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「おはよう。お母さん。今日は学校午前だけだから速めに帰ってくるね。」
「ええ、分かったわ。ピアノの練習、忘れずにね。」
「もぉ〜いつもちゃんとやってるじゃ〜ん」
「ふふ。そうね。由美は良い子だものね。ーー」
『良い子』か…そうか。そうだよね。ママが望むのはゲームや音楽、趣味ばっかりやる子じゃ無い。勉強が出来て家庭的で運動も出来て…それでいて可愛くてスタイルが良くて優しい『完璧な子』が理想だもんね。
「行ってきます」
「車に気をつけるのよ」
「はーい」
何事にも『正解』が存在する。
国語も数学も化学も古典も。
勿論のこと、美術も道徳も。聞かれた時の受け応えにも『正解』は存在する。
よく学校の先生は言う。『学校は間違える場所』だって。馬鹿馬鹿しい。間違えたら『違うんだけど。』とか『これ、前やった筈だよね?』とか責めるクセに。だったら最初から言うなって感じ。
何が『正しい』か、わからないまま『”曖昧”な正義』を振り翳して。でも反論の余地なんて無いから黙って見ることしかできない。そんな社会。反論なんか出来やしない。我々一般人は立場的に雲泥の差なんだから。
「おーはよ!由美!」
「おはよう謙。」
「相変わらずユートーセー感が溢れ出てますなぁ」
「何それ」
意味の分からない事ばかり言う謙。
「なんだろ。お上品なオーラ…的な?」
「まぁ、分からなくも無い…かな?」
「あはは自分で言っちゃう感じ?オモロw」
何言ってるのかさっぱりだ
「そうそう、知ってる?桑田忠司のニュース!」
「あのファンの人に手を上げたってニュース?どうなちゃうんだろうね。処罰とか」
「さーな。でも俺は忠司の気持ち分からなくも無いかな〜」
「え?応援してくれるファンに対して手を上げる気持ちが?」
「うーん。俺だったら嫌かな。だっていくらファンでもさ、俺はそいつらファンの事は知らない訳じゃん?なのにやたら自分の事知ってたら怖くない?まぁ俳優だし仕方ないけどさ。大体、あーゆー人のファンってシツコイし五月蝿い人多く無い?俺だったらビンタじゃなくて殴ってるかも。」
「そう…だね。うん。なんか分からなくも無いかも。」
「でしょー?」
何で
何で忘れてたんだろう。
左程良くも無い頭の彼に不意に正論を突きつけられた。私達人間は忘れてるんだ。いかなる有名人でも『心』があることを。相手が『私達と同じ人』である事を忘れてキャーキャー騒ぐ。『人』の迷惑なんか知らずに。
「ただいま〜」
「おかえり。テストはどうだったの?」
「うん。いつもどーり満点だよ〜でも気ぃ抜けられないから勉強しなきゃ」
「流石、由美ね。偉いわ」
「えへへ。それほどでも」
「はぁ…『流石』…か。」
ピアノの練習
しなくちゃ。やらなきゃ。
コンコン。
「由美、そろそろ夕飯の時間よ。」
「うん!今行くね」
「わぁ美味しそう!」
「由美の為ならお母さんいつでも頑張れちゃうわ。」
「ふふ。ありがとう、ママ」
「もう12時か…寝なきゃ」
布団に入ると考えてしまう。いつかの『悪い子』の時の記憶が蘇る。
『なんでこんなことも出来ないの?』
『由美ちゃんってなんか変』
『貴女普通じゃないの分からないの?』
「…ごめんなさい。ごめんなさい。」
泣くの泣いちゃうの情けない自分が馬鹿馬鹿しくて、それで居て阿呆らしい。
『由美、パパ達の言う事には黙って従えば良いいんだ。』
齢六歳にして知った事実。
何事にも『正解』が存在すると。
YES orNO
どちらか選べばいいと。
大概の事はYESを選べばなんとかなる。
そう思ってるのに心の底の何かが『型破りな答えがある』ってずっと囁いてる。
この事はあまり外では考えないの。
考えると眩暈がして視界が霞むの。貧血みたいに。
来世なんかに期待しない。
いつか、自分に大きな『変化』が起きて
目が醒める事を願いながら。音に載せる。
今日がまた終わってしまう前に。