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「えええ、ここで撃っちゃうんですか……」
「ここで撃たなくてどこで撃つんだ、折角狩れそうな獲物をみすみす見逃すわけにはいかねえって魂胆なんだろ」
「少し前まではネームドに狩られる側だったのに……目まぐるしい変化ですね」
「あいつのレーザー、あんな威力だったか?威力につられて、心までデカくなっちまったのかもな」
「そうかもですね。下手したら、僕らまで狩られてしまうかもしれませんし、離れますか」
「だな。……あ?任務の場所から離れてるような……あれ、任務の場所ってどこだっけ」
「え、あなたが覚えとくって話じゃ」
「は、俺様を信用したのが間違いだったな!馬鹿め!」
「この流れ何回目なんですか……」
「5回目だ。そもそもお前の物覚えが悪いからこんなんになってんだろ」
「うぅ……仕方ないじゃないですか……」
僕は、少しでも誰かの役に立ちたいと思い、身体をお借りしている天竺さんと一緒に衣川さんの所に行きました。
衣川さんが珍しく喜んでいたのが記憶に残っています。
彼曰く、僕……というより天竺さんの能力が肝要で、能力を使いたい場所を教えてくれました。
そこに能力を使ったら、能力は持ち主が死ぬと解除されてしまうからマジで死ぬな、と言われました。
でも僕はもっと役に立ちたいし、天竺さんも刺激が欲しい的な事を言っていたので、追加でとある任務をもらいました。
その任務が、簡単に言えばjealousyの部屋から「神化」に関わる物を盗んでくる、というもの。
盗む対象の物に関しては、実際に盗んできてくれたら説明する、とだけ言われましたが、それも僕らがかなり知識欲をむき出しにした結果ですし、本当は教える気がなかったものなのかもしれません。
そのjealousyの部屋の場所がかなり覚えづらくて……
何回もどこでしたっけ、と聞きに行くのを繰り返しています。
天竺さんに覚えといてくださいね、と言ってもあんな風に言われてしまいましたし。
僕は方向音痴じゃないと思うんですが、心無い事を言う人もいるもんですね。
始めて来た場所だったら5回は迷うのは必然だと思うんですが……
「はぁ……あそこの廊下曲がって右。5つ部屋があって、手前から見て三番目。要は真ん中の部屋」
「え、覚えてないんじゃなかったんですか」
「いや5回も聞いてんだぞ、覚えるに決まってるだろうが」
「あぁぁ……ありがとうございます……一生ついていきます……」
「まあそうしないとだからな……」
*
「こ、ここですかね」
「ぽいな。……多分中に人はいない」
「そんな一瞬で分かるんですか」
「勘」「えぇ……」
「……うん、ちゃんと聞いてみたけど物音はしてないな、いけるか」
「お願いします」
「任せろ、とは言えねえけど頑張るわ」
天竺さんが盗賊をやっていたらしいので、体の所有権を天竺さんに譲りました。
部屋は二畳半くらいのとても狭い部屋で、どちらかといえば倉庫に近いような印象です。
物が雑多に置かれていて、分別・陳列されていないと言う点においては倉庫よりも酷いかもしれません。
奥に僕らが入ってきた扉とは別の真っ黒な扉があり、なんともいえない不気味な雰囲気を醸し出しています。
天竺さんは扉を開けた後、物音ひとつ立てずに、でも素早く動いて物色しています。
僕も幽霊視点から動いて、見つける手伝いをしようと思い立った瞬間に、「あった」という呟きが聞こえて、なんともう対象の物を見つけたらしいと分かった時は本当に驚きました。
その目的の物は、よく仏壇とかに置かれているお香みたいなもので、
もう目的の物を見つけたし部屋から出よう……とした時に、扉の前に天竺さんが居ないことに気付きました。
彼を探すと、なんと扉とは真逆の方向に居て、しかも真っ黒い出口とは別の扉をこじ開けようとしていました。
「天竺さん、何してるんですか」
「せっかくなら探検したくね?」
「いやいやいや……死んじゃダメなんですよ!」
「なんかつまんないだろ、こんな早く終わったら」
「いいんですよつまんなくても……!命大事に行かないと」
「こんな怪しいところ、もしかしたら脱出のヒントとか……お前の体とかもあるかもしれないぜ」
「で、ですから僕の体は下の病院に……」
その時、
「~~~~!!」
「~~。ーー」
会話の内容までは分かりませんでしたが、誰かが話している声が聞こえました。
この部屋がある廊下で話しているようで、その声はどんどん僕らがいる部屋の方に近づいてきます。
まずい、とはいえ部屋から出たらバレてしまうし……と思っていた時、天竺さんが黒い扉の中に入りました。
少しギギッという音が鳴りましたが、特に気にならない程度です。
扉の中も相変わらず薄暗く、しかも狭くて埃まみれになりそうな感じで、居心地がいいものではありませんでした。
天竺さんは壁に寄りかかって完全に気配を消しています。
扉が開いて、jealousyの部屋に人が入ってきました。
もちろん部屋主であるjealousyさんと、あと一人は……誰でしょうか、暗いせいで顔がよく見えません。
二人は散らばっているたくさんの物から何かを探している様でした。
部屋の持ち主本人にも明確な居場所は分かっていないらしく、そのことについて愚痴られていたりもしました。
ただ、もう一人の方が一方的にjealousyさんに罵詈雑言を浴びせている感じで、jealousyさんは特に反応しておらず、二人の仲がいいものとは到底思えません。
しばらく物色した頃でしょうか、もう一人の方が立ち上がると、少し大きめの声でこう言いました。
「……ない」
「ない?」
「ない……ないんだ、神化香がなくなってる」
「まぁないんだったらしょうがないでしょ」
「黄楽天様は如何なるんだ!!」
「いや別に神器ごと」
「良くない!!はぁ。全く何処にやったのだ」
「僕の部屋にあった気がしたけどな」
「何時までものんきだな貴様は。此方の苦しみを理解していないのか」
「なんか大変だね」
「全く……死体安置所にでも行くとするか、まだ在る可能性も否定できん」
そう言って二人は出て行ってしまいました。
この話から分かる通り、おそらく僕らの目的物のお香のようなものは「神化香」という名前のようです。
そして、jealousyさんともう一人の方もそれを狙っていると。
やはり見つかると危なさそうですね、なんて声をかけようとした時に、天竺さんが寄りかかっていた壁が一瞬消えたように見えました。
目をこすったりしてみますが、本当に壁が消えていて、天竺さんもそれに気づいて離れようとしますが、
意識が薄れ、気づくとどこか別の場所に飛ばされていました。
その場所は、以前よりは明るくなっていて、でも何もない空間です。
ホールみたいになっていて、壁と床と天井以外何もなくてとても不気味な空間です。
しかも、四方が壁に囲われているわけではなくて、廊下の一部に転送された感覚で、先に終わりが見えません。
天竺さんがいるからなんとかなっているけれど、もし一人だったら怖くて動けなくなっていそうです。
「え」
「どこだここ、小指分かるか?」
「いや……存じ上げないですね」
「お前が知らない場所なんてことあるか?」
「普通に行ける場所は大体知ってるので……普通は行けない場所なんでしょうね。バグ技みたいな」
「変な所すぎるな、歩いて行くしかないし。……やっぱだりぃ、お前代われ」
「え」
「久しぶりに盗みしたせいで、疲れちまっててな。歩きたくねぇんだよ」
「いやそういうノリで入れ替わるのはちょっと」
「よろしくな、助かるぜ」
えええぇぇぇぇぇ……
いや確かに終わり見えないし結構歩きそうだけど……
僕だって歩きたくないんですが……体力無い方だし……
まあでも天竺さんのおかげな所はあるし……
「いいですけど、僕歩くの凄く遅いですよ」
「いやいや、流石にそこまで酷くはないだろ。耐えられなくなったら戻るから」
「……知りませんよ?」「どういう脅しなんだよ」
10分後……
「……代わってもいいんですが」
(天竺さんが敬語になってる……)
「代わりましょうか」
(今までもそこそこ代わろうかって言ってきてたけど、ペース上がってきてるな)
「代わらせてよろしいですか」
(遅いって言うことをものすごく遠回しに伝えようとしてくれてるけど、敬語がおかしくなってきてる……慣れないことするから……)
「……もうやだ!代われ小指!!」
「さっきまで敬語だったのに」
「もう耐えられねぇよ遅すぎるだろお前!!」
「ご、ごめんなさい」
「なんか謝られると話変わってくるだろ……」
どうせ長くは続かないだろうなと思いつつ、息が切れてきた頃、天竺さんにまた代わってもらいました。なんかごめんなさい。
天竺さんに遅すぎるって言われましたが、小走りレベルで全力で歩いてました。
足が無い生活をずっと続けてたんですから仕方ないじゃないですか……
また10分くらい経って、ようやく光が見えてきました。
そこから天竺さんがダッシュし始めて、僕は幽霊の姿のはずなのに追いつくのに時間を要しました。やっぱり遅い。
光を追いかけて行くと、そこは研究室のようになっていて、あたり一面に薬や難しい本が陳列されている棚が並んでいます。
薬草のようなものを育てている箇所もありますが、植物は全て枯れています。
どれも埃を被っていて、長い間人が出入りしていないんだろうなという変な確信があります。
そして僕たちが目を奪われたのは、中央にある大きなケースのような物です。
ケースは、大体2メートルくらいの大きなもので、高さ的には人間の腰くらいあり、
棺を連想させるような形をしていました。
棺というのも概ね合っているようで、中に横たわる人物の周りには花や手紙のようなものが入れられています。
周りの形相を考慮に入れても、何故か棺と中身だけ劣化しておらず、しっかり手入れされていると分かります。
やはり気になるのはその中身ですが、僕はその中に横たわる人物を見て、思わず言葉を発していました。
「……これ、僕の……死体……!」