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《いつなら電話できる?》
少し考えて、仕事終わりのスーパーの駐車場でならいいかな?とその時間を返事する。
〈15時半くらいなら大丈夫〉
仕事を終わらせて、急いでスーパーに向かう。初めて会った日みたいに、ドキドキする。
ぴろろろろろ…
「はい」
『ミハル?今日は仕事、早かったの?』
___しまった!正社員だった…
「あ、うん、午後から学校の用事があって午後休にしたから」
ちょっとしたことなのに、嘘をつくのにさらにドキドキする。声が震えていないかと気になる。
『そうか、大変だね、お母さんは』
「ま、まあ、そうかな」
『ちゃんとお母さんしてるんだね?俺の前ではあんな姿でも』
「え?」
つい数日前の翔馬とのデート(?)を思い出して、また心拍数が上がる。
『俺さぁ、ミハルにハマっちゃったみたい』
「そんな…」
なんて答えたらいいのかわからない。
『もっとさ、もっとしたくなった』
「…え」
甘い低い声が耳から脳まで到達する間に、私の女を呼び覚ましていく。
『ミハルはどう?また、したくならない?』
「……えっと…」
『そっか、もうしたくないか、俺のこと気に入らなかったのかな?』
「そ、そんなんじゃ…なんて答えたらいいのか」
『答え?そのまま答えてよ、したいの?したくないの?』
「…したい」
耳が熱くなる。駐車場の隅に停めたけど、外を通り過ぎる人の足音が、時々聞こえる。
『ほぉら、ミハルもしたいんだね?俺はもうしたくてたまらなくなってる、ほら』
「えっと…」
『想像してみて、俺はミハルのことを考えて熱く固くなってる。ミハルの声を聴きながら自分で刺激してるんだ…よ、そう、ミハルの唇がここを撫でたように』
___どくん!
翔馬の声が、あの時のように掠れて密やかになっていく。そして、少しだけ息が荒い?
『ミハル…ね、ミハルも自分でして、ね、ほら、俺のことを想像しながら自分の感じるとこ、刺激して…はっ、あ、ほら、早く!』
これってもしかして、昔聞いたことがあるテレホンセックスとかいうやつだろうか?でも、そんなことここではできない。誰が見ているかわからない真昼間のスーパーの駐車場なのだから。
『はっ!…早く、して。その声、聞かせて。俺をイカせて…』
何故だろう…電話の向こうで、私を想像しながらそういうことをしている男《しょうま》がいるということが、とても現実とは思えず答えることができない。
『ミハル?!』
突然大きな翔馬の声にビクッとする。
『聞いてるの?無視するの?!』
さっきまでと変わって怒号のような翔馬《しょうま》の声だった。
「あ、ごめんなさい…こんなことしたことなくて」
『ふふっ、じゃあ、ほら、しようよ、俺と初めての電話でのセックスを、さぁ!足を開いて…わかるでしょ?自分の体なんだから』
こんな所でそんなことできない、けれど、しないと機嫌が悪くなるようだし。しばらく考えたあと、“フリ”をすることにした。
車外から見えても平気なように、顔は下を向いて何かを見ながら電話をしているポーズを取る。
「こ、んな、感じ?」
声を鼻にかけて甘ったるくする。
『ちゃんと、触ってる?俺がしたみたいに指を這わせて、入れて…ほら…』
芝居をした。ドラマで見たようなセリフを思い出して、電話の向こうの翔馬が果てるまで、合わせた。
『あっ!あーっ!』
「イク…」
同時にイッタ…フリをした。
『はぁ…気持ちよかった、たっぷり出したわ。我ながらすごい。どう?ミハルは。初テレホンセックスの感想は』
「恥ずかしい」
『訓練だよ、次に会ったらもっと感じるようにね』
誰にも見られていないと思うけど、そっと顔を上げて周りを見た。夕方になって買い物客が増えてきた。
___もう、帰らなきゃ
と急に焦る気持ちを読んだのか
『じゃ、また電話するわ。電話した時はすぐ応えられるようにパンツ脱いどいて』
それだけ言うと、電話はプツンと切れた。
___そんな…
とんでもない人なのかもしれないと、いまさら思った。