暖炉の場所へと戻ると、結構な時間が経っていたのか、物体たちは全員起きて周りを行き来していた。私が来たのを見ると気づいたあの元気な物体が何やら焦った様子で声をかけてきた。
「な、なぁ!佳の奴知らねぇか!?アイツ、どこ探してもいないんだよ!!」
肩を揺さぶる手がウザったくて思わず手を払った。パシン、という乾いた音が辺りに広がる。
「・・・汚い手で触らないで。私は知らないし、興味もない。」
冷たい声でそう言ってやった。嘘はいっていない、私は佳があんなことになっていたなんて知らなかったし、死んでいるということに興味も湧かなかったから。どうでもよかったから。ただ、あの死んだときの表情にだけ、恍惚としたものを覚えただけだから。
「えと、その、ごめん・・・」
弱々しく蚊の鳴くような細い声で謝る物体に、チクリ、と心臓が突かれたような気がした。何故?
そんな疑問を抱く前に、気づけば声を出していた。
「・・・そういえば、向こうで見たような気がしなくもない、かも」
わざとあの部屋ではなく、少し近くの別の部屋を指さした、そうすればこのバカはすぐにその部屋を中心に周りを調べる。
「本当か!?おーい!こっちで見たって!!」
案の定そのバカはすぐに決めつけて他の物体を呼び始め、その部屋へと進んだ。
「同情でもしたの?」
そう声をかけられた。後ろを向くとあの我儘な物体が、静かにこちらを見ていた。
「・・・」
「だんまり?図星だったの?なんでもいいけどさ、同情とかしないほうがいいよ。冗談とか、誂ってるとかじゃない。」
その表情からでも、つまらない冗談とは言い切れなさそうで、思わず溜息を吐きそうになった。
「・・・良いこと教えてあげるよ。俺ら、こうやって仲良しこよししてるように見えるけど、実はそんなにお互いのこと知ってるわけじゃないんだ。名前と、顔と、性別と、性格と、それから、あーー、いや、うん。その程度しか知らないんだよね。好きなものとか嫌いなものとか、なーんにも知らない。知りたくもない。」
結局のところ俺らって、互いに興味を持てない、言っちゃえば冷たい死体のなり損ないの集まりなんだ。
そう言う瞳は冷たくて悲しそうだったけれど、瞳を救ってやる気なんて、私にはなかった。
そんなやり取りをしていると、私が指した部屋に着いたのか、物体たちはドアを勢いよく開けた。そこには何もないというのに。
「あ、あれ……?ここじゃないの……?」
オロオロと周りを見たり私を見たりする弱い物体がそう言った。服をギュッと握りしめている。そこからは、手汗が滲んでいてとても気持ち悪く感じた。
「・・・・・ここだったかもしれないし、ここじゃなかったかも?」
「おいおいなんだよそれ!じゃあ周りの部屋も探すってことか??」
一言返すだけでこのバカな物体はいとも簡単に私の考えにハマってくれるのだから、有り難いものだ。
思わず口角が上がりそうになるのをグッと堪え、バカの提案に肯定の意味を示すために私は静かに頷いた。
そうすると、一人一人1つの部屋を探す羽目になり、少しげんなりしたが私はまた別の部屋を指さし、あそこを探すと告げると疑いもせずに了承されて、一人静かにアイツはバカ以下だと思いながらハズレ部屋へと向かった。
心の何処かで、どうか、見つかりませんように。なんて思ってしまったのは私だけの秘密だ。
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