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私の夢の話の後に、横山が言った。
「俺はまだ完全に信じたわけじゃないんですけど、例えばその前世の俺が当時四十歳だったとしたらそれまでこんな感じってことなのかな……」
横山も信じていないなんて言いながら、実体験から受け入れ始めているのがわかる。
「ツクシちゃん、こういう人って、よくいるの?」
「多少の善行を重ねたくらいじゃこんなことにならないわ。国レベルで、ってのはイチゴちゃんが初めてよ。それが、もう一人だなんて! 私の三十年の占い師人生でも予想できなかったわ」
三十年? ツクシちゃんいくつなんだろ。
「で? 二人は試さないの?」
「へ?」
「は?」
同時に答える。
「抱きたくないほど大切にされちゃうイチゴちゃんと、尽くさずにはいられない男の子なっちゃん、どっちが勝つのか。興味あるわぁ」
「や、やめてよぉ」
「普通にこの人のこと抱きたいとか思わないし」
「えっ、失礼すぎない!? 私だって誰でもいいわけじゃないし」
その直後、人気のあるツクシちゃんに次の指名が入ったので、私たちも喫茶店を出ることにした。少しだけ不穏な空気。
明日は久々の女子会、サアヤとコトリに話を聞いてもらわなくちゃ。
「じゃあ、また明日ね」
「ああ。明日」
「……あ、ねぇ。前世だなんて信じてなくてもいいけど、もし妙にリアルな夢を見たなんてことがあったら教えてよ」
ただの興味本位だけど。
「わかった」
彼の返事はそれだけだった。
そんなことを言ったからかな。私はその晩また前世の夢を見た。
私は牢の小窓から月を見ていた。明日何が行われるのかわかっていながら、心は穏やかだった。恐怖心より諦めの気持ちが強くなってきたのだろう。
牢がある建物の入口の方から足音が聞こえてきた。こんな深夜だというのに人が来るなんて。そして、私には誰の足音かすぐにわかった。
婚約者の彼が牢の前にひざまづき、頭を下げた。
「こんな時間にこんな場所に来てはいけないわ」
「どうしてももう一度会って謝りたかった。すまない」
彼は何を謝っているのか。
彼はこのあたりを治める豪商の長男。元華族の我が家の娘との縁談は親同士の願いだった。そして、私も彼も楽しい家庭を築こうと誓い合った。会うたびに彼に惹かれていった。
それなのに私が二十五歳になるまで結婚に至らなかったのには、理由があった。お互いの家に入れ違いに身内に不幸があり喪が明けるのを待っていたのだ。これも運命だったのかもしれない。
その約四年間の間に、私は気づいてしまった。妹の私への婚約者への気持ちと、それを憎からず思っている彼の気持ちを。
生贄には初め、妹が選ばれた。なるべく身分の高い生娘が相応しいとされているからだ。妹はそれを受け入れた。お国のため、そして、好きな人が他の女性と結ばれるのを見るのが辛かったのだろう。
彼がもう一度謝った。だから、何に謝っているの?
目が覚めてから、夢の中での自分のセリフを反芻する。
婚約者だった彼は彼女に対し、どんな罪を犯したの?
今日は金曜日、夜から明日朝まで女子会の予定。
話したいことがたくさんある。二人の話も聞きたい!
私はそれを楽しみに仕事を終わらせ、いつものお店に向かう。
その途中、サアヤからメッセージが入った。
「ごめん!お見合いパーティーで出会ったいい感じの人とお茶してる。遅れて参加するから」
土下座のマークと一緒に送られてきた。いいよ、サアヤが幸せ掴めそうなら。
コトリとはほぼ同時に到着。しかしいきなり、
「ごめん!今日は先に帰るね。彼の残業終わりに会う約束してるの」
コトリもいい感じなのかな。後でしっかり聞かなくちゃ。
先にコトリと二人で乾杯。
「で? もう付き合い始めたの?」
「それがね、今日急に誘われて、多分だけど告白されるんじゃないかなーと思うのよね」
「なんで残業の後なのよ」
「見せたい景色があるとかなんとか」
「なるほど、夜景ね。やったじゃん、お幸せにヒューヒュー」
真面目でしっかり者のコトリは、変な男に捕まってヘマをするようなことはないはず。もしかしたら結婚までまっしぐらかもね。
とりあえず、私は親友として、彼がモラハラじゃないか、借金がないか、親との関係は普通か、隠し子はいないか突っ込みながら惚気を聞いていた。
「おまたせ〜! ごめんね。初めて当たりだと思える人だったの」
サアヤが登場した。
「そしたら、こっちはまた今度でも良かったんだよ?」
私とコトリが言う。
「でもさ、一旦冷静になってみた方がいいかなと思って。二人の意見も聞きたいし」
サアヤのお相手は、出版社にお勤めで忙しい時とそうでもない時があるそう。
「出版社なんて激務のイメージだけどね」
「そういう部署もあるらしいけど、彼のいるところは作家のところに行ったりするわけじゃなくて、事務寄り? 私にはよくわからないけど、人数も多くて、リモートも多くて、ちゃんと休みも取れるんだって」
「へー、それなら結婚してもワンオペ育児にならなくて済むかもね」
「それでも忙しい日が続くこともあるけど、アリバイはしっかり提出できるとはっきり言ってくれたところが信用できるかなと思ったんだ」
「アリバイか。出版社の人っぽいね。上手くいくといいね!」
「うんありがとう」
何度目かの乾杯をする。
しばらく飲み食いしてから、
「あ、ごめん。じゃあ私そろそろ……」
コトリがドライブデートに出発の時間だ。
「オッケー、頑張って! サアヤ、私たちはどうする?」
「イチゴが良ければ、ツクシちゃんのところ行きたいな」
あ、そういえば、横山のこと話しそびれちゃったな。メッセージで済ます内容じゃないなと、今日までとっておいたんだけど。まいいか。
会計を済ませ、外に出た。コトリとはここで解散。
私とサアヤで占い喫茶へ向かう。サアヤには「訳あって、昨日も来てるんだ。詳しいことは今度じっくり」とだけ伝えた。
「なになにー?」
と気になってはいるものの、今日のサアヤは自分のことで頭がいっぱい。いいよいいよ。今日の彼とのこと占ってもらおう!
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