成瀬「てか、待って!?アングーンってなに!?」
すぐにでも戦闘を開始しようとしている血気盛んな2人に対して成瀬は声を張り上げる。
アンリ「は?知らないの?」
津江「そーいえばそうね、成瀬ラジオ聞いてないじゃん。」
アンリ「あ〜。ま、説明は後で。今は…」
狼型アングーン「ギギギギ……バギャァァァァァ!!!」
鉄の塊と化した腕を3人に向かって振り下げるが、アンリは得意の俊敏さで回避する。他2人を見てみると、津江は手から出した鎖を壁に括り付けて跳躍し回避済み。
残るは成瀬だが…
成瀬「もうほんと、最悪すぎるってっ!!!」
腕が当たるスレスレでそう叫ぶと、拳を振り上げる。
バキーーーンッッ!!!!!
…拳の当たった所から、狼型アングーンの腕が崩れ落ちる。地面に当たったガラスが割れて壊れるように。
成瀬「本当辞めてよ、もう!!」
アンリ「…………」
津江「…もうあの子一人でいいんじゃない?」
成瀬「うわー!!!なんでまだ攻撃してくるのー!?めんどくっさいな!!」
完全に成瀬をロックオンした狼型アングーンは成瀬に攻撃を続ける。…いや、攻撃する度に身体をぶち壊され、もう狼と呼べるかも怪しいものだ。なんともグロテスクである。
しばらくしたあと、アングーンは攻撃の手を止め、その場に倒れる。辺りはオイルまみれで、成瀬は息一つ切らしていない。
アンリ「あ、勝ったじゃん。」
津江「お疲れ〜、見事な連携プレイだったね。」
成瀬「あのさ、ぶん殴るよ?」
成瀬「で、これなに?めっちゃ機械なんだけど。」
アンリ「とりま詳しい事はこのラジオ聞いて。」
津江「うちらもこれ以上のことは知らないから。」
相変わらず終末シナリオを垂れ流し続けているラジオを成瀬に手渡す。オイル塗れの手で真剣にラジオを聞くと、キラキラした目で2人を見上げる。
成瀬「てことはつまり、私達は生き残り人類ってこと?」
アンリ「ま、そうだろうね。」
成瀬「えええ!!!やば!めっちゃワクワクするー!」
成瀬の浮つき具合に、若干引いたように津江が口を挟む。
津江「貴女本気?なに、世界滅亡前は人間を恨む悲しき怪物かなんかだったの?ヤバすぎでしょ。」
成瀬「いやいや、そんなことないけどさ。ワクワクしない?なんかほら、自分が元気な時の学級閉鎖みたいで!」
アンリ「どころじゃないでしょ、人死んでんだけど。」
津江「流石におもしれー女過ぎてうちには理解できないわ。」
成瀬「えー。だってだって、コンビニのお菓子盗み放題だよ?」
アンリ「そもそもこんな荒廃しててコンビニの食いもん生きてるの?つか、滅亡から何年経ったわけ?」
津江「…其の辺何も分からないのよね、うちは滅亡前の、ふつーに学生してた時の記憶しかない。」
津江の言葉に他2人が頷く。
アンリ「とりま、外出る?」
成瀬「えー、危なくない?」
アンリ「あんたがそれ言う?」
津江「まあここにいても何にもならないし、一旦…人でも探してみる?」
アンリ「ま、そーね。」
成瀬「仕方ないかぁ、よし、行こ〜。」
外の世界は荒れ果てている。「ポストアポカリプス」その名を冠するに相応しい情景に、一行は暫し足を止めた。
3人がいたビルの前には、少し大きめの公園があった。といっても遊具があるわけではない。平らな土の上に所々あるベンチは、恐らく以前は散歩している老婦人や疲れたサラリーマンの休憩所として使われていたのだろう。妙に残る生活感。それでも、ベンチに張っているツタや、昼にも関わらず仄暗く、なんとなく寂しさに侵食される心が、人間文明の終わりをほのめかしている。
アンリ「あぁ、誰もいない。」
分かりきったことだ。でも、アンリはお互いの存在を確かめたかった。寂しさを埋める為に、誰かの返事が欲しかった。あるいは…自分がまだ存在していることを、確認したかった。
成瀬「そうだね。」
津江「アングーンも、あまりいない?」
周りを軽く見渡してみる。すると、所々に明らかにこの生活感に溶け込めていない金属の塊がちらほら。それらは倒れたまま一切動いていない。
成瀬「アングーンも劣化してしまった…?」
アンリ「あたし達がそれぐらい長い間眠っていたのか、それとも別の何者か…アングーンに殺され、淘汰されたか。」
成瀬「…とすると、アングーンの身体に欠損が見られるはずだけど…散らばってる鉄塊達には、かすり傷や骨折のような変形しか見られないね。」
津江「つまり、”それぐらい長い間”って考えた方が良いかな。でも、強い者だけが生き残るってのは間違ってないかも。」
津江はビルの中を見る。何処ぞの誰かに粉々にされた狼アングーンだが、その破片を見るだけでも元の巨大さが想像つく。
津江「ラジオで話されていた、セントラルボイドの音波。もしかしたらその音波にはある種の”適性”があって、それが高い者だけが今も生き残ってるとか。」
アンリ「ま、何にせよ戦闘しなきゃいけないタイミングが少ないに越したことないから。いいじゃん。」
成瀬「そーだね〜。…あれ、ねえ二人とも、あっちになんか光が見えない?」
成瀬が突然指さした方向に、確かに小さな光が見える。
津江「は?…あ、ほんとだ。なんか…点滅してんじゃん。」
アンリ「ワンちゃん人類の可能性アリ?」
成瀬「行ってみようよ!」
津江「そうね。」
アンリ「とにかく今は、生きてる人間見つけよ。」
アンリの言葉に2人は頷き、出発する。…因みに、言わずもがな先頭は成瀬である。
津江「アン、そこ段差気を付けて。」
アンリ「お、ありがと、ワツ。」
成瀬「思ったより草が生えてて歩き辛い!植物成長し過ぎなんだけど!!」
アンリ「なるち、そっちの草もむしっちゃってくんない?」
成瀬「おっけー!」
普段であれば簡単に歩ける整備された道も、こんな終末世界では一歩進むのさえ大変だ。
津江「いっつも箒掃いてるおっちゃんって偉大だったんだ…」
アンリ「ほんとそれな。もっと感謝しときゃよかったよ。」
文句を垂れながら歩いているが、3人の顔は明るい。何気なかった日常が急に冒険になったようで、楽しい。「人類が滅亡した」という事実がもう心に響かないほど彼女たちの心はドライであり、欠陥しているのだ。
成瀬「あ〜!ここが光の出どころだね!」
アンリ「思ったよりビル群から離れたところじゃんね。」
研究所のような真っ白な建物。ツタに覆われた様子もない、明らかに異質な建造物だ。
津江「てかこれ、どっから入るの?」
その問いに答えるかのように建物の扉が開く。中の美しいコンクリート通路が姿を現し、その建物の異質さ、あまりの清潔さがより浮き彫りになる、
津江「…わお、近未来的〜。」
成瀬「ね、入ってみる?」
アンリ「ま、そのためにここに来たんだしね。」
津江「うん、行こう。」
3人が入ると同時に扉が閉まる。もう逃げられない…
アンリ「えっ、ヤバくね?」
成瀬「なんとなく予想はしてた。」
津江「はあ…仕方ないし前に進むか…」
カチッ
アンリ「…今踏んだの誰?」
成瀬「ワツ」
津江「成瀬」
アンリ「ワツでしょ」
津江「私じゃなっ」
言い終わる前に津江の姿が消える。
アンリ「いやワツじゃん」
成瀬「うっそでしょ瞬間移動し」
カチッ
アンリ「…なにコレ、ガチ終末世界じゃん…」
カチッ
アンリ「あ」
ヒュンッ
アンリ「うわっ…どこここ、みんないる?」
津江「いる…何も見えない…」
成瀬「いるよー、何も見えないけど!」
アンリ「くっっら。電気つけよ。」
津江「ちょ、下手にいじんないほうが」
電気がパッとつく。
成瀬「わ〜、電気ついっわぁぁぁぁ!!!!???」
成瀬が後ろにひっくり返った音のほうをみると、2人はある存在を視認した。
それは長い髪と、全身真っ白な人間の型をしていた。しかし、身体の所々にはネジがついており、ひじやひざには接合装置がついている。明らかに、探し求めていた人間ではない。
それは成瀬のすぐ目の前で成瀬を見ていたが、他の二人の存在を確認すると2歩ほど後ろに下がる。そして、口を開いた。
??「…ミナサン、こんにちは。私はアングーン、生活補助指導兼遂行業務型特務機1号と申します。」
アンリ「…アングーン、だって…?」
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コメント
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成瀬ちゃん強()流石拳で黙らせる女()
お久しぶりです。生活補助指導兼なんとかみたいなのは忘れて大丈夫です。