脳が段々と意識を取り戻し、少しずつ目を開けていく。暖炉のあった部屋から漏れ出る光が少し眩しく、目を薄めた。 部屋の中を見る限り、結局、あの後は何もなかったようで少しホッとした。
部屋を出てみると、まだ他の物体たちは起きていないらしく、ドアが開かれた様子も無かった。だが、何故か暖炉で寝ていたはずの物体の姿が見えず、顔でも洗いに行ったか、はたまた此処から出るために探索にでも行ったか。けれどそんなこと、私には関係なかった。興味もなかった。__はずだった。
どうにも、昨日の言葉が未だに頭から離れていないようで、何故そんなことを言ったのか。どういう意味だったのか、段々とそれに興味を惹かれた。
「・・・仕方ない。」
探しに行こう、そう決心するのにあまり時間はかからなかった。だが、暖炉の部屋の周りの部屋や、キッチン、風呂、トイレ、どこを探しても物体は見つからなかった。
私は違和感を覚えた、こんなに見つからないことがあるか?と、そこで私はある場所を思い出した。毛布を持ってくる際にあの物体と出会った場所だ。そこは未だ探していない。 もしかしたら、と思いそこに向かうと、あの物体の手が見えた。
寝ているのだろうか、そう思ってドアをなるべく静かに開けるように開けて、そして、
後悔した。
目の前には、蛆虫、蝿、蛆虫、蛆虫、蝿、蛆虫、そして、横たわ
って目が虚ろになった、下半身がない、あの物体。体に力が入るのが分かった。
一歩、一歩と確実に近づく、そして一定の距離で止まって、その物体を見た。
元から消えかかっていた目の光はとっくのとうに消え失せ、顔辺りには蛆虫が近づいている。下半身は綺麗にどこかへ消えていて、上半身だけが残っている。内臓が外へばら撒かれ、そこにも蛆虫や蝿が集まっている。正直、言葉が出なかった。冷や汗が止まらなかった。
「・・・佳。」
声は自分でもビックリするくらいに小さく、細く、震えていて、それでも、それを気にしないくらいには、ああ、コイツはそんな名前をしていたな、というなんともくだらない思考でいっぱいいっぱいだった。
助からないということは、見て取れた。だからこそ、今も尚呑気で眠っているあの物体たちには、見せてはいけないような気がした。いや、見せてはいけない、というあたかもあちら側を配慮した思考は、あまりにも失礼だった。コレは、私が見せたくないのだ。
だからこそ、何も見なかったかのように、ソッとドアを閉めて、来た道を戻った。聞かれたら答えれば良い、ただそれだけだ。場所は教えない。教えてやらない。
まるで、怪物にでもやられたかのような酷い、無残な姿は、私だけが知っていればいい。そうだ、それがいい、それが1番だ。
ああ!なんて可哀想なのだろうか!なんて哀れで、惨めで、無残な姿だろうか!
そう思ってしまうのも、そう感じてしまうのも、そう考えてしまうのも、私だけでいい。
私だけがいい
ドアを閉めるとき、佳と目が合った。いや、本当に合ったのだ、死人は目を逸らすこともないのだから。だからこそ、閉める間近に見えた佳の顔は、微笑んでいるように見えた。
ああ、なんて、なんて
なんて儚く美しいのか!
ドアを閉め、来た道を戻る際も、私の恍惚とした表情は暫く戻ろうとはしてくれなかった。