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やばいな、結構むくんでる……
ないこは洗面台の鏡に写る自分を見て、顔を潜めた。
いれいす という歌い手グループを立ち上げて、先日とうとう2周年を迎えた。その間、仲間と共に必死でやってきた。そして確実に結果は出ている。これは自分たちの自慢であり、誇りだ。
今、ないこはとても充実している。長期間のライブも乗り切り、仲間との絆もより深まっているという自信もある。
しかし、如何せん時間が足りない。やりたいことが山ほどあるからと予定を立て続けで詰め込んだのは自分だ。だが普通に会社勤めもしているないこだ、両立しようと思ったらどこかで無理をしなくてはならないのは仕方ないと思っている。
昨日もいれいすの企画書を作ったり動画の編集をしたりするうちに、気がつくと日付けはとうに変わっていた。
「うわっ、目の下のクマヤバっ!」
これは人には見せられないな。化粧でごまかせるかな…
寝不足のためか妙にテンションが上がっている。独り言はだんだん大きな声となっていった。
「あー、たまには一人きりでのんびりしたいなー。」
______じゃあ交代しようか。
「…え?」
どこからか聞こえてきた声に、ないこは顔を上げた。目の前には鏡に写っている自分の顔。しかし。
______交代しよう。
鏡の中のないこが、こちらへ手を伸ばした。
ほんの一瞬、まばたきをしただけだと思う。眼を開けると先程と変わらず鏡に写った自分がこちらを見ている。しかし、鏡の中のないこは自分の意志に反してニタリと嫌な笑みを見せていた。
「え…なにこれ?」
鏡の中の自分に触れようと手を伸ばす。が、途中でビクッと手をとめた。
向こうの自分が、手を伸ばさない…?
鏡の中の自分が、口を開いた。
「ゆっくりしたいんでしょ?変わってやるよ。」
そう言うと、鏡の前を離れ洗面所を出ていった。
なんだこれ?どうなってるの?俺、寝ぼけてる?
状況が理解できないまま、ないこは洗面台から離れた。そしてドアを開けようとして……
「え?」
ドアノブが動かない。ガタガタと揺らしてみるが、微動だにしなかった。
「なんで…!」
そこで、気がついた。
いつもとは、逆の位置にあるドアノブ。慌てて周りを見回すと、全てが左右逆転していた。
もしかして…本当に入れ替わった?ここは、鏡の中の世界…?
慌てて洗面台に駆け寄り、手を伸ばす。
ガラスの向こうの景色に自分は居ない。ぺしっ、と軽い音を立ててガラスに触れた。分かってはいたがやはりガラスはないこを拒んで向こうへは通してくれなかった。
「おい、出せよ!」
大声を出してみる。強く押してみる。どんどんと叩いてみる。何をしてもガラスはびくともしない。
どうしてこんなことに……
呆然として鏡の向こうを眺める。ここから出る方法を必死で考えるが、こんなの経験したことない、全く分からない…
しばらく呆然としていたら、玄関でチャイムがなる音が聞こえた。
そうだ、今日はミーティングするためみんながうちに来るんだった。すぐに玄関のドアが開く音がした。続いて家に上がってくる賑やかなメンバーたちの声。
「おっ邪魔しまーす!」
「ウエルカムトゥーザないこはーうす!」
賑やかに入ってきたのは、ホトケと初兎のようだ。「はいはい。まずは手を洗ってきてよね。」
ないこのふりをしている何かが、ないこの口調で2人に話しかけている。はーい、と返事をして足音がこちらに近づいて来る。やがてドアが開き2人が入ってきた。