かべているだろうことが伝わってくる。
ヴィンセント様は全て知っていて、私を迎えてくれていた。私のことを、ちゃんと分かってくれていた。
嬉しさに心が満たされていく。
「……ありがとうございます」
震える声で伝えると、ほんの少し私とヴィンセント様の間に隙間ができた。
そっと顔を上げれば、すぐそこに綺麗な顔があった。
私は、この方と結婚するのね。
ヴィンセント様の指が髪を撫で、首筋に触れる。そのくすぐったさに身をすくませると、彼はくすりと小さく笑った。
「そんなに怯えられると、イケナイコトをしている気になってしまうよ」
「──!? お、怯えてなどいません。た、ただ、その……こういった場面は、慣れておりません、ので」
尻窄みになって、ごにょごにょと言えば、ヴィンセント様は目を細めて「私もだ」と呟いた。
目をぱちくりとさせていると、再び身体が彼の腕の中に引き込まれた。
「本当に美しく育った。亡きレドモンド卿は、君を遺していくのがさぞ心残りだっただろう」
「……お父様が、ですか?」
「意外だと言いたそうな顔だな」
「そ、それは……お父様は、無能な私を疎ましく思っていたので……」
幼い頃、優しい言葉なんてかけてもらえなかった。
ヴィンセント様のように頭を撫でてくれなかったし、抱き締めてももらえなかった。いつだって、私に厳しかったお父様……
「お父上は、君が強く生きられるようにと言っておられた」
「強く?」
「そのため、人一倍厳しくしてしまった。男親は母親にはなれないものだなとも」
「そんな……」
お父様に、お母様の代わりなんて求めていなかったのに。どうして、本心を私に打ち明けてくださらなかったのかしら。
もやもやとしていると、ヴィンセント様が耳元で「レドモンド卿は君を愛していた」と囁いた。
熱い吐息に背筋が震えた。
「レドモンド卿は、幻惑の魔女から貴女を隠すので必死だったのだから、責めないでほしい」
「えっ……?」
「娘の魔力が目覚めるまで、守らなければ。強く生きられるようにと……最期まで心配していたよ。私も会いに行ったとき、後ろ盾を頼むと言われた」
砦で亡くなられたお父様は、息をひきとる数日前に何人かのお客様と会っていたことは知っている。
最期まで、魔法師団とお家存続を案じて、各方面に協力を頼んでいたのだと思っていた。
まさか、その一人がヴィンセント様だったなんて。
「私は、亡きレドモンド卿に誓ったんだよ。ヴェルヘルミーナを誰よりも幸せな花嫁にすると。そうしたら、難しい顔をして『お前に娘はやらないからな』といった後、笑いながら『花嫁姿を見たかった。きっと世界一可愛いだろう。よろしく頼む』とおっしゃられた」
お父様が亡くなられる前、私は面会一つ許されなかった。一目だけでもと願っても叶わなかったから、私は見捨てられたのだと思っていた。
だけど、違ったの……?
涙が溢れて、視界を滲ませる。
「……お父様の口から、聞きたかった、です」
「うん。そうだね」
「お父様、お父様……」
まるで幼い少女に戻ったように、声をあげて泣くのを止めることができなかった。ヴィンセント様はそれを咎めることなく、優しく抱き締め、髪を撫で、背中をさすって側に居続けてくれた。
しばらくしてそうしていると、しゃくりあげながらも、ヴィンセント様の腕の中で少しずつ落ち着きを取り戻した。冷静さを取り戻すと、とたんに恥ずかしさで体が熱くなった。
想像もしていなかったお父様の話を聞いて、子どものように泣きわめいてしまった。それが恥ずかしくてたまらない。
コメント
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うわあ……この回、本当に胸にきました。ヴィンセント様が全てを知っていて、それでもヴェルヘルミーナを待っていてくれたという温かさ。そして何より、お父様の本当の想い——厳しさの裏にあった深い愛情が明かされるシーンにはもらい泣きしそうになりました。「花嫁姿を見たかった」という言葉に、涙が溢れる主人公の気持ちが痛いほど伝わってきます。伏線がここで美しく回収された感じ、好きです。
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