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## 第41話:『再会の工房、託される設計図』
フォート・セバーンの錆びついた街並みが、ゼストの巻き上げる砂塵の向こうへと遠ざかっていく。
ジャンクの山から掻き集めた雑多な鉄の匂いを残したまま、陸上戦艦は再び果てしない荒野へとその巨体を進めていた。
「よし、速度安定。進路、北北西――旧大戦時の自動防衛ライン跡を大きく迂回するルートに入ります。今のところ、不審な熱源や追跡の影はありません」
ブリッジでアンナが報告を上げ、艦長は深く椅子に腰掛けたまま「分かった」と短く応じた。
今回の航路において、ルカス軍による追撃の兆候は見られない。前回の盗賊団との戦闘によって、ゼストの健在ぶりと、カイル、ジュード、セレスたちの防衛能力が周辺に知れ渡ったこともあり、荒野の有象無象も容易には近づいてこないのだろう。何より、中立地帯であるフォート・セバーン周辺での戦闘をルカス軍が避けたという側面もあった。
だが、その静寂こそが、逆にこれからの嵐を予感させていた。
同じ頃、格納庫では金属を叩く高い音が一定の不協和音を奏でていた。
プロト・ウイングエックス――型式番号『GXW-00-PR』の姿は、フォート・セバーンに入る前とは大きく様変わりしていた。
「よし、シリンダーの圧着完了。ゼロ、関節のトルクを最小値でパルス入力してみて!」
「おう、やってみる!」
リンの指示を受け、コクピットのゼロがコンソールを叩く。
ウイングエックスの右肩が微かに駆動音を立て、ジャンクから再生された旧連邦製の無骨な右腕が、ぎこちなく、しかし確実に持ち上がった。
衝撃波で完全に崩壊していた背部のリフレクターとサテライトキャノンは、根元からすべて取り払われている。ウイングのなくなった背中には、ゼロが見つけ出したあの黒く焦げた試作型スラスターのブロックが、太いボルトと即席のステーで強引に固定されていた。
「……上出来ね。塗装はまだ斑だし、内装火器も死んだままだから『五体満足』とは言えないけれど……ガドルフの工房まで自力で歩いて入るくらいは、これで十分に可能よ」
リンがタブレットを見上げながら満足げに息を吐く。
ゼロはハッチから顔を出し、剥き出しになった機体の背中を見つめた。あの強大すぎる光を放っていた翼はなくなり、今はただ、実用性だけを求めた無骨な鉄の塊がそこにある。
「サテライトシステムがないウイングエックス、か。……悪かねえ。俺が自分の足で、自分の腕で掴んだパーツの塊だ。呪われたシステムに振り回されるより、よっぽど俺の機体って感じがするぜ」
「その意気よ。さあ、残りのアース線の処理を終わらせちゃいましょう」
作業を再開しようとしたゼロの視界に、格納庫の入り口に佇む人影が映った。
艦長だった。その後ろには、ミラと、少し距離を置いてノアの姿もある。
「ゼロ、リン。補修作業の手を少し止めてくれ。……ノアから、ルカス軍の動向についての証言が得られた」
艦長は重々しい口調で告げると、格納庫のモニターに、ルカス軍の拠点が点在する大陸の地図を展開した。ノアは、相変わらず冷ややかで、どこか怯えを隠すような毒のある口調で語り始める。
「……私のノワールレイスが大破したことで、ルカス(あの男)の計画はほんの少しだけ遅れるわ。でも、止まりはしない。あの男が考えているのは、ただの領土拡大や戦争じゃないもの」
「世界調律計画……セレスも言っていた、ルカスの真の目的ね」
リンが眉をひそめる。
「そうよ。旧大戦の遺産――サテライトシステムや、それに類する超高出力兵器を大陸全土の要所に配置し、同時に起動させる。それによって、既存の国家や街、ヴァルチャーのコミュニティにいたるまで、すべての『不確定要素』を文字通り一撃で焼き払うの。力による絶対的な平伏。それが、あの男の言う『調律』よ」
「……バカげてる。そんなことをすれば、世界は本当に燃え尽きちまうぞ」
ゼロが怒りを露わにする。
「人間の精神なんて信じていないのよ、あの男は。……だから、システムによる絶対的な管理が必要だと考えている。ノワールレイスも、このウイングエックスも、本来はそのための『調律のタクト』として作られた。……ふん、それをこんな薄汚れたジャンク品で継ぎ接ぎして、満足しているなんておめでたいわね」
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ノアはフイと顔を背けたが、ミラがその背中にそっと手を添えた。
「ありがとう、ノア。教えてくれて。……艦長、私たちはルカスの計画を止めなければなりません。そのためにも……」
「あぁ。ウイングエックスの完全な復活、そしてルカスのシステムに対抗しうる新たな『力』が必要だ。……だからこそ、我々はガドルフの元へ急がねえければならない。呪縛を断ち切るための設計図は、すべて彼に託してある」
艦長は静かにモニターを消した。ゼストの針路の先には、かつて旧大戦の兵器開発に携わり、今は荒野の最果てに隠れ住む天才技術者、ガドルフの工房がある。
それから数時間が経過した。
荒野の景色は次第にその色彩を失い、ゼストの周囲には、不気味なほどに濃い霧が立ち込め始めていた。
ブリッジの視界は完全に遮られ、前方の視界は数十メートル先も見通せない。人工的な霧ではない。この地域特有の、地熱と冷気が混ざり合って発生する天然の迷彩――ガドルフが身を隠すために選んだ、天然の要塞だった。
「艦長、熱源探知による地形誘導に切り替えます。……これ以上は、目視での航行は不可能です」
「あぁ、速度を微速に落とせ。センサーのノイズに注意しろ。……そろそろ、見えてくるはずだ」
霧はどんどん濃くなり、ゼストの巨体が白い闇の中へと吸い込まれていく。
格納庫のハッチから外を覗いていたゼロも、その異様な視界の悪さに息を呑んでいた。だが、ウイングエックスのゼロ・システムが、霧の向こうにある広大な「空間」の存在を、微かに感知していた。
不意に、ゼストの全高を遥かに超える巨大な影が、霧の向こうから圧倒的な威容をもって現れた。
それは、切り立った断崖絶壁の亀裂を利用して作られた、巨大な岩壁のドックだった。錆びついた強固な防壁と、無数のクレーンアームが、霧の中に静かに佇んでいる。
ガドルフの隠れ家。
ゼストの艦首がゆっくりとドックの入場ラインへと滑り込み、重い金属音を立てて固定クランプが噛み合った。プシュー、と蒸気が吹き出す音が響き、陸上戦艦は長い旅路の拠点へと、ついに到着した。
タラップが下りる。
霧が晴れかけたドックのプラットホームに、一人の小柄な老人が、杖を突きながら立っていた。深い皺の刻まれた顔、鋭い眼光。
ガドルフが、そこにいた。
「――待ってたぞ、久しいな。それに、小僧(ゼロ)もな。……ずいぶんと無茶な壊し方をしてくれたもんだ」
老技術者は、中破したウイングエックスの無骨な右腕を見上げ、不敵に笑った。
呪われた翼を捨て、新たな『ディバイダー』へと生まれ変わるための、運命の歯車が静かに回り始めた。
**次回予告**
ガドルフの工房に到着したゼロを待っていたのは、歓迎の言葉ではなく、偏屈な老人が突きつける過酷な試練だった。
「今の段階のウイングエックスに、ディバイダーの設計図を渡すわけにはいかん。小僧、まずはこの任務をこなしてこい」
託されたのは、新装備の核となる特殊機器の調達。
しかし、その場所はは旧大戦時の自動防衛システムが今なお生き続け、あの漆黒の機体に襲われた忘却の都市だった
次回、『忘却の都市、再び』
**「試練だか何だか知らねえが、売られた喧嘩は買うのがヴァルチャーだろ!!」**
コメント
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なつみかんさん、第41話読了しました!サテライトキャノンを失ったウイングエックスが、ゼロ自身の言葉で「自分の腕で掴んだパーツの塊だ」と語る場面、すごく沁みました。呪われた力から解放されて、初めて本当に自分の機体になった感じがして……ノアの証言で明かされたルカスの「世界調律計画」の恐ろしさもゾッとしましたね。霧の向こうから現れるガドルフの工房、老人の不敵な笑顔も秀逸でした。次回の「忘却の都市」、どんな試練が待っているのか楽しみです!