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コユキは心の中で強く思っていた。
――――卑怯者の悪党め! アタシが絶対捕まえてやるんだから!
未熟とは言え、現在のコユキのガッツは、能力不足の現状が否めない十数年前でも変わっていなかったと言う事だろうか、まぁ、無茶は無茶なのだが……
そんな、現在から観察している私の心配を他所(よそ)に、コユキは『おおたかの森』という、魔の森へと辿り着いてしまった。
駅を出て、適当に東側に移動したコユキは、森の入り口と見られる場所に立って今更ながらに思いを馳せるのだった。
「よっしゃ! 行ってみるか!」
徐(おもむろ)にウェストゴムのスカートを一息に脱ぎ捨てたコユキは、続けて確り(しっかり)と着込んだブラウスをも脱ぎ去って行った。
そうして現れたコユキの全身を覆うファッソン、皆の言うファッションは以下の通りであった。
パッツンパッツンの黄色いタンクトップに、ほぼケツ丸出しの特大ホットパンツ(五分の一だけ隠した感じ)を装備した、正に『痴女』その物であった。
そう、コユキが二十一世紀の世界の中で、唯一残された、エデン…… 正直者の聖地に降臨した姿は、正しくディーヴァ、歌謡わぬ表現者の、捨て身の覚悟そのままであったのだ。
考えてみれば、これに先立つ一年の間に、綺麗系になったリエ、より可愛らしさを増したリョウコの二人が、相次いで生涯の伴侶を家に連れて来ていた。
無事、ゴールインを認められた妹達は、安堵と言うより、幸福の極みにいる様に見えた。
そんな物を見せつけられたコユキが、多少、いや多分に狂気を帯びていたとしても、一体誰が責められると言うのだろう?
あえて、言おう…… コユキは狂っていたのだ!
そうして只のキチガ、いや、狂気を帯びたアラサーコユキは、その身を『おおたかの森』の遊歩道から良い感じに離れた場所に晒(さら)し、日が暮れるまで、いや、もう正直に吐露(とろ)してしまおう、夜が明けて、児童達の無垢な『いってきまーす!』の声が間近に聞こえる時刻まで、ほぼ半裸でレイパーを狩る為だけに己を生餌(いきえ)としていたのであった……
残念ながらHITはしなかったが……
いやいや、観察している者として、彼女の名誉の為に言って置きたい!
決して、アタリが皆無だった訳では無い。
実際、コユキのアッフ~ンの状態に寄って来た変質者、若(も)しくは変態がいなかったと言う事は一切ない!
たまに、木々の向こう側からジッと見つめてきた、必要以上に顔面を覆った労務者風の男や、逆にギョッとした顔を浮かべて逃げ帰った作業服に身をやつした中年のさえなさそうなオジサン、如何にも女子に相手にされなさそうな、顔面偏差値が二十以下の意気地のなさそうな青少年二人組み等々、一般社会では地面を見続ける宿命を負った、いや、負わざるを得ない性(さが)、というか見た目で生まれてしまった悲劇の主人公達が、次々現れては溜め息一つを残してもれなく全員が、コユキ、彼女一人をその場に放置したままで去って行ったのであった。
時に哀れみをその濁った目に湛えながら……
この夜、コユキは何度も一方的な欲望によって刺し貫かれる事になった、やぶ蚊に……
夜の静寂(しじま)をコユキの悩ましげな喘(あえ)ぎが切り裂いた、痒(かゆ)みで……
翌朝、昨日脱ぎ捨てた、スカートと上質なブラウスに、再び身を包んだコユキは、不思議とさっぱりとした顔で心に誓ったのであった。
もう良い…… 全部、爆ぜてしまえ! と……
そんな悲しい、辛すぎる日から、十数年もの月日を経て、コユキは心から思うのだった……
――――あの頃は、全てが青かったわね…… ふふふ、そう、全てが青き日の想い出…… ね……
そんな風に、自分を美化しようと必死に過ごしていると、うっかり今イチオシの関取が所属している相撲部屋がある、みらい平の駅に気付く事もなく、終着駅、『つくば』に辿り着くのであった。