……もしかしてこの後の展開もあり得るのかもと、ちょっと緊張していたところへ、
外からノックの音がして、「お食事のご用意が整いました」と、仲居さんの声が聞こえた。
「は、はい!」と、びっくりして声を上げると、「これはおあずけってことだな」と、彼にフッと笑われた。
「僕が、出るよ」と、チーフが部屋の戸を開けに行くと、テーブルに盛りだくさんのお料理が次々と運ばれて来た。
「わぁー、すごいですね!」
お刺身の盛り合わせや網焼きのアワビに、伊勢海老の入ったお椀や釜飯もあって、さすが料理の美味しい旅館でセレクトしただけあって、目の前に並べられた豪勢な料理の数々に目移りがしてしまう。
「みんな美味しそうですよね。どれにしようかな……」
どれから食べようかと迷っていたら、クスクスと笑う声がして、ハッと顔を上げた。
さっきも驚いて声を上げて、笑われちゃったのに、また私ったらやらかして……。
「あっ、えっと、あの……」
気恥ずかしくなって箸を手にしたままでうつむくと、「どうした? 食べないのか?」と、チーフに尋ねられた。
「えっ……と、その……私、笑われてばっかりで……」
「ああ、僕が笑ったことを気にしてるのか? それなら気にしないでいい。君は素直でいい子だなと見とれていただけだから」
「……見とれて?」そんなところなんて、私にあったかな? と首を傾げる。
「ああ、どれも美味しそうだと料理に見入っている君が、とても愛らしくていい顔をしていたからな」
どうしよう……それってすごく嬉しいけど、やっぱり恥ずかしくって……。
「ほら、この柚子の餡かけ豆腐とか美味いから。早く食べるといい」
笑顔で促されて、お豆腐に箸を付けると、柚子の風味がまろやかに沁みていて本当に美味しくって、「ほっぺた落ちちゃいそうです」と、恥ずかしさもすっかり忘れて彼に笑顔で応えた。
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