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暗闇で小さな音がする。段々と大きくなる、規則的でそれでいて不規則な音がする。

地球が動く音。

俺の、心臓が響く音。



「…眩しい」


暗闇の先、目覚めた脳が認識したのは溢れんばかりの光。

雨雲が去ったあとの太陽の眼差し。


「あ、起きたよ〜」

「やっと起きたねぇ、疲れてたのかな?」

「丸三日寝られてたら心配するわ、起きてくれてよかった〜」

「良カッタネ」


風の音と共に、聞き覚えのある声が三つ、知らない片言の声が一つ耳に流れ込んできた。

どうやら俺は気絶したあと捕まったらしい。

スラムのみならず辺り一帯でも有名な俺を捕まえたのなら、さっさと殺してくれればいいものを。


「ってことで、起きたばっかりで悪いけど君は俺等に捕まったので俺等の仲間になります!」

「…はあ゙?いや待て待て待て、そこは虜囚か奴隷か殺処分やろ普通」

「いや、発想が物騒…w」

「ソウシテホシイノ…?」

「まああれだけ殺意マシマシで追いかけられたらそういう考えにもなるよねw」

「え、これも俺のせいなん〜?w まあいいや、とりあえず仲間になるのは強制だから!言っとくけど、殺してほしくても無理だからね☆」


顔がウザい。

そして相手に有無を言わさぬこの喋り方が余計にキレたくなる衝動を増長させてくる。

それを抑えて、努めて冷静に質問を投げかけた。


「いや、別にんなこと言わへんけどまずこの状況を説明しろや」

「正論言ワレテルヨ」

「あんなことがあった後にこんな冷静なタイプ初めて見た…」

「まあまあ、じゃあとりあえず皆自己紹介でもする?」

「じゃあ改めて自己紹介〜。俺はコンタミ。よろしくね」

「…レウサァン(泣)」

「あー…こちらが緑君です。俺はレウクラウドだよ〜」

「で、俺がらっだぁ。よろしく、”堕天使”さん?」


(俺を初めに追いかけてきた“首領”が”らっだぁ”、驚かしてきたのが”コンタミ”、らっだぁにツッコんでたのが”レウクラウド”、片言ヨッ◯ーが”緑君”…らっだぁとコンちゃんとレウさんとどりみーでええか)


軽く深呼吸をする。”スラムの堕天使”じゃない『名前』を言うのはいつぶりだろうか。


「堕天使ちゃう…俺は、金豚きょーや」

「金豚きょー…じゃあきょーさんね。これからよろしく」

「いやまだ俺は仲間になるとは一言も言ってへんからな?」

「そうだよらっだぁ。強制はよくないっていつも緑君に言われてるでしょ?」

「えーでも、きょーさんって俺等の仲間になるの蹴ったらまた指名手配犯に逆戻りだよ?」


平然とした顔でそう言い放つらっだぁ。


「…は?」

「え、知らないの?今や国内では結構有名なのに〜」

「何回も見つかってるのに捕まらないから国家とか警察とかがキレてるんだよ、証拠は無いけど」

「そこはまあ相手の逆恨みみたいな感じ」


知らないうちに指名手配されているのは本当に心臓に悪いから辞めてほしい。

というか、国にまで目をつけられていたのは心外だ。

俺に目をつける暇があるのなら、スラムの治安をどうにかしてくれないだろうか。


警察に心の中で反撃していると、緑君が口を開いた。


「⋯デモ、キョ−サンガ殺人犯ナノハ事実デショ」


真っ直ぐに突き立てられる言葉。

ゆっくりと深呼吸をして、俺はそれを飲み干した。


「…まあな。食ってくためやねん、金は自分で稼がなアカンし、宿主は信用性0やし…」


思い出しても腹が立ってくる。あの宿主はいつか散々に叩きのめそうと心に決めた。


「でも、きょーさんが俺等の仲間になれば指名手配チャラに出来ると思うんだよねー」

「は…?どういうことや、お前ら警察ちゃうやろ」

「んーまあね。でもまあ、それに対抗する組織だから」

「そうだよ。別名”裏社会の警察”って言えば分かるんじゃない?」

「っ、…お前ら…マフィアか」

「せーいかーい。で、どうするの?」


首を傾げて微笑むらっだぁ。圧をかけるなと横からレウさんに注意されている。


正直言って、指名手配されていたのは意外だった。

スラムは警察も手を出さない無法地帯だから、俺も捕まる確率は低いと踏んでいたからだ。

しかもそれを帳消しにしてやると言っている奴らなど信用できないのは当然。

こいつらは何を考えて、こんな俺を仲間に誘っているのだろう。


「はぁ…ちなみに、断ったらどうなる?」

「んー、きょーさんは指名手配続行で、俺等はきょーさんを追いかけ続けるかな〜」

「うわ、それは嫌やわ…w」

「その脅迫みたいな二択やめな?」

「えーだって事実じゃん?」

「うるせぇ…じゃあお前らの仲間になったらどうなるんや?」

「俺等の仕事手伝ってもらう代わりに指名手配解除するよ」

「そ〜…れは、なんか嫌やなぁw」

「なんで?w」

「いや、なんとなくw…衣食住と報酬は?」

「勿論保証しまーす」

「ならええわ」

「…w…ww」

「あ゙?なんか文句あんのか?」

「いや…w 掌返しヤバすぎでしょ…w」

「まあまあ…w じゃあきょーさん、これからよろしくね」

「この屋敷の中では自由にしてていいからね〜」


半端に笑いながら会話が終わり、俺はそのまま屋敷内を探索することにした。




流石マフィアの屋敷とでも言うべきか、至るところに黒服が構えていることを除けば立派な豪邸。

縦に伸びた廊下に、ずらりと扉が並ぶ。窓は少なめだが換気がしっかりされていて綺麗だ。

貴族のようにゴテゴテと飾られているのではなく、あくまで暮らす場所という感じがして落ち着く。

スラム住民から見れば、これが一階分あるだけですら手の届かない高級な宿だ。


構造としては中庭を囲むようなU字型に広がっていて、庭の先は広大な草原になっている。

窓の外を眺めながら廊下を進んでいると、何かにぶつかったらしく視界が揺れた。


「わ゛っ!」

「うおっ、あぶなぁ…」

「すみません!大丈夫ですか?」


らっだぁ達とは違う声に少し驚く。

顔を上げれば、大量の資料を抱えた知らない男性がこちらを心配そうに見ていた。


「あぁ、平気や」

「良かった〜。ごめんなさい、ええと…貴方がきょーさんですよね?」

「え…せやけど」

「申し遅れました、貴方のサポートをするように仰せつかりました”近海”です。お見知り置きを」


薄紫のパーカーに同じ色の覆面をした”近海”さんが俺に向かって一礼する。

山積みの資料は、俺がぶつかったにも関わらず腕の中だ。


「…あー、らっだぁ達か」

「その通りです。わからないことなどあれば私に聞いてくださいね」

「おー…これからよろしくお願いしますわ、近海さん」

「はい。早速ですがこちらが貴方の部屋なのでご了承ください」

「おっけ、了解っす〜。あと、その資料運ぶん手伝うわ」

「本当ですか?少々申し訳ないですが、お言葉に甘えて」

「いや、普通にこの量を一人で持って歩けてるほうがおかしいんよ…w」


軽口を叩きつつ、近海さんの資料を三分の二程度持ち上げて自分の腕に抱えて着いて行った。

資料届けのついでに、さっきまでで見ることのできなかった屋敷の反対側も見物していく。

あちらこちらで黒服と鉢合わせるのが、やはりスラムと変わらなくて少し笑った。




先程指定された部屋に入ると、こぢんまりした質素な部屋にベッド、テーブル、椅子、戸棚が一つずつ。

窓からの光が丁度布団に差し込んでいて温かそうで、ぼふっと頭から突っ込んでみる。


「…気持ちええ〜…」


スラムに居たら絶対に味わえない柔さに思わずそうこぼす。

まともに寝たのがいつだったのかすら思い出せない。自分の身体が疲れていたことに今更気づく。

そのまま微睡みに浸っていると、乱暴に扉が開いた。実際蹴り開けられている。


「きょーさーん!」

「うるっさ…なにぃ?」

「御飯食べよー?」






「いきなり他人の部屋の扉蹴り開けてきたと思ったら飯かい…」

「寝てたのにごめんね〜?^ら^」

「クソが」

「らっだぁ、きょーさんのこといじめてるなら資料追加ね」

「わ〜やばいやばいごめんなさいレウママ〜」

「きょーさんはお腹空いてるだろうしいっぱい食べてね!」

「おぉ、いただきます…ママ呼びはスルーなんや…w」

「レウサンハ、ママダカラ」

「公認の漢(ママ)だよ〜」


ほわほわと湯気を立てる美味しそうな料理を口に運ぶ。

スラムを出て初めての食事。そしてたぶん、人生で初めての普通の食事。


「美味ぁ…」

「! でしょ〜?口に合って良かった。好きなだけどうぞ」


温かい料理、綺麗な家、そして仲間。これまで生きてきた中で初めての感覚。

つい最近までの、冷めたカビかけの飯と死体の転がった独りの部屋が今思えば可笑しい。




「…で、お前らが俺を仲間に引き入れた本当の理由は何なん。正直に話せや」

「流石〜。バレてたか。…まあ、単純に言えば一緒に反逆起こそうぜって感じかな」

「…反逆」

「そ。国王ぶっ倒してこの国を変えてやろー、みたいな」

「随分と大逸れた誘い文句やな。言っとくけど、これ以上俺は人を殺したないねん」


泥に塗れたままじゃ、生きられないと知っていたから、俺は『俺』を捨てなくちゃいけない。


「俺から逃げる時にチンピラを肉壁にしてたのに?」

「お前が俺しか狙ってないのがバレバレやったから障害物代わりや」

「扱いが酷い…w でも、きょーさんは殺したくないんでしょ?」

「あ゙?まあそうやけど…うわなんかすげぇ嫌な予感する」

「じゃあ殺さないで倒せばいいじゃん、気絶とかでさ。それならいいでしょ?」


倒す以外の選択肢はないのか。

というか、俺はそれが訓練しても出来なかったから仕方なく殺し屋になった。

今更いきなり出来るようにはなれない。俺は天才じゃないし、殺人の天才になんてなりたくもない。


「いや…そんな面倒なことするくらいやったら殺すわ。というか、殺人専門になる前は気絶とかの力加減分からんくて誤殺しまくってたからな、生け捕りの依頼とかで」

「怪力893…」

「あ゙???」

「ナンデモナイデスー。じゃあ殺人系の仕事任せてもいいの?」

「それ以外で倒せへんねん」  

「はいはい。じゃあ今からきょーさんは、正式に俺達『運営マフィア』のファミリーね。よろしくー」

「はぁ…まさかマフィアに入ることになるとは思わんかったわ」

「じゃあとりあえず分かんないことあったら近海さんとか俺達に聞いてね」

「んー。ほな寝るわ、おやすみ」

「おやすみ〜」


ずっと独りで生きてきたからか、そんなに期待はしていなかったと思う。

それでも、これからの未来が、少しだけ明るく見える気がする。

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