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紅の焼殺

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紅の焼殺

7 - 第7話

♥

40

2024年12月30日

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佐喜子を殺した日の翌日、東本は半分廃人みたいな完全な無気力になっていた。


そろそろベッドから出ないといけないのだが、

佐喜子の「呪ってやる」がトラウマとなりもう誰にも会いたくない気持ちの方が勝ってしまっている。


そんな時、スマホから着信音が鳴った。

どうやら紅上から電話がかかってきたらしい。


「もしもし、紅上か」

「ああ。もう起きてたんだな」

「さっき起きたばっかだ」

「そうか。では目が覚める話かもな」

「?」

「スマホで『坂ノ束大学』で検索してみろ」

「…?おう」


そういって通話を繋いだ状態のまま検索バーに

「坂ノ束大学」と入れる。


ヘッダーには「偏差値」や「オープンキャンパス」など軒並み普通の検索結果が出てきたが、一つ異質を放つ文字が並んでいた。


「坂ノ束大学   失踪…?」

「そう、それだ。もう言いたいことは分かるよな」


坂ノ束大学っていうのは、俺と紅上が通う大学。

そこまで治安も悪くなく、少なくとも犯罪が横行するような大学ではない。


そこで失踪事件が起こったなら、俺と紅上の元カノ焼殺計画が関わっているのだということは容易に想像できる。


「もしかして…バレたってことか」

「その通りだ」

「やばくないかそれ」

「今まで沢山の人間を殺してきた中で、警察に一度もバレてないと思うか?」

「え」

「まあ、下手に動かなきゃ平気だってことだ。今まで何度かこの状況から切り抜けてきているしな。少なくとも、もう一回お前に殺人を任せたりしなけりゃ、俺たちが疑われることはないと思う」

「じ、じゃあもうあんなことしなくていいのか?」

「よっぽどのイレギュラーが無ければ任せないだろうな」

「よかった…また呪われるのはごめんだ…」

「呪われる……??」

「あー、気にしないでくれ」


また殺人をしなくてもいいっていうのはかなりありがたいが、元カノより警察のが怖いってのも事実。

出来れば紅上には連続で殺したりしてほしくないが、紅上に口出しできないし、紅上のが警察から逃げるのも得意だろう。

とりあえずは安心できるのだろうか。

結局、いつも通り紅上からの連絡を待つことにした。





薬学部に所属する森上瑛子は、幼少期からなんだかパッとしない女性だった。


勉強も平均より少し出来るくらい。

運動はちょっと苦手。

美術などの芸術系も、特段出来る物もなく、少し歌が上手くらいだった。


この大学も駅近だからという雑な理由で決め、勉強して入学した。


薬学部というのも、学校全体で見れば頭がいい方だが、医学部と比べれば難易度は低く、医学部に入れなかった人達が来るような所だった。


そのため、薬学部が第一志望という瑛子のようなパターンは非常に少なく、そこから瑛子は段々孤立していった。


そんな瑛子を明るく照らすように話しかけてくれたのが、心理学部の大島佐喜子だった。


佐喜子は、言わずと知れたこの坂ノ束大学のマドンナ。

心理学部だけでなく、他の学部でも噂されるほどの

ルックスにスタイル。

そして彼女のいいところと言えば、内面だ。


美しい薔薇にはトゲがあるという言葉があるように、綺麗な、美人な女性には何らかの悪いところがあるはずなのだが、佐喜子には全くそれがない。


なぜ無いと言いきれるかと言えば、私がこの一時間の講義中ずっと考えていても見つからなかったからだ。


ハブられ気味の私に話しかけてくれた。

私以外の誰にも平等に接してくれた。

悪口を言うやつには注意し、落ち込んでいた人を励まし、私や他の人がテストでいい点をとったら褒める。


非の打ち所の無い完璧人間だ。


さて、今日の講義の結論としては、佐喜子が誰かに殺されるような人じゃないってことだ。


そう、佐喜子は昨日から行方不明になっている。


しかも、これはあくまで噂だが佐喜子は何者かに殺された…らしい。


今日はどの学部もその話題で持ちきりで、かなり校内が荒れている。


学校のマドンナが誰かに殺された。

そうなれば荒れるのも当然だが。


まだ決まった訳じゃないのに犯人探しをする人もいたし、神隠しに遭っただのオカルト方面に持っていく人もいた。


そんな人達を横目に、瑛子はチャイムの鳴り響く教室を後にした。




「あのー、すみません、坂ノ束大学の学生さんですか?」


瑛子が大学から出てきた時、ショートヘアの婦警に話しかけられた。


「は、はい」

「今お時間ございますか?」

「えっと…これはどういう…?」

「坂ノ束大学の学生さんが複数名行方不明になっている事案についての捜査にご協力いただきたく思いまして」

「わ、私に出来ることなら」

「ありがとうございます。では幾つか質問をさせていただきます。宜しいですか?」

「分かりました」


おそらく、この警官が調べていることは佐喜子を中心とした失踪事件のことだろう。

もしかすると、私の情報が佐喜子の捜索に役立つかもしれない。

そう思い、瑛子は捜索に協力することにした。


「まず、この女性をご存知ですか?」


そういって婦警が出してきた写真にはボブくらいの髪型をした女性が写っていた。

なんだか見たことある気もするが、瑛子の記憶にしっかり残っているわけではない。


「すみません、知らないです」

「分かりました。では、この女性は?」


二人目の写真に写るロングヘアの女性も同様、瑛子は知らない女性だった。


「この方も知らないです」

「分かりました。ではこの方はどうですか?」


三人目には、瑛子がしっかりと覚えているあの人が写っていた。


「佐喜子ちゃん!」

「ご存知でしたか」

「は、はい…」

「ではこの女性について教えて下さい」

「えっと…何から話せば?」

「他の方にもお話を伺っているので、住所や学部などの情報はもう分かっています。なので、人柄や交友関係・趣味などを聞かせていただきたいです」

「わ、分かりました」


「えっと、佐喜子ちゃんはとにかく明るくて優しくて…みんなの中心でした」

「みんな…というのは心理学部の方ですか?」

「あ、いえ、本当に大学全体ですね」

「そうですか。大島さんは特別誰かと仲がいい、みたいなことはありませんでしたか?」

「うーん…みんなに分け隔てなく接してた感じでしたし…」

「なるほど。逆に、この人と仲が悪いとか、嫌われているとかもありましたか?」

「無かったと思いますけど…かなり有名人でしたし、嫌われることもありそうですよね」

「少なくともご自身で思い付く限りでは無かったと?」

「はい」

「分かりました。貴重なお時間をいただきありがとうございました」





帰り道、瑛子はイヤホンで好きな曲を聴きながら歩いていた。


殺されたかもしれないマドンナ…そう聞くと、なんだか身が引き締まる思いだが、実際殺されたんだとしたらどんな感じなんだろうという、不謹慎なような他人事のような気持ちが頭にはある。


瑛子は大学に友達がほぼ居ない。

それに人間関係で失敗したことはない。

そのため、佐喜子と違い殺されたり拐われたりなんてことはないと思う。


確かに、段々話さなくなってきている友達や元カレもいるものの、自然と消えていった感じで喧嘩になったりしたことは一度もなかった。


イヤホンが三秒ほどフリーズし、新しい曲に変わる。


聞いたことのない曲だが、アップテンポに合わせた韻を踏む歌詞が心地よい。


少し目を瞑りながら体を揺らし歩いていると、腹部に強烈な刺激が襲いかかった。


すぐさまバッと後ろを振り返ると、フードを深く被った長髪の男が瑛子の身体に何かを突き刺している。


嫌な予感がして、瑛子は足元を見た。

そして、今の状況を理解した。


腹部がじんじんと暖まっている。

視界から色が消えていく。

手が握力を忘れ、足が力を入れなくなる。

身体がカッと熱くなり、汗が吹き出してくる。


私は今、人生に一度のチャンスを消費している。


死ぬ、というチャンスを。



声すらも出せないが、なんだか助けてほしいわけでもない気がしてきた。


私は大した人間じゃないし、友達ももうこの世にいないと思われるし。


人は死ぬとき走馬灯という物を見ることがあるらしいが、私にとって楽しかったことや思い出など、思い返しても全く出てこない。

まあ一時間考えてないけど。


声すらも出さず、走馬灯も見ず、未練もなければ友達もいない。親もボケてるせいで葬式に出れない。


なんだか、私って、本当に地味だな。


せめて笑おうとしてひきつった表情が、森上瑛子の最後の姿になった。







崎野雪菜(さきのゆきな)は金山市警察特殊犯罪特別設置本部に異動された警察官だ。

今日は坂ノ束大学女子学生連続失踪事件についての聞き込み調査をしていた。


そして、今日の調査結果を帰りのバスを待つ途中で報告している。


「崎野警部補!本日の成果は如何でありますか?」


この特徴的な話し方をする男は柳田源治(やなぎたげんじ)。

彼も雪菜と同じく特殊犯罪特別設置本部に配属された警察官で、雪菜が坂ノ束大学で聞き込み調査をしていた時少し離れた住宅地で聞き込み調査をしてもらっていた。


「ん、メモにまとめといた。これ見て」

「流石であります、崎野警部補!では拝見します!」


源治は雪菜の調査結果をまとめたメモを隅から隅まで見ている。


雪菜は、正直に言えば警察という職業が嫌いだ。

警察になったのも、元から運動できるし、何より稼ぎが良さそうだからなってみた、みたいな感じだ。


でも実際運動することも殆どないし、稼ぎもそこまでだ。多分普通にアルバイトしてた方がマシだ。


それに、源治が個性的すぎるっていうのがデカい。

彼は雪菜と同じ警部補ではなく、ワンランク上の警部。雪菜の上司にあたる。なので、雪菜がこの辺りの仕事にあたっている間確実に関わることになる人物なのだが、「~であります!」のせいで集中できない。

雪菜がもっとも苦手な敬語を使わなくても何も言わないのは彼の唯一の長所。


しかも源治は雪菜と同じ年齢だ。

つまり彼の方が出世している。

もっと言えば、彼の方が有能。

普通に考えてまともなのは雪菜の方なのにどうしてこいつがこんな出世してんだよ。おかしいって…


「凄くよくできているであります!字間、行間、線の位置に色使い…目を通すだけで頭に残るような素晴らしい資料であります!」

「え、あ、ども」

「私の調査結果も概ね崎野警部補と同じでありますね、大島さんの情報が極端に多く、その他の女性は少なめという」

「なんか大島さん人気だったよね。血ダバダバも多分大島さんのやつでしょ」

「ほぼそうと思われるであります!ただ、彼女の死体が発見されていないから確証を持てないのがもどかしいであります…」

「あの血の量なら死んでるって話だったねー」


血というのは、今日の早朝、坂ノ束大学の近くの公園、鳥之瀬公園の女子トイレにて発見された血のことで、最終目撃時刻と血の乾き具合から大島佐喜子のものと思われている。

また、出血量的に失血死する量らしい。


そのため、佐喜子はおそらく殺されており、他の行方不明者二名もおそらくは…まあ無事ではないだろう。



道路を見ると、バスが近づいてきている。


「バス来たし警察署いこ」

「了解であります!」


バスに乗ると、外の暑さが嘘のように涼しい空間が広がっている。


明日は何か収穫があるといいな、と思い、雪菜はバスに揺られていた。

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