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〈ピアスをしてみました。今度会うときには、ちゃんとピアスホールができてると思います〉
翔馬にピアスのことを報告した。
由香理に教えてもらった病院で、ピアスホールを開けた。その瞬間は痛くなかったけど、夜になってだんだん痛くなってきた。お風呂に入ったら毎晩消毒しないといけないらしい。
「あいたっ、たたたっ、しみるなぁ…」
消毒しながら思わず声が出てしまう。
ぴこん🎶
《へぇ、どうしたの?今まではピアスしてなかったでしょ?》
〈はい、あの、翔馬さんに釣り合う女になりたいなって思って〉
《俺のため?ホント?すごくうれしいな、俺のために綺麗になろうとしてくれるなんて》
___あれ?なんか違うけど…
翔馬のため?じゃない、きっと自分のためだ。翔馬の奥さんでも恋人でもない私は、翔馬のために綺麗になる必要はない。私が翔馬に捨てられないためだ。でも、あなたのためにと言っておくほうがいいのかな。
〈私なんて、翔馬さんと並んだらすごく不釣り合いだから。せめて嫌われないように綺麗になりたいです〉
《その気持ちが大事なんじゃない?身なりも何も気にしなくなったら、女じゃなくなるって気はするからね》
女としては終わってると言っていた夫のことを思い出した。あの時は悔しいと思ったけど、今ならかえってありがたい。私に翔馬のような男性がいることなんて、想像もできないだろうから。
〈私はまだ女、ですよね?〉
《当たり前だ。これからもっともっといい女にしてあげるよ、俺がね》
あの日の翔馬との交わりを思い出して、ザワッと体の芯が震えたような気がした。
___もっと、もっと?
一度きりならと決めていた…はずだった。でもそんなこと、とっくに忘れている。次はいつ会えるのだろうか?どんなふうに愛してくれるのだろうか?そんなことばかりを考えるようになっていた。
〈また、会ってくれますか?〉
《そうじゃない、会ってくださいと言いなさい》
〈会ってください〉
《いいよ。あ、でもちょっと時間が取れそうにないから、それまでは声でやり取りしない?》
〈電話?〉
《そう。大丈夫、家にいる時はかけないし、周りを確認してからにするから》
家族がいないところで…たとえばどこかに車を停めてとか?そういうことなのだろう。
〈はい、わかりました〉
ぴこん🎶
誰かのLINEが入った。
《陽菜ママ!何してるの?》
澪梨、もとい武子だった。
___え?見られてる?
ここはいつものスーパーの駐車場。車を停めてスマホをいじっていてもおかしくはないけど。翔馬とやり取りをしてたことでなんとなく後ろめたくて、武子の姿を探してしまった。
《ブログ、フォローしてくれた?またゆっくりお話ししましょうね》
___なんだ、ここにいるわけじゃないのね?
ホッとして返信する。
〈また、お話ししましょう〉
これまでなら無視していただろうと思える武子のLINEにも、ちゃんと返事ができる私は、やっぱり少し変わったらしい。いい方向に変わってる気がする、と思った。
この時はぐいぐいとくる翔馬に、翔馬も私のことを好きになってて愛してくれてると私は勝手に勘違いをしていた。
ただの一度も、そんなことを言われたこともなかったのに。