東京ドームに立つこと――それは、この10人のグループにとって、そして森兄弟にとって、ただの“目標”ではなかった。
幼い頃、父と交わした約束。
一度も揺らぐことのなかったその夢は、当初は遠く、果てしない存在だった。
けれど、いつしかそれは“道標”となり、彼らが歩くべき道を照らす光へと変わっていった。
デビュー当時。
がむしゃらに駆け抜けた毎日。
ステージの上で、マイクを握りしめ、涙をこらえながら「いつか東京ドームでライブがしたい。それまで死ねない」と叫んだ日。
その言葉は、震える声で、観客席のいちばん後ろまで届くように放たれた。
深夜、眠い目をこすりながら通ったボーカルトレーニング。
発声のたびに喉が枯れ、呼吸が詰まりそうになっても、決して諦めなかった。
練習室の鏡に映る自分を睨むように見つめながら、酸欠になるまで踊った日々。
何度も足を捻り、膝を擦りむき、床に倒れ込んでも、歯を食いしばって立ち上がった。
メンバーとの衝突、葛藤、不安――
それでも、共に笑い、共に泣き、夢を語り合った仲間たち。
10人で肩を並べて見上げた東京ドームの天井。
その広大さに一瞬たじろぎながらも、「必ずここに立つ」と誓ったあの瞬間。
その記憶はいまも、昨日のことのように胸の奥に残っている。
そして──その夢の舞台に、“10人”で立てること。
それがどれほど奇跡に近いことだったか。
ひとりでも欠けていたら、ここには辿り着けなかった。
何度も崩れかけた絆を、何度も繋ぎ直して、ようやく辿り着いたこの場所。
数日後-都内某所・事務所の会議室-
窓の外には、柔らかな午後の光。
薄くかすんだ春の空が、ビルの合間から覗いていた。
会議室の空気は、普段とは少し違っていた。
どこか張りつめたような静けさと、それを破る寸前の期待。
テーブルの上に置かれたミネラルウォーターのラベルが、空調の風に微かに揺れている。
SHOOTは、MORRIEの隣に座っていた。
復帰から間もないとは思えないほど、自然にそこにいた。
隣に並ぶメンバーたちの表情も、口調も、まるでずっと一緒にいたかのようだった。
その“いつも通り”が、心の奥にじんわりと温かく滲んでくる。
壁に設置された時計の秒針が、静かに時を刻む。
その音が一瞬、やけに大きく聞こえた。
そして──
マネージャーがいつになく真剣な表情で口を開く。
「今日、急遽集まってもらったのは……大きな話があるからです」
全員が姿勢を正し、耳を傾ける。
マネージャーが、まっすぐとした目をして言葉を紡ぐ。
「……BUDDiiS、来年。東京ドームライブ、決まりました」
沈黙が落ちた。
本当に一瞬、空気が止まった。
外の車の走行音や、ビルの空調音さえも、遠ざかったように感じた。
その数秒後、まるで時間が動き出したかのように、会議室全体が爆発する。
「ええええええっ⁉︎」
「……ドーム? あの東京ドーム……ってこと?」
「マジで!? ほんとに!?」
椅子が軋む音、膝を叩く音、嬉しさが抑えきれずに飛び跳ねるような声。
誰もが思わず笑っていた。叫んでいた。涙ぐんでいた。
ひとりは机に突っ伏し、ひとりは顔を覆って、しばらく動けずにいた。
拳を握る者、手を取り合う者。
そのすべての動作が、夢の重みを物語っていた。
SHOOTは、しばらく何も言えなかった。
言葉を探しても、どれも今の気持ちを正確には表せない。
東京ドーム。
それは、かつて目指していたはずなのに──いつしか、手を離してしまった夢。
“もう、自分には届かない”
そう思ったこともあった場所。
でも、いま。
確かにその場所が、手を伸ばせば届く距離にある。
隣のMORRIEが、彼の背中に手を添えて、柔らかく呟く。
「……お前が帰ってきたから、叶ったんだよ」
「全員揃ったBUDDiiSで、ドーム、やれるんだ」
その声が、まるで心の奥に直接触れたように響いた。
目の奥が熱くなる。
でも、SHOOTはただ静かに、確かに頷いた。
「……やろう。全力で、やろう」
それは涙ではなく、“今の自分”の声だった。
覚悟と誇り、そして新しいスタートの響きを持った声。
その言葉に呼応するように、メンバーたちが次々に手を差し出していく。
ひとり、またひとり。
その手が、テーブルの中心に重なり合う。
ごつごつとした、でも温かい手のひら。
かつて喧嘩した手。
何度も支えてくれた手。
夢を繋いできた、仲間たちの手。
「絶対、最高のステージにしよう」
「今度は、誰も欠けずに」
「“BUDDiiSのすべて”を、あの場所で見せよう」
その声たちは、まるで未来へ続く道の地図だった。
SHOOTは、重なり合った手の輪を見つめ、ぽつりと──けれど確かに言った。
「……俺、もう逃げないよ」
その言葉は、決して誓いではなかった。
“自然な言葉”として、そこにあった。
FUMIYAが笑いながら返す。
「うん、もう逃がさないからねー‼︎」
その言葉に、会議室は再び明るく笑い声に包まれる。
その笑いは、迷いを焼き払うように温かくて、どこまでも澄んでいた。
まるで、東京ドームの天井にまで届くように。
数日後、公式発表。
SNSのタイムラインに、一斉に流れ込む通知と歓声。
そのすべてが、ひとつの言葉で彩られていた。
SNSと公式サイトには、シンプルかつ力強いメッセージが並んだ。
【お知らせ】
BUDDiiS ワンマンライブ史上最大規模更新!
「BUDDiiS vol.10 - Full Bloom Dream -」開催決定!
本日21:00より、BUDDiiSLAND会員先行受付開始!
皆さまぜひお越しください!
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<公演詳細>
「BUDDiiS vol.10 - Full Bloom Dream -」
東京ドーム
■2027/5/29(日) 開場16:30 / 開演18:00
全員揃って、夢の舞台へ。
ファンたちは、それぞれの場所でその情報を見つけては、スマホを握りしめ、声を漏らす。
「やった……!」「ほんとに……!」
涙を拭いながら、震える指で投稿ボタンを押す者もいた。
タイムラインには、無数の「いいね」とともに、こんな言葉が溢れていた。
「ずっと信じててよかった。
だって、SHOOTも、BUDDiiSも、
ぜんぶ、夢じゃなかったから」
end…
ご期待に添えたかはわかりませんが、素敵なリクエストをありがとうございました!
またのリクエストも、心よりお待ちしております
コメント
2件
感動しました✨ こんなにも早く物語を出してくださりありがとうございます✨ 今までで1番になる物語でした! afterトーク?楽しみです!