テラーノベル
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第4話です。
鳥取が消えてから、広間では誰も大きな声を出さなくなった。
悲しみではない。
怒りでもない。
計算だった。
視線が、無意識に席をなぞる。
数を数える。
そして、途中でやめる。
最後まで数えてしまうと、
「減った」という事実を、
自分の中で確定させてしまうからだ。
東京は、その様子を黙って見ていた。
誰よりも早く、この場が“感情の場所ではなくなる”ことに気づいていた。
音もなく、空間が揺れる。
床に走る線は、迷いがなかった。
日本地図の輪郭が、冷たく浮かび上がる。
声と同時に、文字。
北海道
東北
関東
中部
近畿
中国・四国
九州・沖縄
「……七つ」
大阪が呟く。
「嫌な数やな」
「偶然じゃない」
愛知が即座に言う。
「四十六は割り切れない」
その言葉が、
誰かの喉を鳴らした。
「必ず、って」
福岡が乾いた笑いを浮かべる。
「選択の余地、あるんか?」
即答だった。
沖縄の足元が、淡く光る。
沖縄は、何も言わなかった。
助けられた県。
免除された県。
その言葉が、
どれほど孤立を意味するか
もう理解していた。
床が、静かに割れ始める。
見えない壁が立ち上がり、
声が、視線が、断ち切られる。
「待て!」
宮城が叫ぶ。
「話し合いが――」
言葉は、空間に吸われた。
広い。
それが、北海道の最初の感想だった。
人がいない。
選択肢も、議論もない。
「……は?」
文字が刻まれる。
北海道は、深く息を吐いた。
「なるほど」
生き残る代わりに、決められなくなる。
それが、このゲームの優しさだった。
青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島。
誰もが、
無意識に宮城を中心に置いている。
「……決めなきゃいけない」
宮城が言った。
「逃げられない」
福島が、小さく笑った。
「不思議だな」
「ずっと“残る側”だと思ってた」
「残ってる」
山形が言う。
「今も」
「違う」
福島は首を振る。
「使われてる」
沈黙。
光が、福島を包む。
「……ああ」
福島は、抵抗しなかった。
「やっぱり、そうなるか」
消える瞬間、
宮城は理解した。
復興は、継承じゃない。
消費だ。
東京は、何も言わなかった。
それが、最も影響力のある態度だと、誰よりも分かっていたからだ。
視線が、
茨城に、ほんの一瞬集まる。
――茨城。
「……理由を」
茨城の声は、
最後まで届かなかった。
東京は、目を閉じた。
否定しなかったことが、選択だった。
沈黙が長い。
誰も、
誰かを指名したくない。
だが、沈黙は、
最も残酷な合意だった。
――福井。
「……え?」
誰かが呟いたが、
その時にはもう、
福井という名前は、引っかからなかった。
語られなかった県は、
最初に消える。
「文化で決めるんか」
大阪が唸る。
「経済か」
兵庫が続ける。
和歌山は、静かに言った。
「どっちにしても、隣が強すぎる」
――和歌山
誰も、異議を唱えなかった。
反論が出ないことが、
このブロックの結論だった。
沖縄は、輪の外に立っている。
福岡が、歯を食いしばる。
「……宮崎」
誰も否定しなかった。
宮崎は、少しだけ笑った。
「端っこって、こういう時、分かりやすいな」
光が、宮崎を包む。
沖縄は、
その一部始終を、
ただ見ていた。
七つの脱落が、完了する。
壁が消え、
広間が再び一つになる。
席は、明確に減っていた。
数を誤魔化す余地は、もうない。
沖縄は、静かに言った。
「ね」
「これでも、まだ“選んでる”つもり?」
誰も、答えなかった。
東京は、視線を落としたまま、
初めて理解した。
このゲームは、
勝者を決めるためじゃない。
誰が、どの罪を背負うかを
固定する装置だ。
そして、
七大都市はまだ、自分たちが“特別側”だと
はっきり自覚していない。
それが、
この時点での
最後の猶予だった。
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続きが楽しみです