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夜が明けて、
俺は薄いカーテン越しの柔らかい光に包まれて目を覚ました。
まだ少しぼんやりしている頭を抱えながら、隣の部屋から聞こえる物音に耳を傾けた。
「元貴、起きてる?」
あの声は間違いなく若井滉斗のものだった。
高身長で赤い髪を無造作に掻き上げた彼は
俺が初めて会ったときと変わらず無骨に優しい。
俺は布団の中で身を起こし、声に答えた。
「起きてる」
しばらくして若井が部屋に入ってきた。
彼の足音はしっかりしていて、けれどどこか柔らかさもあった。
「飯食うか? まあ、オレ料理はあんま得意じゃねぇけどよ」
若井は照れくさそうに笑いながら言った。
その言葉に思わず笑みがこぼれた。
不器用そうだけど、俺のためにやってくれてるのが伝わってきたからだ。
俺はまだ少しだけ怯えていた。
過去の孤独や不安が胸に残っていて、簡単には心を許せなかった。
だが若井は違った。
金持ちの家に住みながらも
決してそれを誇示せず、普通の友達のように接してくれた。
俺はそんな彼の存在に少しずつ慣れていった。
キッチンからはパンを焼く香ばしい匂いが漂ってきて、
部屋の中がほんのり暖かくなった。
「よっしゃ、出来たぞ」
若井が皿を持って戻ってきた。
それは決して豪華じゃないけど、確かに心のこもった朝食だった。
「いただきます」
俺は少し照れながらも、ナイフとフォークを手に取った。
この日、俺は初めて「家」と呼べる場所を感じた気がした。
まだ遠い未来のことなんて考えられない。
だけど、若井滉斗と過ごすこの新しい日常が、少しだけ眩しくて温かかった。