満点の星空の下、蝶は舞う
プロローグ
一人、森の中を突き進む。
僕だけが知っている特別な道。
草があまりなく木は避けるように生えていない。
ある程度奥に進むと河原が見えてきた。
そこには角が削れた丸い石が広がった特に何も無い所だった。
真ん中より奥よりには川がある。
川と言っても深くて膝辺りまでだ。
周りより何倍も大きな石に腰を下ろして一息つく。
家からここまでそこそこ距離があり少々疲れてしまう。
ゆっくりと下を向かせていた顔を上げる。
目をゆるゆると開き空を見上げる。
日中僕らを見守っている太陽はとうの昔に沈みその代わりに月がちょうど僕が顔を上げた先に映った。
何周りか大きく輝く月を筆頭に星々が輝く。
ふと、顔を少し沈めると川が映る。
この星々を見た後に見る川は先ほどみた川より月に照らされ一層キラリと輝いて見えて僕は好きだった。
少し強く風が吹きカサリと木の葉が揺れる。
その風が頬をかする。
今日の月明かりはいつもより輝きがあり目が霞み、細める。
黒色の髪は光りに透けて緑色に見えてこの満点の星空と川とマッチしてとても神秘的に思う。
さっきまで思っていた体のだるさと疲れが消えていく。
ここは僕しか知らない秘密の場所だ。
変わりきった世界に僕の居場所はない
日記
[今]僕は不老不死だ。
年齢はもう百は遥か遠くに過ぎている。
僕がまだ15歳のころ僕はこの世界が素晴らしいと思っていた。
まだ、個性は発現していなかった。
[約116歳]僕は不老不死だ。
僕の体は16歳で止まっている。
ちょうど100年くらいか…
超常が中国で発現した。
[多分139歳]僕は不老不死だ。
もう歳を数えることをやめた。
もう超常……個性は世界に馴染んでいた。
僕は無個性らしい。
[もう分からない…]僕は不老不死だ。
超常は日常に…
個性の始まりはだいぶ昔の話になってきた。
世界の約八割が個性を持って生まれてきている。
[今年の一月2日]僕は不老不死だ。
僕はこの世界が分からなくなってきた……
[一月24日]僕は不老不死だ。
個性……個性は何故生まれてきているのだ?
個性は必ず持っていないとダメなのか?
[一月26日]僕は不老不死だ。
僕はこの世界…いや人間が疑わしくなってきた。
個性が全てなのか?
[二月3日]僕は不老不死だ。
個性…個性個性!!
全て個性!
可笑しい…
無個性で何が悪い!!
僕が可笑しいのか……?
[二月5日]僕は不老不死だ。
個性婚って言う言葉を今日知った。
正直人間はクソだと思った。
ヒーローは一見正義に見えるが裏がありすぎた。
[二月28日]僕は不老不死だ。
最近本音…感情…真実という物が分からなくなってきた。
人間の欲深さは何百年もの前から知ってはいたがここまで酷いとは思わなかった。
[三月2日]僕は不老不死だ。
ヒーローはザックリ言うと、ヴィランだ。
ヴィランの方がマシだ。
[三月5日]僕は不老不死だ。
最近は…いや個性が発現してから一時してからずっと自分を誤魔化し続けていた。
辛い。
[三月7日]僕は不老不死だ。
それ故に死にたくても死ねない。
仲の良いともは老いて死んでしまって独りだ。
[三月八日]僕は不老不死だ。
最近は死ぬ方法を探している。
僕は呪われているのかも知れない。
[三月10日]僕は不老不死だ。
夜森を歩いていたら良い場所を見つけた。
今日からそこを秘密基地とする。
[三月十三日]僕は不老不死だ。
秘密基地を見つけ、夜毎日のように通うようになった。
ここは心が安らぎ人間の汚れが映っていない。
空気が澄んでいる。
[4月7日]僕は不老不死だ。
この世界は汚れてしまった。
この世界にもう僕の居場所はこの秘密基地しかないだろう。
ある夜にて
今日も秘密基地に寄った。
少しその日は雲が出ていて月が雲を通してくぐもった光で僕を照らしていた。
月より光の弱い星々は早々に消えてしまった。
時々雲からかすかに見える月明かりに体を寄せる。
風は異様に吹いてなく、川の静かに流れる音と自分の息だけがその場を支配していた。
ここは人が来ない場所だ。
だから夜はいつもここを自分だけの空間にして身を委ねるように目をつぶる。
ガサリ
そんな空間は長くは続かずにまるでわざと邪魔するように草を分ける音がした。
この静かな空間にその音は耳障りでしかなかった。
僕は動かずに気づかれないよう息を潜めて観察する。
草むらから次々と人間が出て来る。
見た目からして中学生から高校生辺りだろうか。
いや、よく見ると雄英高校の制服を着ている。
金髪の黒メッシュの入った男の子が月明かりに照らされている川原に出て見やすくなる。
その金髪の人間を筆頭に
赤い尖った髪の男の子
髪や肌全てがピンクで特徴的な角のような物が生えている女の子
耳がイヤホンのようになった女の子
カクカクとした動きでメガネをかけた男の子
茶色いボブのような髪型をした女の子
唇が大きいゴリゴリマッチョのようなデカイ男の子
と、計十九人がここに来た。
皆は空を見上げるとおお、と声を漏らしていた。
今日は曇っていたが星が見えない訳ではなくいつもより輝きが無く星の数が少なくなっただけである。
それでも他の人からみたら景色は綺麗だろう。
その中の一人が苛つきながら足をだんだんと石に打ち付ける。
そしてついに我慢が切れたのかボンボンと爆発する。
「おい、辞めろ」
僕はその態度に苛ついて声を掛ける。
皆が一斉に顔を向けて戦闘態勢をとる。
「僕は戦うつもりはない。」
怪しそうにはするが敵意のない笑顔をすると警戒はするが余り気にしなくなっていった。
数分か時間が経ちチラリと数人が僕の方をみた。
流石に気になるのか。
そう思いながら僕は視線を送った子供の方に行き話しかけた。
名前
僕の今の見た目の歳(16)
好きな物
……
まぁそれぞれ自己紹介をして世間話など、いろいろ話していたら他の人達も混じり仲良くなっていた。
三十分ほど時間が経ちクラスの委員長とかいう飯田くんがそろそろ戻らなければ、と皆を引き連れて帰って行った。
また来て欲しい。
僕は人間の汚れた面を見すぎていた。
だからこう思ったのは少しだが彼らを信用したからなのだろうか。
さっきと変わらない空は一人で見た空より輝いて見えていたのは気のせいだろうか。
ヴィラン
久しぶりに雄英高校のヒーロー科の様子を見に来た。
その頃は森林合宿をしていて僕は夜に星がよく見える秘密の場所のような所に居た。
そこで洗汰君と出会った。
その子はヒーローが嫌いらしい。
僕も嫌いだ。
理由はヒーローの中にはくずが混じってわざと犯罪をヴィランに起こさせたり自分の手柄にしようとするからだ。
ヒーローになったからお母さん、お父さんは……!!
男の子は怒ったような悲しいような…悔しそうな顔をして言っていた。
僕は怒鳴ることも否定することもせずそこの子を腕で包み込んだ。
愛されていたんだね
そのただ一言を言っただけ。
男の子は目を見開いてボロボロと涙を流した。
暫くして男の子は泣き止んだ。
すると向こう側から激しい音と青い炎が立ちはだかっていた。
男の子を連れて補習の人達と先生方が居ると思われる建物の前に連れて行き逃げるように言う。
そして僕は煙のする方へと向かう。
向かった先にはビー玉サイズに縮められた常闇君と勝己くんが居た。
僕は持っている腕の部分をけり手から奪い取る。
常闇君だ。
残りの勝己くんを取ろうとすると目の前に炎が現れた。
一瞬止まったがまた走り出し炎など気にせずワープの中にヴィランと共に入っていく。
そこにはバーに繋がっており二人の新たなヴィランが居た。
二人は戦闘態勢に入ったがテレビから声がした。
オールフォーワンだ……
僕は勝己くんを守りながらの複数人との戦いを強いられた。
一人一人が強くとも僕は押されずに同じぐらいの戦力で戦った。
ドカァン!!
音の鳴った方を見ればオールフォーワンがこちらに来ていた。
壁側から気配がすると思ったら前川原に来ていた雄英高校の生徒がいた。
勝己くんをさりげなくその子達の隣に置くと逃げるように合図した。
子供達は震え恐怖に染まり悲しみで泣きながらも後ろを振り向かず勝己くんを守るため逃げていった。
僕はヴィラン連合とオールフォーワンと戦った。
オールフォーワンはオールマイトと同じようにうえていて多少力は落ちていたがとても勝てるような相手ではなかった。
だから私は耳に付けていたピアスを無理矢理とり使わないと決めた禁忌の力を解放した。
ピアスはこの不老不死の制御装置のような物である。
そう、不老不死という物は……
人をも殺してしまうから
不老不死の力
僕の周りには赤と黒の電気のような物がバチバチと音をたて囲っている。
その光に当たった物はぼろりと崩れ朽ちていく。
僕はオールフォーワンとヴィラン連合に向けてそれを放つ。
狙われた物はすぐに逃げるがお構いなしに捕まえる。
そして捕まった物はドサリと力を失ったように倒れ込む。
やはりと言うべきか…
オールフォーワンはまだ避け続けていた。
僕は力を使いオールフォーワンの寿命を何十年も奪った。
オールフォーワンはガクリと動きが落ちつかまった
そしてヴィラン連合と同じように気絶したようにドサリと倒れ込んだ。
町は大半が崩れており復興には何年何十年もかかるだろう。
僕は地面に両手をついた。
そこからは綺麗な整備されていたアスファルトの地面が戻ってきて時間を巻き戻しているようだった。
半径十メートル辺りまで来ると僕の体はぐらりと揺れた。
力の使いすぎだろう。
その光景を逃げていたはずの生徒達が見ていた。
この力は不老不死でも何でもない。
この力は寿命を奪い与え、操る……
そう言う物だった。
例え死んだ人間からでも………
昔の僕は
僕は個性も発現していない世紀に生まれた。
僕のお父さんは研究科でいろいろな物に手をかけていた。
ある時お父さんが言ったんだ。
お父さんの手伝いをしてくれないかい?お前の力が必要なんだ。
15歳のころの僕はお父さんに憧れて手伝うことが出来ると思い喜んだ。
しかしそれは想像とは違った物だった。
ある部屋に連れ込まれて僕は後ろから注射のような物を打たれた。
目を開けると僕は台の上に手足を固定されていた。
辺りは一面真っ白でメスや注射器、針など病院の手術室のような場所で見るような物が置かれていた。
扉が開きお父さんが入ってきた。
なに……するの?
恐る恐る聞くとお父さんは言ったんだ
お前は大人しく俺のモルモットになっていれば良い
と………
僕はそれから毎日体に体中にメスを入れられ、間間に危ない薬のような物が入れられる。
お母さんは幼いころに死んでいまい、僕は家でこもっていたから知り合いもいない。
だから僕が監禁まがいのようなことをされても誰も気付かないだろう。
そんなことを続けられて一年が経った。
パチリと閉じていた目を開けると……
お父さんが死んでいた。
体には傷がなく気絶しているようにも見えたが心臓は動いていなかった。
辺りには紙が散らばっており一枚確認する。
そこにはこう書かれていた。
“実験は成功した。”
詳しく探るために他の紙も調べた。
それで一つ、今実験について知ることが出来た。
僕は寿命を操る実験をされていたらしい。
だからお父さんは…
僕のこの力で死んだんだ。
自業自得だ。
だが僕はいくらか最低な親でも実の父なので精神が不安定に酷く揺れた。
その衝動でか力が暴走して建物やその周りの寿命を全てが奪ってしまった。
何万も超える寿命に僕は不老同然になった。
僕はこの事情を知らない若い夫婦に預けられた。
二人の仲は良く、でも子供が生まれないらしい。
僕は寿命を奪わないために制御装置を作ったんだ。目立たないように自分の髪の色と同じ緑のピアスにしてある。
そして制御装置の核となる宝石がキラリと光っている。
二人の夫婦は僕を実の子のように温かくむかいいれてくれた。
僕はその幸せを噛みしめた。
何十年もの時が経ち夫婦はおばさんおじさんになり死んでいった。
僕はこの個性を恨んだ。
それで三回目だ。
一回目はお父さんの死。
二回目は周りを巻き込んでしまったこと。
三回目は同じ時を歩めないことを知ったこと。
僕はその夜……
自殺した。
僕は10階以上あるビルの屋上から飛び降りた。
普通なら即死だろう。
だが僕は死ななかった。
この力のせいだろう。
僕の寿命が尽きるまで死なせないつもりなもだろう。
僕は何十回、何百回、何千回も様々な自殺を試した。
でもそれは失敗に至った………
いくら自殺しても殺されても死なない僕は不死身同然になった。
これが僕の過去だ。
蝶は自由に羽ばたけたか
僕はよろける足を踏ん張り残りの力を振り絞る。
焼け焦げた木は緑を取り戻し、ガタガタになった道路は整備されていた戦う前の状態のようになる。
吹き飛ばされたビルや家は形を取り戻し何事もなかったように元に戻る。
被害が起きたこの場所は一人の少年によって修復を成し遂げた。
僕は不老不死……いや僕のこの力を使い寿命を奪い取る物とは違う黒い鞭のような物を使って町全体の被害者を自分の所に集めた。
そしてそれを守るように被害者の周りが金色の暖かい光の粒で包まれた。
地面からは緑が生えて輝く花々が咲き開く。
傷は癒えて死んだはずの人々は起き上がりこの光景に驚きを隠さない。
ある物は生きていることに喜び
ある物は家族を探しに
ある物はこの光景をうっとりと眺める
少年が癒した被害者は誰一人として出久に感謝をしなかった。
否、気付かなかった。
僕の力をもう一度伝える。
この力は不老不死でも何でもない。
この力は寿命を奪い与え、操る……そう言う物だった。
そう助けた人数は万を遥かに超えて町全体の建物をも修復している。
それには自分の寿命が必要だった。
他人の寿命を奪い、自分の寿命を与える。
人々に寿命を分け与え被害を受けた建造物でさえ自分の寿命をすり減らす。
僕はこの時……
本当の意味で死んだ。
否……
この長年の呪いからやっと……解放された
満点の星空に………
俺達は出久に助けられた。
テレビでは英雄緑谷出久としてたえずに流れていた。
俺達雄英高校のヒーロー科の数人は間近でこの目で見た。
人々を救う出久を見て凄いなと思った。
もっと思うところがあるかも知れねぇが他のことに気を取られてその事は考えれなかった。
そう、出久は死んだんだ。
出久は個性を教えてはくれなかったが多分回復か強化系の個性なのだろう。
死因はその個性の使いすぎと言われていた。
俺があの時力があれば……!!
そう考えても過去はやり直せない。
分かっていても考えてしまう。
出久は俺にとって最高のヒーローになってしまっていたんだ。
寮のロビーに気付けばクラスの全員が集まっていた。
俺達19人は出久と川原で出会い話しているうちに憧れ、またはその存在が好きになっていた。
涙を流している者
必死に悲しみに耐えている者
悔しさに唇を噛んでいる者
あの爆豪でさえ悔しさと悲しさが顔に出ていた。
俺らはヒーロー科。
こんなことで止まってはいけない。
でも…だから!
俺は皆と顔を見合わせる。
皆俺と同じようだ。
夜11時、俺らは寮を抜け出した。
おい、あと時間まで30分もねぇぞ
焦った口調で轟が言う。
皆が急いで目的地まで走る。
ガサリと上鳴を筆頭にあの場所に着いた。
そう、出久と始めて出会った場所だ。
時間ぴったりだ
轟が言う。
俺らは出久と始めて出会った時間に同じように川原に着いた
俺らは空を見上げる。
雲一つない透き通った星空。
始めて出会ったあの空より星々は輝いていたが俺は酷く曇って見えた。
まるで俺らを置いていってしまうようで悲しさがぶり返してきた。
悲しみを忘れようと、隠すように目線を星空から落とした。
そこにはただただ暗い森の闇が広がっていた。
見て…あれ!!
芦戸が何かに気付いたらしい。
皆がそちらをむく。
蝶だった
ヒラヒラと不規則に舞っている。
蝶はかすかに緑と金色の光を纏っておりとても美しかった。
俺達は飛んでいく蝶を必然的に追っていた。
向かっていく場所は出久が現れた方向だった。
蝶はその場でヒラヒラと回る。
無意識に指を上げるとそこに止まった。
その瞬間俺達の周りに金色の光が現れた。
それはまぶしいけど眩しくなくて流した涙を拭き取るようにして悲しみが無くなっていった。
暖かい。
まるで誰かに守られているようでさっきまで悲しかったことが噓のようだ。
光がどんどん消えていき出久が本当にいなくなる。
そんな感覚がした。
俺は光に向かって手を伸ばして捕まえるがホロホロと崩れ舞っていく。
光をまた掴もうとするがその先にあるのは暗闇に1羽飛ぶ蝶だけだった。
蝶は慰めるように俺らの周りを飛んで暗闇に光となって消えていった。
瞬きをするとそこには暗闇では無くキラキラと金色に輝く川が映り星空を見上げるとそこには満点の星空が広がり歓迎するように星々がきらめいていた。
俺達はまだ悔しさ、悲しさはのこるだろう。
だがもう不安も後悔もない。
出久は最高のヒーローだ
“有難う”
キラリと飛んでいく暖かな光は安心するように天高く登り、消えていった。
満点の星空の下、蝶は舞う
end
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