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 ウィリアム国で人質……いや、カインの妃候補にされてしまったエリーゼは今、城下町にいる。


(……私、呑気に喫茶店に来てる場合じゃないんだけど……)


 お洒落な喫茶店の窓際のテーブル席。そのテーブルの上には白いコーヒーカップ。そして向かい側の席には麗しい王子様・カインが座っている。


「ねぇ、エリーゼ様。次は白薔薇園に行かない? すごく綺麗なんだよ」


 カインは嬉しそうな笑顔で次の行き先を決めてくる。ここ数日のカインは恋愛に関して健全でピュアだ。夜這いもしないし、こうやってデートに誘うくらいだった。

 セレンとのキスを目撃した時は不健全で相当なチャラ男かと思ったが、あれは政略的な意味で別の顔なのかもしれない。


(でも、こうしてみるとカイン様って普通に可愛いのよね……)


 逞しく『かっこいい』アゼルとは正反対のカインには、乙女心というより母性をくすぐられる。それは前世の悪夢に苦しむカインの弱さを見てしまったせいかもしれない。

 再びカインに懐柔させられかけているエリーゼは、アゼルを思い出してようやく我に返る。


「ねぇ、まだアゼルから人質交換の手紙が届かないの?」

「来てないよ。アゼル様もセレンと仲良くやってるんじゃないの?」


 いや、それはないとエリーゼは断言できる。それはアゼルの溺愛は絶対に揺るがないという信頼でもあった。

 アゼルの名を出されたカインは口を尖らせて視線を窓の外へと逸らしている。分かりやすい嫉妬が可愛い。


(レミアルさんは、アーサーさんと上手くいってるといいけど)


 人質という形でデヴィール国に連れ去られたレミアルだが、カインにとっては裏切り者。エリーゼはなるべくレミアルの話には触れなかった。

 エリーゼは人質という立場上、無難に日々を過ごすしかない。カインとのデートが健全であるのが幸いだった。


 喫茶店から出ると、少し先の道に人だかりができていて騒々しい。カインはその様子を見て、恋する青年から凛々しい王子の顔に戻る。


「兵も出動しているね。何があったのかな」


 カインが小走りで群衆に向かって行ったので、エリーゼもその後を追う。カインは人混みをかき分けて、人だかりの中に入って中心にいる人物を見る。

 そこにいたのは、血を流し負傷している兵士だった。ウィリアム国の兵ではない。カインは兵に歩み寄ると刺激しないように柔らかい口調と表情で話しかける。


「僕はウィリアム国の王子カインです。サイベリア国の兵士とお見受けしますが、何があったのですか?」


 王族らしい気品と丁寧な所作、かつ20歳の自分と同い年ほどの若い兵士に向かって敬語口調で問いかける。しかも兵士の鎧の刻印を見て隣国の者だと気付いた。

 遠巻きに様子を見ていたエリーゼは、カインの冷静な対応を見て少し見直してしまった。

 兵士はすがるようにしてカインに畳み掛ける。


「王子様、ご忠告に参りました……我が国サイベリアはデヴィール国に侵略されて、まもなく実行支配されます」

「デヴィール国……アゼル様が?」

「はい、宣戦布告もなく奇襲でした……次はウィリアム国に侵攻すると思われます」


 それを聞いて衝撃を受けたのは誰よりもエリーゼだった。あのアゼルが、人質となったエリーゼを放って侵略戦争とは、どういう了見なのか。

 カインは至って冷静だが深刻そうに眉をしかめると、周囲にいた自国の兵に命じる。


「彼を保護して治療してあげて。僕はすぐに城へ帰るから」


 それだけを告げると、カインは身を翻してエリーゼの元へと歩んでいく。エリーゼは不安そうに青い瞳を揺らしながらカインを見つめる。


「ごめん、今日はもう帰ろう。これから軍事会議を行うから」


 不穏を感じたエリーゼは、ただ黙ってカインの後を付いていくしかなかった。

 もしかしたらアゼルは、エリーゼを取り戻すために侵攻している可能性もある。


(バカなアゼルなら、ありえる)


 そんな淡い期待を信じて、エリーゼはカインと共に馬車に乗り込む。





 その頃、ウィリアム国の隣国のサイベリア国では。

 王城の前で大勢の軍隊を前にして対峙するのは、漆黒の髪と瞳、黒衣のマントを纏ったデヴィール国の王。その傍らには金髪碧眼の白いドレスの聖女。

 自国の軍隊を城下町に残して、アゼルとセレンはたった二人で最後の砦である王城まで侵攻してきた。

 アゼルは血の滴る漆黒の長剣の刃先を正面の敵陣に向ける。


「貴様らを蹴散らせば、サイベリア国を落としたも同然だな。行くぞ、セレン」

「は、い……」


 アゼルがセレンの肩を強く抱いたのを合図に、セレンは聖女の能力『強化』を発動させる。

 しかしセレンは青の瞳に涙を浮かべて顔を伏せて、目の前の悲惨な現実から目を逸らしている。


(いや……私は世界征服になんて、手を貸したくない……)


 アゼルの脅迫に抵抗できない人質のセレンは、彼の『武器』となって加担するしかなかった。

 人として扱われないセレンはアゼルから愛されもしない。最強の聖女という都合のいい武器でしかなった。


(誰か助けて……カイン様……)


 経路から考えて、この国の次に侵攻するのはウィリアム国。セレンは婚約者であるカインを思い浮かべて、彼を手にかけるかもしれない恐怖と絶望に身を震わせた。

因縁の魔王陛下と聖女令嬢~溺愛の呪いが解けない~

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