冷たい雨が街を叩きつける夜だった。
俺はずぶ濡れの服をまとい、
足元の水たまりを避けながら薄暗い路地を彷徨っていた。
家も家族も、誰もいない。
言葉にできない孤独と不安が、体の芯まで染み込んでいくようだった。
雨音の中、靴がコンクリートを叩く音が響く。
一歩一歩、歩くたびに体は重くなっていく。
俺は、もうどこにも行き場がないと思っていた。
そんなときだった。
ひとつの光が暗闇を切り裂いた。
見知らぬ男が、傘を差し出していた。
真っ赤な髪が、雨に濡れてもなお鮮やかに輝いている。
その赤はまるで炎のように燃えていて、夜の街でひときわ目を引いた。
「濡れるなよ」
低くて落ち着いた声だった。
どこか温かみを感じる声。
俺は一瞬ためらったけれど、無言でその傘に入った。
男は自分の傘を広げ、自然に俺の肩まで覆った。
彼の体温が、濡れた体にじんわり伝わってくる。
言葉はなかったけれど、そこにある優しさが確かにあった。
歩きながら、男は自分の名前を教えてくれた。
「若井滉斗」
その名前はシンプルだったけど、どこか強さを感じさせた。
「お前名前は?」
「…元貴。」
若井の家は、想像していたよりもずっと広くて立派だった。
大きな窓からは都会の夜景が一望でき、家具はどれも高級感にあふれている
「ここにいろ。俺が面倒見る」
彼の言葉は、俺にとって初めての“救い”だった。
ずっと孤独だった俺に、初めて誰かが手を差し伸べてくれた瞬間。
その夜、赤い髪の男の家で、初めて心が少しだけ安らいだ。
暖かい布団の中で、震える体を包み込みながら眠りについた。
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