コメント
1件
さにばんに飢えていたので凄く助かります…!
「ただいま…」
「サニー!おかえり!」
その日、働き詰めで疲れて帰ってきた俺を出迎えたのはまさに天使だった。なんか後光が差して見えるしなんなら猫耳と尻尾が見える(幻覚)。俺のおとうと可愛い。思ったが口に出す元気は無かった。
ふらふらとした足取りで家に上がってとりあえずアルバーンを抱きしめると、彼はおにぃくすぐったいよ、と言ってくすりと笑った。なんだかこの感覚も久しぶりな気がして、俺はアルバーンの首筋に顔をうずめてその香りをめいっぱい吸い込んだ。
「お腹すいてる?」
されるがままだったアルバーンは、よしよしと俺の頭を撫でながら問うた。
「…よりかは、眠気の方が、強いかな……」
消え入りそうな弱々しい声で返事をすれば、「じゃあお風呂だけ入っちゃお?」と言ってアルバーンが体を離す。
自分のより僅かに高い、心地よい体温が離れてしまって微かな寂しさを覚えた。
「んん、あぅばん……」
もう一度ぎゅぅっと薄い体を抱きしめれば、「ふはっ、今日のサニーはいつもより甘えん坊さんだね」なんて困ったように笑った。
どうしても離したくなくて、そのままカニ歩きでバスルームまで向かえば、あまりの可笑しさにどちらからともなく顔を見合わせて噴き出した。
こういう何気ない瞬間に、幸せだなぁ、と感じる。もちろん、一緒に出かけたり、何か特別なことがあったり、そういう時だって幸せだ。けれど、俺は何気ない日常を過ごしているときが、一番幸せだと思う。
風呂場に入るや否や、「僕が洗ってあげるね〜」と言われ、わしゃわしゃと頭を洗われる。
アルバーンはこういう時、これでもかというくらい甘えさせてくれるから、時たまどっちが弟かわからなくなる。ただまぁ、兄っぽいというよりかは、母性に近い何かを感じるけど…。
「サニー寝てない?大丈夫??」
「うーん…大丈夫…」
「絶対今寝かけてたよね!?」
アルバーンの洗い方が上手いから、と言おうと思ったけれど、眠気が邪魔をする。美容師とかのレベルで上手いと思う。
それからアルバーンも自身を洗って、浴槽に浸かった。
冷えた体がじんわりとあたたまって心地良い。
お湯のあたたかさに身を委ねていると、「あ、そうだ」と腕の中のアルバーンが此方を向いた。
「僕今日、日本語の数字の読み方勉強したんだよ!」
誇らしげにぺったんこの胸を張っているのがあまりにも可愛くて、後ろからそのまま細い身体を抱きしめた。
「わわっ、」
「じゃあ、日本語で百まで数えたらあがろうか」
そう提案してみれば、「うん!」と嬉しそうな返事が返ってきて、俺たちは浴槽で百まで数えてから風呂を出た。途中、アルバーンが7がでてくると「なにゃ…にゃにゃにゃ?」なんて言って小首を傾げるものだから、その度に「ん゛ん゛っ」っと悶えてしまった。やっぱり俺のおとうとは可愛い。
寝室に向かうと、「僕ちょっと取ってくるものがあるから!」と言って、アルバーンは寝室を出て行った。
先に一人ベッドに横になり、天井を見つめる。
なんでアルバーンはあんなに可愛いんだろうか。可愛いにも程があると思う。本当に可愛い。
というか、最近はだいぶアルバーン廃人になっている自覚がある。アルバーンがいなかったら生きていけない。
……ダメだ、疲れた頭ではろくな考え事すらできない。
と、その時。
「じゃーん、おにぃ、見て見てー!」
天井しかうつっていなかった視界の端に、にゅっと可愛いらしいサメが現れた。
ゆっくりと身を起こせば、大きなサメの抱き枕を持って、満面の笑みを浮かべたアルバーンが立っていた。
アルバーンはその腕にサメを抱き抱えたまま、俺の胸に飛び込んで来る。
両手でしっかり受け止めたけれど、俺の残り僅かな体力では支えきれずに、勢い余ってそのままベッドに倒れ込んだ。アルバーンは「わははっ」と楽しげに笑ってから、もそもそと俺の隣に移動した。
「抱き枕探してたら、これ見つけちゃって!」
つい買っちゃった、なんて言って、サメに頬ずりしている姿は可愛い。
でも、アルバーンの言葉に僅かに引っ掛かりを覚えた。寝る時は大抵、俺がアルバーンを抱きしめるようなかたちだ。アルバーンはアルバーンで、俺にぴったりとくっついている。
少し、考えてしまった。抱き枕を探している、ということは、それが嫌だったりしたんだろうか、と。
そんな俺の考えに気付いたのか、アルバーンは「あ、別にいつもの寝方に不満はないよ?」と言って、「ただ、その……」と口籠った。
「ん?」
「いや、えっと…」
何故だか言いづらそうに、あーとかうーとか言葉にならない何かを発したあと、
「その…おにぃがお仕事泊まりの日は、寝る時…いつもさみしいから…」
アルバーンは真っ赤な顔をサメに押しつけて、潤んだ瞳で此方を見つめてそんな事を言った。
どうしようもなく愛おしさが込み上げてきて、俺は思わずぎゅうっとアルバーンを抱きしめた。
アルバーンは「ふにゃっ」と潰れた猫のような声を上げた。
「はぁ、俺のおとうと可愛すぎる…」
思わず声に出して呟いたら、「おにぃもね!」と言って抱きしめ返してくる。
ちなみにサメは既にベッドの端で所在なさげに転がっていた。
そのままぽんぽんと頭を撫でてやると、しばらくして穏やかな寝息が聞こえてきた。こうしている時、アルバーンは驚く程寝つきがいい。まるで子猫みたいに。
くるくるとよく動く瞳も今は閉じられて、長いまつ毛が色濃く影を落としている。柔らかな猫っ毛を軽く梳いて、唇に触れるだけのキスを落とした。
「おやすみ、あぅばん」
いい夢を。
心の中で呟いて、俺も瞳を閉じた。