テラーノベル
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「……どう? テツ。苦しくない?」
「っ、うん……大丈夫、だけど……」
耳のすぐ後ろから降る声に、イッテツは反射的に身体を強張らせる。肩、背中、腰にかけてを筋肉質な肉体に覆い被されており、両腕を外から抱きかかえられてしまえばもう、少し身を捩った程度では到底抜けられそうにない。
この体位は俗に寝バックと呼ばれているもので、イッテツが特に苦手としている体位でもあった。と言っても本格的に忌避しているわけではなく、たったひとつの明確な理由によってあえて避けていたのだ。
さて、その理由だが。
「お前のからだ冷たすぎんだけど。なんか上からかけた方がいい?」
「……いい、」
「ふぅん……うわ、心臓の音はや。ドキドキしてんの? 可愛い」
「…………っ♡」
うつ伏せになることで少し掠れた声、照りつける太陽のような体温、ただでさえ誤魔化すことのできない鼓動はぴったりと合わせられた肌越しに嫌というほど伝わってしまうし、顔の見えない体勢ゆえに『どんな顔で言われているのだろう』と余計なことを想像してしまって世話がない。
しかしそれらは全て他の体位においても言えることで、イッテツが寝バックを苦手とする理由はただひとつ。この自身をだめにする全ての状況から『逃げられない』ことだった。
声から逃げようと顔を背けても簡単に追い詰められてしまうし、重みを感じるほど密着した身体からは体温も鼓動も逃げる隙がない。どれだけもがこうと圧倒的なまでの体格差で抑えつけられて身動きひとつ許されず、一方的な愛撫に悶えることしかできないその感覚はまるで、自分がリトのためだけの道具に成り果てたような気分にさえさせられる。それがどうしても嫌だとは思えず、むしろ癖になってしまいそうなのが一番の問題だった。
──そして、リトはそのことを知らない。
「なあ、ほんとに大丈夫? 怖かったり苦しかったりしたらすぐ言えよ」
「きみ、ほんとさぁ……分かってる、から……」
「……うん。じゃあ……力ぬいて、」
つ、と腰骨の上を指が滑って、尻たぶが柔く割り開かれる。もう、腹の奥が疼いて熱くてしょうがない。きゅうきゅうと期待しっぱなしのなかをいっぱいに満たされて、指で圧迫されるだけで気がおかしくなりそうなほど感じてしまうところを、何度も何度も掻きむしられて。それを、身動きの取れない今されてしまったら、どれだけ気持ちいいんだろう。
張り詰めた怒張がぐずぐずにぬかるんだそこへ押し当てられる感覚に、イッテツは脳みそがぐらぐら煮え立つような興奮を覚えた。両腕に抱え直したクッションに鼻から下を埋めて発情しきった吐息を押し殺す。
「……挿れるぞ、」
「うん、──ぁ、はいっ、て……っ♡、ん、ふぅ゛──〜〜〜……っっ♡♡♡」
とうの昔にほぐれていたそこは凶悪なほどに大きな亀頭を難なく飲み込み、くぷん、と甘く噛みついた。肩から上を器用に丸め、イッテツは本日始めての本気絶頂を迎える。
「ッ、おい、まだ先っぽ挿れたばっかなんだけど……っ」
「ゃ゛、ッ♡♡ ら゛ってぇ♡ っきもぢ、くてっ゛……♡♡♡」
「……待ってやんねえからな」
リトは拒んでいるのか歓迎しているのか、痛いくらいに締め付けてくる内壁へと容赦なく腰を沈めていく。焦らされたせいで中枢が馬鹿になっているらしく、カリの一番太い箇所が前立腺を通り過ぎたあともぐねぐねとうねるような動きが止まらない。
「ッひ、ぃ゛♡ あ゛ァぁ……っ♡♡ っいく、あ゛ぅ♡ イ゛っ、ぐぅ……♡♡♡」
「感度やべーことになってんじゃん……っ、ずっとイってて辛くねえの?」
「づらぃっ♡♡ つらいのきもちいぃ♡♡ っ、から……やめ、ないで♡♡」
「……あー、はは、やばいね」
焦らされに焦らされたイッテツは目の前の快楽を貪るのに忙しいらしく、もはや自分が何を言っているかも分かっていないのだろう。リトはまさかの回答に面食らいつつ、今のこいつはどこまで素直に答えてくれるんだろうな、と意地の悪い考えを巡らせていた。
試しに腰骨の辺りに指を滑らせてみれば、薄い身体は面白いほどにしなった。そんな些細な刺激ですら肩を振るわせるイッテツの耳元へ、できる限りの甘ったるい囁き声を振りかける。
「……テツ、」
「んぁ、っ♡♡ ……へ、っな、なに……?♡」
「テツさあ、奥されんの苦手だよな」
「……っ、う、うん……♡」
「気持ちいいから? 気持ちよくってたまんなくて、壊れちゃいそうになるから……?」
「…………っ♡♡」
図星だ。リトに開発されきった最奥の壁は特段に快感を拾いやすく、かるくノックされただけで簡単にイかされてしまう。あまりにど真ん中を言い当てられてしまったイッテツはなけなしのプライドから、クッションを噛んで黙ることでどうにか抵抗しようとしていた。
それだけでもう、答えを言っているようなものだが。
「じゃあ、今日はやめとくか」
「……へっ?」
「だって俺、気持ちいいことしかできねえし。テツが悦くないならやんない」
「ぁ……で、でも、っ♡」
「うん?」
「……」
ここで正直に答えてしまえば自らにとって一番の弱点を晒したも同然だし、「奥いっぱい突いて気持ちよくしてください♡」なんてねだろうものなら、先ほどのようにわがままではしたないと思われてしまうかもしれない。
ただでさえ快楽と多幸感でいっぱいなイッテツの脳内では当然まともな思考などできるはずもなく、必死に言い訳を考えているうちに抽送が始まってしまった。
「──あ、ぁ、……んっ♡、あ゛……っ♡♡」
「、はー……テツん中、すっげえとろとろできもちー……んふ、テツはゆっくりすんの好きだもんな? 大丈夫だって、ちゃんと奥は避けるから……ほら、」
「ぁ、ッんぅ゛……っ♡♡ ……あっ♡ んや、なんでぇ……♡♡」
「奥はだめっていっつも言ってんじゃん。テツが気持ちよくないんだったらしないから……安心しろよ。な?」
いちばん弱いところの、入り口のぎりぎりまで掠めてから、ぴたりとそこで動きが止まる。そしてなかが勝手に期待してひくつき出した頃に、ゆっ……くりと時間をかけて引き抜かれていく。
そうして手前の弱点をごりゅごりゅとすり潰しながら暴力的なまでの質量が出ていく感覚に絶頂感がこみ上げてきても、何かが足りない。散々焦らされていたときの癖がついてしまっているらしく、じわぁ……っ♡ と染み込むようなイキ方はできても、どうしてもその先が見えてこないのだ。
あとほんの少しのストロークがもどかしくて、イッテツは我慢できず自ら腰をくねらせて刺激を追い求めてしまう。その僅かな動きもまた、上からのしかかる分厚い身体によって阻止されてしまうのだが。
「ん……テツ、腰動かしていいの? いいんだっけ」
「ぁ、ん゛ン〜〜〜ッ……♡♡ っだって、だってぇ゛っ……♡」
「うん、……なぁ、まだ奥だめ……?」
「っ♡♡ う゛ぅぅ〜〜……っ♡♡♡」
愉悦をたっぷり含んだ低い声が耳から頭、頭から全身へとまるで伝染するように侵していき、イッテツはまたしても甘いだけの絶頂へと押し上げられる。あとほんの少し、腰を揺らせば届いてしまいそうなほど近くに、こんなのとは比べものにならないくらい、死ぬほど気持ちよくなれるところがあるのに。
リトのものを迎え入れようと必死に食いしばってやまない最奥が、もどかしげにずくずくと脈打つ感覚がする。のしかかられて苦しいはずの鼓動と快楽神経が歪に共鳴し、イッテツの脳みそはとうとう、考えることを放棄した。
「──り、とく……っ♡」
「……うん?」
「っいいから、もう、奥して……♡ おねがい♡♡ 俺おかしくなっちゃうっ♡♡」
「でも……」
「……ッきもち、いいから……っ♡♡ リトくんのでっ♡ 奥まで、ぜんぶぐちゃぐちゃにさぇ゛んの♡ ほんとはすっげえ好きなの♡♡ 〜〜〜おねがいっ♡ 僕のなか、きみのでいっぱいにして……♡♡♡」
乱れた前髪の隙間から、溢れ落ちそうなほど潤みきった瞳が縋るようにこちらを見つめている。弱々しく伸びる手がリトの指を捕らえ、駄目推しとばかりにきゅっと握り込んだ。それと同時に、中途半端に挿入されたままの直腸がまるで別の生き物のように締め付け、うねり、とっとと埋めろといざなってくる。
──そこまでしろとは言ってないんだけど。想定していたより遥かに熱烈な『おねだり』に、リトは下唇を噛んでどうにか冷静を保とうとする。
それを察したイッテツは、へらりととろけた笑みを浮かべた。
「へへ♡、リトくん怖い顔してる♡ かぁっこいい……♡♡」
「……ッ、」
首の皮一枚で繋がっていた理性はそこで終わりを告げ、リトはイッテツの手首をシーツへと縫いつける。イッテツが繋がっていた指をほどかれたことに気付いた頃、リトはすでに本気の種付けをする準備が整っていた。
「……今のはお前が悪い」
「、へ? なんで──……ッッぇうう゛ぅ……っ!?♡♡♡」
リトは限界までいきり立ったそれを入り口ぎりぎりまで引き抜き、一気に最奥まで埋め直した。
とうにほころんでいたそこはもはや何の抵抗もなく、凶器とも呼べるその怒張を美味そうに咥えこんでしまっている。イッテツの頭はようやく与えられた快感にまるで着いてきておらず、いくつも疑問符を浮かべたまま四肢を歪に強張らせた。
「っ♡? んぉ゛っ♡♡♡? ──ぉ゛♡、っおぉおお゛〜〜……っッ゛♡♡♡♡」
「ッ締め付け、すぎ……っ! ……おい、あんま暴れんなって」
「っあ゛♡、やッ、これ無理゛……ッ!♡♡ きもぢっ……ぃ゛♡♡ ……ッぉ゛おぉっ♡♡♡」
びゅぐっ、と微かな振動を感じ取り、イッテツがいわゆる『ところてん』をしたことを察する。射精したんならちょっとくらい待っておいてやろうかな、と考えかけてやめた。
リトは反射的に暴れようとする細い手足を抑え込み、ゆっくりと腰をグラインドさせることで深い余韻を促してやる。逃げ場を封じられたおかげで快楽の波は一切引くことがなく、イッテツは次から次へとひっきりなしに絶頂を重ねた。
「〜〜〜っも゛♡、むり゛♡♡ お゛っ♡♡ あたま、とけぢゃ……っ♡♡」
「とけちゃうかぁ。とけちゃおうな。ほら、テツの好きなとこ……ここだろ」
「ッあ゛♡ ひィ゛っ……!?♡♡♡」
意識も朦朧としている最中にいちばん弱い最奥をこねられ、イッテツは更に絶頂を重ねた。
まるでどろどろに溶けている脳みそにきつい電流でも走らされたような強烈な刺激。それなのに耳元で囁かれる声は胸焼けがするほど甘ったるくて、深すぎる絶頂と大きすぎる感情に挟まれた心臓がうるさい。
「は……っすげ、きもちー……♡ ……ごめん、一回出すわ。きつかったら……ぁー、ごめん」
「なッ……んだよそれぇ゛!?♡ ぁ、まって、まって♡♡ いま奥だめ♡、感じすぎるから、っだめ……ぇえ゛……ッ♡♡」
なかの感触を味わうようにゆっくりと腰を沈められ、イッテツはまたクッションに顔を埋める。
支配欲と嗜虐欲でほとんどいっぱいになったリトの脳内は「このままだと窒息しそうだな」とぼんやり考え、イッテツの上半身を起こしてやった。もちろん、下はつながったままで。
「、は──……ぁ、やだ♡ これやだ♡、死んじゃう♡♡ っこれ、いいとこ全部当たっちゃう……っ♡♡」
「あ、そうなの? ……じゃあ、一緒に気持ちよくなろうな……?」
「ゃ、っ♡ むり、無理だって♡、これいじょ、──ぉおお゛ッ……!!♡♡♡」
またもや入り口まで引き抜かれたそれが、前立腺やら結腸弁やら敏感なところを根こそぎ掻きむしっていく。イッテツは瞳をぐるりと上へ向けて、ぶしゅッ、と少量の潮を吹いた。
ぐんと仰け反る身体を片腕で抱えこみ、リトは迫り来る後頭部に鼻を押し付ける。ふわふわ跳ねた髪の奥は、自分と同じシャンプーとほんのり汗の匂いがした。
激しく痙攣する下半身と結合部、無防備に晒された細い喉、低く甘ったるく響く喘鳴──愛おしくてたまらないその全てが今、自分の手の中にある。いくら鋼の理性を持つリトと言えど、これだけお膳立てされておいて欲を制御するなんてことができるはずも無かった。
不規則にうねる肉壺は、本人の意思とは関係なしに奥へ奥へと誘ってくる。では誘われた獣は欲望に忠実に、それに従うだけだ。ただでさえ興奮でまともな思考などできないリトは、今だけ頭を空にすることにした。
「あッ♡ だめ、またイぐ……っ♡♡、ッッあ゛ーーッ♡♡♡ っあ゛……〜〜ッっ゛♡♡ んぉ゛♡ ぉお゛お……っ♡♡♡ ……〜〜ッも、こぁ゛、れぅ゛♡♡」
「ふッ、ふー……っ、もうちょい、だから……がまんして、」
「っ゛、はやく♡ はやくイって♡♡、ぁ゛、くる♡♡ ッイ、ぐぅ……っ!♡♡♡」
「っお前がイってどうすんだよ……」
口先では冷静を装いつつも、ぎゅううっ♡ と締め付けるなかに射精欲がぐっとこみ上げる。目の前の愛しい人に種を植え付けるべく、リトは一層激しく腰を打ちつけた。
「、ぁ゛ーー……っ、出る、イく……──っう、ぐ……ッ♡」
「あ、あ゛ぁァあ……っ♡♡♡♡ っ♡ ぁ、あ゛は♡ ……〜〜〜〜ッっ゛♡♡♡」
肉付きのよくない尻に腰骨がぶつかるほど奥まで杭を打ち、リトはここに来てようやく一度目の射精をした。今までの焦らしでリト自身も散々我慢させられていたので、全身の力が抜けるような強烈な余韻がいつまでも終わらない。
そのリトに抱え込まれているイッテツはというと、耳元に獣の唸り声のような吐息を吹きかけられ、震えながらシーツに新たな染みを作っている。
「ッう゛……はぁ……っ、……ん、テツ、ちゃんと息できてるか……?」
「っむり、できな……ッ♡♡」
「うわ、顔あっか……!? やばいな、ちょっと休憩しようなー……」
イッテツが息を詰まらせていることにいち早く気付いたリトは、なるべく刺激を与えないようゆっくりと自身を引き抜くと、薄い身体を半回転させて上を向かせてやった。生憎、全ての神経が過敏になっているイッテツはそれだけで軽く絶頂してしまうのであまり意味は無かったが。
普段は血色の悪い彼が胸元までを真っ赤に染めて肩で息をしている姿は見慣れていても慣れることはなく、色々な体液を垂れ流してびくびく悶えているところまで愛おしく思えてしょうがない。
ぐしょぐしょのシーツに押し付けられていた腹から前腿までが乾き出した頃、イッテツはようやく徐々に意識を取り戻してきた。
「、はぁ……っ♡、……ッし、死ぬかと思った……っ♡」
「ごめんて。お詫びにさ、テツのして欲しいこと、何でも一個聞いてやるから」
「……何でも?」
「うん。何でも」
「、お詫びじゃなくて、ご褒美がいい」
「……うん。じゃあ、それでいいよ」
こうして生意気な口を聞いてくるあたり、かなり意識がはっきりしてきたのだろう。しかしリトも好き勝手した手前どんなことを要求されても文句は言えない。
一体これから何をさせられるんだろう。さっきあれほど辛そうにしていたのだから、やり返すために寸止めか、潮吹きか、それともあの動画でしていたようなことだろうか?
イッテツは言い渋るように唇同士を擦り合わせ、たっぷり潤んだ瞳でリトを見上げた。
「…………キス、したい」
「んぇ、キス……?」
「だって今日、一回もしてもらってない、から……さっきみたいな焦らすやつじゃなくて、ちゃんと深いやつ……」
「……」
「…………、」
──いくらなんでも可愛すぎやしないか……?
リトはおずおずと呟かれたあまりにもいじらしい懇願に、心拍数が急激に跳ね上がるのを感じる。つまり、あんなに早く反応したあとでやたら時間をかけていたのは、どうやり返してやろうかと長考していたのではなく単に『恥ずかしかったから』ということで。それはちょっと、可愛すぎるかもしれない。
思わず言葉を失っていると、こちらを見上げるアメジストが不安そうにゆらりと揺れた。庇護欲が爆発しもはや当初の目的など忘れたリトは慌てて首を縦に振る。
「っ……わ、分かった。してやるから、そんな顔すんなって……」
「ほんと? ……今回はいじわるしない?」
「、……うん。しない」
疑わしげに問い詰められ、リトは思い出したように嗜虐欲を覚える。可愛くてしょうがない恋人を手酷くいじめてやりたい気持ちと思いきり甘やかしてやりたい気持ちがせめぎ合って、頭がどうにかなりそうだ。
乱れた前髪を丁寧に梳かし、濡れた目尻を指先で拭ってやる。何度も泣かされたせいで頬が冷えてしまっている。リトはそれを熱いてのひらで包みこんで、すり、と慈しむように撫でた。
そうこうするうちに、弱々しく伸ばされた腕がリトの首の後ろで組まれる。どうやら逃がしてはくれなさそうだ。
「……ほら、目とじて」
「やだ」
「信用ねえなあ……じゃ、するからな」
「うん……っ、……?」
期待に震える唇にたった一度、ちゅ、と軽いリップ音を立ててそのまま離す。
──騙したな、と見開かれた瞳に小さく笑うと、微かに開いた唇に思い切りかぶりついた。
「──っぁ、ん、む……っ!♡ っん、んン゛ぅ……♡♡」
「、ん……はっ、必死でかわいー……」
待ち望んでいた深いキスに、イッテツは二度と離さんと言わんばかりに食らいつく。どこか泣きそうにも思える喘ぎ声は甘く濁って上擦っている。喫煙者、特にチェーンスモーカーは口寂しさに耐えられないとよく聞くし、よほどリトとのキスが恋しかったのだろう。
こちらを急かすように舌を絡めるイッテツにリトはまるで大きな犬の相手をしているような気分になった。
「んふ……ふ、落ち着けって……そんなに俺とキスしたかった?」
「う……うん、そうだよ……っ♡、……だから、もっと♡」
「はいはい……ほら、舌出せ」
「……っ♡、んぁ……♡♡」
焦らされたせいでいつもより快楽に弱くなっているイッテツは、言われるがままに唾液をたっぷり纏った赤い舌を躊躇なく差し出した。
──さすがに無防備すぎるな。少しいじめすぎたかもしれない。リトは内心苦笑しながらもてらてらと艶めく美味しそうなそれを強めにぢゅっ♡ と吸ってやる。
「っ、んぅ゛……♡♡ はぁっ……すき♡、すき♡♡ リトくんとキスするの、きもちい……っ♡♡」
「ん……ふは、テツは俺が好きなの? 俺とちゅーすんのが好きなの?」
「だから……っン♡、いじわる、しないでよ……──きみが好きだから、きみとキスするのが好きなんじゃん……♡」
「……ぁー、そうね。……知ってる」
まずい。今日はどこかつっけんどんな態度が多いせいで、いきなり素直になられると一段と破壊力がすごい。返事に困ったリトはとりあえず曖昧に受け流すことにして、これ以上掻き乱されないようにさっさと口を塞いでしまった。
できるだけ隙間のないよう唇同士をぴったり合わせると、イッテツの反応をみながらその狭い口内をまさぐる。せっかくイッテツが好きだと言ってくれたのだから、といつも通り鋭利な歯列をなぞって、舌の根を突っつき、じゅわりと湧いた苦い唾液を飲み込む。特に弱い上顎をぬるりと舐め上げて、ついでに舌と舌の先でツンと挨拶してやった。
リトからすれば様子見程度のつもりだったが、それだけでイッテツは背中をわななかせて軽く達してしまったようだ。あんまりにも必死にしがみついてくるのが可愛くてつい頭を撫でてやると、ただでさえ鼻がかっていた吐息が一層泣きそうになる。回された手はリトの広い背中を力なく引っ掻いて、ずりずり落ちていって、やがてゆるく抱きつくような形になった。
「ぅ゛、んン……っ♡、っは♡ ぁ、……っふ♡ うう゛〜〜……っ♡♡」
どうやらイッテツは一方的に愛撫されるのが不満なようで、快楽に苛まれつつも懸命に舌を伸ばしてくる。それがどうにも可愛くて仕方なくて、リトはわざと口内の敏感なところや特に粘膜のやわいところを狙って責め立てた。
それでもイッテツは少しも離れようとしないので、段々と息が続かなくなってきた。忘れていたが、そういえば彼はつい先ほどまで肩で息をしていたのだった。
薄く開いた視界には、息苦しさに顔を真っ赤にしてまだなおこちらに縋りつく恋人の姿。その様子があまりに健気でいじらしくて思えてしまって、あと少しだけ──ほんの少しだけ、苦しめてしまいたくなる。
「ッふ、……ん、ふ……っ♡ はッ♡、いき、くるし──んぐ……っ!?♡♡」
「、ン……、……ふっ♡」
離れて行こうとする唇を追いかけて、またその上から塞ぎ直す。一瞬見開かれた瞳が涙に濡れてキラキラと光っているのが分かった。
中途半端な息継ぎのせいで余計に苦しいらしく、イッテツは身を捩って逃げようとする。リトはそんな必死の抵抗を「ふ、」と不敵な笑みで一蹴し、少しも離れられぬよう細いうなじを片手で捕まえてしまった。
やがてイッテツもリトの意図を察して諦めたのか──それとも被虐の悦びを感じてしまったのか、はふはふと荒く短い呼吸をするようになる。犬のような鼻息がかかってくすぐったくて、リトは一層笑みを深めた。
「んぅ゛……っ♡ ふッ♡、ふ♡ ふーー……ッ♡ っんぐ♡ はへぇ……ッ♡♡ ──ッっんン゛〜〜……!♡♡♡」
身体が警告を出しているのか、いよいよ酸素が足りなくなってきたイッテツはきつくまぶたを閉じ、その弾みで一筋、また一筋と涙が流れる。身体のあちこちがぎゅっと強張り、どうやらキスだけで──いや、この場合はまず生命の危機とも言える呼吸困難で──絶頂してしまったらしい。痙攣の収まらない身体は徐々に腕にも力が入らなくなり、重力に従って落ちていく。
イッテツはここまで追い詰められていながらも本気の拒絶はしてこない。信用なのか諦念なのか、それともある種の『期待』なのかは分からないが、その行きすぎた従順な態度はリトをひどく興奮させた。
──とはいえ、これ以上続けるのはさすがに危険だろう。嗜虐心に支配されつつあったリトの最後の理性が働いて、すんでのところで正気に戻った。
名残惜しいがここで一度やめにしよう。リトが唇を離すや否や、イッテツは勢いよく咽せ込み始めた。
「ッ、かひゅ♡ げほ、っげほ……ッ!♡ はッ、──〜〜っのさ、首絞め、できねえからってさァ゛っ! キスで窒息させてくる奴がいるかよ……ッ!!」
「や……さすがにごめん。……まじで、ちょっと、止めらんなかった」
「……そう、言われると……さぁ……?♡」
余裕のない表情でこちらを見下ろすリトに、イッテツは酸素を貪りながら黙り込むことしかできない。手早く息を整えたリトが無体を働いてしまった身体を労るよう緩慢な動きで抱きとめてやると、かろうじて引っかかっていた腕が力なく振り落とされる。
「んは……っ♡、はーっ、はーーっ……♡ ……なに、も、おわり……?」
「いや、お前このままだとほんとに死んじゃうじゃん……どう? 気持ちよかった?」
「ん、──あ、いや ……まぁまぁかな……?♡」
「……」
たった今までとろけた顔をしていたイッテツは、はぐらかすようにふいと目を逸らした。分かりやすく煽るように、唇の先をとがらせながら。
リトはその様子を2秒見つめ、口を開く。
「……なあ、テツ」
「うん……?」
「それさ、わざと?」
何を、とは言わなかった。それをわざわざ指定するには、あまりにも思い当たる違和感が多すぎたから。
思い返せば今日はずっと『そう』だった。まるでこちらの受け答えを予想しているような生意気な反応に、抑えきれずに溢れた素直な言葉。始まりがあれだけ突飛だったものだからつい疑いもせずに乗ってしまっていたが、もしこの予感が合っているのだとしたらそれは、それは──……一瞬丸くなった紫の瞳が、すうっ、と歪む。
「あは、バレた?」
「……お前なあ、」
嵌められた。まんまと。
「──いやだってさぁ、こうでもしないときみ、手加減してくると思って。てか言ったじゃん最初に。メスガキになってあげようか? って」
「あーー、もう、おかしいと思ってたんだよなあマジで、クソ悔しいんだけど。……うわ、気付けたなぁ〜〜〜……」
「めちゃくちゃ悔しがるじゃん……思ってた反応と違うんだけど」
苦虫を噛み潰したような顔でうずくまるリトに、イッテツはくふくふ笑いながらちょっかいをかける。
完全にしてやられた。イッテツはいつも無意識なのか意識的になのか、リトを煽るような言動ばかりしてくる。それがここに来て、まさかド直球にツンデレのロールプレイをされるとは。これは今までの人生で触れてきたコンテンツの差だろう、とリトは誰にでもなく言い訳をする。
イッテツは完全にいつもの調子に戻ってしまったリトを、どこか感情に薄い膜を張ったような、淡い笑みで見つめる。
「ね、リトくん。……俺、可愛かった?」
思わず顔を上げると思っていたより近くに顔があったので、とりあえずキスを贈る。照れくさそうな反応を見るに、そんな些細な行動さえもイッテツには把握されてしまっているらしい。
「──可愛かった。てか、お前はずっと可愛いよ」
「んふ、泣かしたくなるくらい?」
「うん。甘やかしたくなるくらい」
「どっちだよ」と笑われるので、「どっちも」と返す。揶揄うようなトーンでも、その言葉が冗談でないことは長年付き合ってきた経験から理解している。
この猫のように気まぐれな恋人がたまらなく可愛くてついいじわるをしてしまうし、時には胸焼けするほど甘ったるく可愛がってやりたくなる。それを本人がこうして許してしまうから、どんどん歯止めが効かなくなるのだ。
「……ごめんね、たまに俺めんどくさくて」
「自覚あんのかよ……いいよ。お前の面倒見るの慣れてるから」
──あと、それを言うのは俺の方でもあるし。
リトは心の中だけで付け足して、すっかり水気の乾いた髪を指先で梳いてやる。それだけでだらしなく緩んでしまう頬と口元が可愛くて、また触れるだけのキスをした。
さて、これからどうしようか。穏やかな触れ合いを楽しみつつ、リトはちらりと窓際のデジタル時計に目を遣る。まだ日付けが変わって小1時間経ったくらいだが、正直に言うとここで終わるのはかなり惜しい。
そう考えているのはリトだけではないらしく、視線を元に戻してみれば妙におとなしくなったイッテツが熱の籠った目でこちらを見つめていた。思わぬところで再び嗜虐心のスイッチを入れられてしまったリトはそっと身を乗り出し、まるで小さな子供に話しかけるときのように目線を合わせてやる。
「……どうした? なんかして欲しいことあんの?」
「いや、その……」
「ん?」
分かるだろ、と上目遣いで訴えかけられるのを涼しい顔で受け流す。前髪を横に撫でつけていた手をゆっくりとずらしていき、いくらか赤みの戻った頬を愛しむようにくすぐる。
きっと、こいつが本当に望んでいるのはこんな生ぬるいじゃれ合いではないんだろう、なんてもちろん知った上で。
「っ……リトくんのいじわる……♡」
「うん、……いじわるな俺が好き?」
リトはそう囁くと、首を傾げていたずらっぽく笑う。
「うわ、ずるい」なんて軽口を叩きながらも、イッテツは内心今にも叫んで走り出してしまいそうなほど掻き乱されてしまっていて。
──やっぱりきみ、Sの才能ありすぎるだろ。イッテツは潔く負けを認め、リトの腰に自らの白い脚をするりと絡める。そのまま後ろへ倒れ込めば、構図としては『押し倒された』形となるだろう。
「……どうせリトくんも明日非番だろ。どうせならやりたいこと全部やってよ。きみが俺に──『俺だけに』したいこと、一晩中付き合ってあげるから……」
「……多分こっからは、マジで優しくできないけど」
「へぇ、良いね。期待できそう。……ねぇ、早く来なよ」
うっとりと恍惚に潤んだ目を細め、低く甘い声で誘う。リトがイッテツの顔のすぐ横に手をつくと、ギッ、と軋む音がしてシーツが深く沈み込んだ。
──今にも食らいついて来そうな水色が、じっとりこちらを見下ろしている。イッテツはそれに満足そうに微笑んで、覆い被さる巨躯を愛おしげに抱きしめた。
§ § §
「…………なんか……すごい疲れた……」
「しっかりしてくれよ体力自慢。さっきあんだけノリノリだった人が」
顔を両手で覆いながら「言わないで……」と掻き消えそうな声で呟くリトを思いきり鼻で笑う。かく言うイッテツも腰が抜けてしまっているため、リトの支えがないとベッドから降りることすらできない。
両者ともに満身創痍ではあるが、心はこの上なく満たされきっていた。カーテンの外は薄っすら白んできており、常夜灯の暖かい光も相まって、安眠するには明るすぎる。
「いやー……にしてもあれだね。俺気付いちゃったんだけどさ」
「うん、何?」
「きみがそういう……『両手で掴んでギュッとしたい』みたいな欲求をぶつけられるのってさ、今のところ俺だけでしょ? ……それならそれで悪くないなって」
いつもの調子で言うイッテツだが、その口振りはどこか後ろ向きなニュアンスが含まれているような気がした。リトはなるべく外の冷気が入らないようゆっくりと毛布の中に入り、天井を眺めてるイッテツの目をじっと見つめる。
「……お前のこと大切にしてやりたいってのも、嘘じゃないんだけど」
「ん……? あぁいや、そういうことじゃなくて……両方よ。可愛がったりいじめたり、きみのそういう愛情表現を実際に受け止められるのって俺だけじゃん? リトくんってなんだかんだキリンちゃんとかには絶対ひどいことしないし」
「まあ、それは」
「でしょ。だからさ、つまり俺は、きみにとっての『特別』なんだって思うと──……わりとね、気分良いもんだよ」
イッテツは愉快そうにそう言って、毛布の下でリトの脚と自分の脚を絡める。
「……じゃあ、テツにとって俺は? お前はそういうタイプじゃないけど、ちゃんと特別なの? 俺」
「お、珍しく弱気じゃないですか。……わざわざ言わなくたってさぁ、こんなことされて許してる時点で察して欲しいけどね。俺は生粋のMだけど、いじめられてやっても良いって思ってるのはきみだけだから」
「いや嬉しいけど……なんでそんな上から目線なんだよ
「照れ隠しだよ」
それを言っちゃ意味ないじゃねえか。リトはそう突っ込もうとして、イッテツの薄いまぶたが重そうに降りてきているのに気がついた。宣言通り本当に一晩中付き合わせてしまったことだしそろそろ眠気も限界だろう。
リトは柔らかな手触りの毛布を引き寄せ、冷えやすい肩の上までしっかり被せてやった。それに抗おうともしないイッテツは、自らを守るように添えられたたくましい腕に頬擦りをしながら、ぽつりと呟く。
「じゃあ……次は拘束ね」
「うん。……うん??」
「ほら、まずはじめはぬるいやつから……やった方が良いじゃん。道具は通販でポチッといたから……」
「ん……? ……寝ぼけてんだよなテツ、傷残るような本格的なやつはやんねえって俺言ってあるもんな。『はじめは』とか言ってまるでこの後もっとすごいことしようとしてるとか、そんなはずないもんな?」
「……んふ、楽しみだねぇ……」
「テツ〜……?」
リトが慌てて問いただそうとするも、イッテツは一足先に夢の世界へと旅立ってしまったようだ。穏やかな寝顔と間抜けな鼻笛に途方もない愛おしさを感じながら、リトは冷や汗が止まらない。
こういうときのイッテツの行動力は本気で馬鹿にならない。イッテツが頼んだらしい『道具』とやらも、きっと数日後には届いてしまうことだろう。
──こいつの性癖と好奇心に比べたら、俺のキュートアグレッションなんて可愛いもんだろ。
毛布の中でお互いの体温が混ざり合い、境目がどんどん分からなくなっていく。そうしているうちにリトもいよいよ抗い難い眠気に襲われ始め、苦い表情を浮かべたまままぶたを降ろした。
コメント
6件

いつも思うんですけどこういう行為を下品になりすぎないように文にするのうますぎません!?そのおかげでずっと見ててもまったく飽きないので助かってます。この才能は誇ったほうがいいですよ!

こッ、カキッ、くけっ…ンギャッ………(悶) …………〜…ッ……好きですッ………(泣)