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「ホトケっち!初兎ちゃん!俺はここ!」
手を洗っている2人は鏡越しにないこと向かい合っているのに、見えていないようだ。必死に手を振り声を張り上げているのに気づく様子はない。
「今日は何するんだっけ?」
「次のファンミの内容やろ?」
躍起になっているないこには全く気づかず、呑気に会話をしている2人。
「なんか、毎日投稿とかしてるから1週間があっという間だよね。」
______ 毎日投稿とか、だるいよな。
………え?
思わず手をとめる。2人の会話にかぶさるようにして声が頭に響いてくる。
「ほんまそれな。この前までライブしてたのがもう昔のことみたいやわ。」
______ライブ終わって疲れてんのに、次から次と。「ねー。ほんとないちゃん、よくこんなに色々と思いつくよね。」
「あの行動力は、尊敬するわ。」
______巻き込まないで欲しいな。
……なんだこれ。なんで、こんな……
その後も2人の会話は続いているが、頭に響く声が口から発せられる声を黒く塗りつぶしていく。
______リーダーとか言って、自分のやりたいこと押し付けて。
______ビジネスBLとか、ほんとにキモイんだけど。
______自分が1番とか、思ってるんじゃない?
2人が手を洗い終わり洗面所から出ていった。
入れ違うように入ってきたないこのふりをしている何か。こちらを見つめて、笑った。
ないこは、その場に座り込んだ。洗面台の縁を掴んでいる手が震えている。
これが、みんなの本音?一緒に夢に向かって突き進んで来てたと思っていたのは、俺だけだった?
堪えきれず、1粒の涙が頬を流れた。
「……お前、誰や?」
その時、凛とした声が響いた。
「あにき……。」
洗面所の入口に、悠佑が立っていた。いつもは優しいその瞳が、今は冷たい光を放って鏡の前に立つないこの振りをしているなにかを見つめている。
「え、あにき、何言ってんの?俺、ないこじゃん。」
ないこの目の前で、ないこの振りをしている何かは軽く笑みを浮かべながら答えた。しかし悠佑の表情は崩れない。
「違う。お前はないこやない。ないこはどこや?お前、何をした?」
「いやいや、どう見ても俺でしょ?どうしたの、あにき?」
「みくびんなよ。お前のどこがないこやねん。ないこをどこへやった?返せ!」
悠佑が少し声を荒らげた。ないこの振りをしている何かと悠佑が睨み合う。
一瞬、ないこの振りをしている何かがちらりと鏡の方を見た。
「……!そこか?ないこ!」
一瞬を見逃さず、悠佑はないこのふりをしている何かを押しのけて鏡に向かった。
「あ……。」
「ないこ、そこに居るんか?出て、これるか?」
鏡に手をあて、悠佑が話しかける。
悠佑の手に合わせるように自分の手をあわせるないこ。しかし触れることは出来ない。
「!あにき、後ろ!」
「!」
鏡に向かっていた悠佑の後ろから、ないこのふりをしている何かが悠佑を羽交い締めにした。