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第二十話「胸騒ぎの正体」
「……いない」
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その一言が、やけに重く響いた。
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山本美憂は、立ち尽くしていた。
リビングの真ん中。
静まり返った空間。
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(……おかしい)
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胸の奥が、ざわつく。
理由は分からない。
でも——
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(なんか、違う)
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ただ出かけてるだけ。
それだけのはずなのに。
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「……美憂?」
小太郎が声をかける。
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「……ねぇ」
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ゆっくり、振り向く。
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「佳、今日どっか行くって言ってた?」
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「いや……聞いてない」
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「……だよね」
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その瞬間。
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ゾクッとした。
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(……やだ)
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嫌な予感が、形を持ち始める。
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「……探そ」
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小さく、でもはっきり言う。
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「え?」
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「探す」
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その声は、自分でも驚くくらい必死だった。
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「……うん」
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小太郎も、すぐに頷く。
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二人は家を飛び出した。
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最初に向かったのは——
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遊園地。
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「……いない」
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入口。
昨日と同じ場所。
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でも、佳はいない。
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「……次」
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すぐに移動する。
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ゲームセンター。
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中を見回す。
クレーンゲーム。
人混み。
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「……いない」
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呼吸が、少し荒くなる。
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「……喫茶店」
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走る。
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扉を開ける。
中を見る。
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違う。
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「……いない」
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何度も、同じ言葉。
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(……なんで)
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胸のざわつきが、どんどん大きくなる。
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(……なんでいないの)
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「……佳どこ行ったの」
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思わず、声に出る。
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「……どこ行ったんだよ」
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小太郎も、同じように呟く。
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二人の声が、重なる。
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「……どこ行ったの」
「……どこ行ったんだよ」
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答えは、どこにもない。
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足が止まる。
呼吸が荒い。
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「……っ」
美憂の目に、涙が浮かぶ。
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(……やだ)
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頭の中に浮かぶのは——
昨日の光景。
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一人で回っていた佳。
あの背中。
あの声。
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「……美憂」
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小太郎が、何かに気づいたように顔を上げる。
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「……昨日さ」
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「……え?」
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「最後、どこ行ったっけ」
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一瞬、思考が止まる。
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そして——
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(……夜景)
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あの場所。
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最後に立っていた場所。
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泣いていた場所。
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「……っ」
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心臓が、大きく跳ねる。
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「……あそこ」
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声が震える。
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「……夜景のとこ」
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小太郎と、目が合う。
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同じ考え。
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「……行こう」
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「……うん」
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二人は同時に走り出した。
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胸騒ぎは、もう“予感”じゃない。
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確信に近い何かに変わっていた。
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——あそこに、いる。
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そう信じるしかなかった。