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「はぁ…最近仕事ないなぁ…まあいいんだけど」
ちょっと前までは教官たちに連れられて、無理やり仕事に行かされていたのだけれど…
なんだか最近は練習ばかりだなぁ。
別に、仕事したいとかじゃないけど。
「お前が嫌がるから遠慮してるんだろ」
「フェルマータ…やっぱりそうなのかな…」
まあ、確かに殺人は嫌だけど!!!
それはそれ、これはこれ…というか俺、どんどん一般人離れしてる気がする…
「よし、今日は暇だし、本部にでも行くかぁ…」
という思いで、今歩いているのだけれど…
なんと、目の前に…リリーさんがいた。
リリーさんは日傘にロリータ衣装を着ていて、すごく目立っている。お嬢様感が半端ない。
「声かけないのか?」
「えっ…でも、仕事中とかだと迷惑かもだし…」
俺そんなに注目浴びたくないし…
「はぁ…おい、リリー!」
「ちょ!!」
「…ん?あら、蒼にフェルマータじゃない。偶然ね」
「あ、えと…そのー…今日はいい天気ですねー」
「…そうね。吸血鬼の私としては、暑いのが嫌で仕方ないんだけど」
「あ、あは…」
やばい、完全に歩いている人の注目を集めてしまっている!!それに気まずい…
あと、機嫌、損ねちゃったみたいかな…?なんか悪いことした気分…
「えっと…お仕事ですか?」
「ええ。ちょうど今片付けて、本部に戻るところですわ。じゃあ。私はこれで。まだ仕事が残っていますし」
「頑張ってください…」
リリーさんは、すんとしたまま、本部へと行ってしまった。
「はぁ…」
「お前、リリーのこと苦手なのか?」
「…いや、苦手ってわけじゃないけど、あのお嬢様って感じが近寄りがたくて…」
「あー…まあ、態度もなぁ。でも岸よりはましだ」
「それはねえ…」
確かに、あの人と比べると比じゃないけど。なんかなぁ…
うーん、と考えていると…
「あの、すみません…」
突然、知らない男性が声をかけてきた。
え、何…正直すごいびっくりした。こんな街中で、声をかけられたことなんてなかったから。もしかして何か困ってるのかな。
「えっと、道に迷ってしまって…」
「どこに行きたいんですか?」
やっぱりそうだった。
「あの、ここに…」
彼が地図アプリで見せた場所は、ここから歩いて10分かかるかどうかほどの、会社…ってここ、イポクリジーアじゃん!!
イポクリジーアというのは、被災地に寄付をしたり、ボランティア活動をする善人の集まりの組織。けど、ひらりさんからイポクリジーアには関わるなって言われてるんだよな…
でも、この人が困ってるなら仕方ない!
「案内しますよ。行きましょう」
「ありがとうございます…」
「おい、やめとけ」
フェルマータが耳打ちする。
「嫌だよ、困ってる人を見捨てられないもん」
「はぁ…どうなっても知らないからな」
フェルマータ、珍しく本気で咎めてる。でも、ちょっと案内するだけだし。
「あの…?」
「なんでもないです。行きましょう」
それから歩いて10分ほど。俺たちは会社の目の前に着いた。
「本当にありがとうございます…なんとお礼をしたら…」
「そんな、当たり前のことをしただけです」
「あなたの名前だけでも、教えてくれませんか…?」
「凪野蒼です。近くの高校に通っている1年生です」
「そうなんですか…本当に、ありがとうございました!」
ふー、いいことをした後って気持ちがいいなぁ…
なのに、フェルマータってば、まだ嫌な顔してる。まるで、何かを恐れ、警戒しているような。
「凪野、蒼…絶対に忘れない…」
「おいビスメル、いつまで突っ立ってるんだ!」
「あ、はい、ごめんなさい…」
彼ービスメルと呼ばれた男は、にこりと口角をあげる。
「…蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん蒼くん…」
そう呟きながら、不気味な笑みを浮かべているのだった。