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めっちゃ好きなので続きをください。切実に。ドロドロになr(((
kzlr
ギャグ風味あり
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——コンコンコンッ。
するとタイミングよく、部屋の扉がノックされた。噂をすれば、葛葉である。
時刻はとうに0時を超えていた。今日ここを訪れると言っていた当初の予定時刻を大幅に過ぎている。こんな夜遅くに、この部室への入室を許可しているのは、葛葉しかいない。
あぐらをかいていた布団から立ち上がると、おれは扉の方へと歩を進めた。おれの返事を待たずして、扉が開けられる。
部室に入って来た葛葉は、ゲッソリしていた。
いつもは綺麗な白い髪が、ところどころ跳ねてはパヤパヤと浮いている。顔色は明らかに具合が悪そうな土気色をしており、目の下にはくっきりとクマまで見える。上着は全開でよれている。
見るからにボロッボロの風貌だ。フラフラとこちらへ近づいてくるおぼつかない足取りは、さながらゾンビである。
おれの前までやって来ると、無言のまま、葛葉はおれの肩口にぽすんと額を寄せた。
あ。
コイツ。
めちゃくちゃ疲れてやがる。
疲労がピークに達した時、葛葉はごくまれに、こんな風にしておれに触れてくる。
おれは葛葉の背中に向けて、ゆっくりと両の手を伸ばしてみる。
葛葉のこの背を抱きしめてやるべきなのか、鼓舞するべきなのか。どうしてやるのが正解なのか、おれにはいつもわからない。
だからこうやって葛葉がおれに寄りかかってくる時、おれの手は結局、空中をさまよってしまうのだった。
「葛葉、いま何徹目?」
「まだ二徹目」
葛葉はなんて事のないようにケロッと言った。その声は掠れている。
先月ここを訪れた時は、四徹目を迎えたと言っていた。その時の葛葉は、おれのことを抱きしめたまま布団で寝入ってしまったのだ。おれはお前の抱き枕なんかじゃないっていうのに。
「葛葉、」
おれなりにやわらかい声で呼び掛けてみると、葛葉が静かに顔を上げた。
やっぱりひどく疲れている。いつもの溌剌さがない。
「コレ、やる」
さりげなく。
あくまでも、さりげな~~く『マンネリ打破』を葛葉に手渡してみる。
「えっ?」
『眠●打破』そっくりの小瓶を差し出され、葛葉は驚いた様子であった。葛葉は両手でうやうやしく小瓶を受け取った。
「ん… ありがと… … 」
まさに言葉を一語一語噛み締めるよう、そう言った。それからクマの目立つ目を細めて、葛葉はふわりと微笑んだ。
やけに嬉しそうな様子である。
おれは己のやましい下心に、ちょっとだけ、本当にちょ〜〜っとだけ、良心が痛むようだった。
ある意味元気になるっちゃなるから、まぁいっか… そう、心の中で開き直ってみるけれど。
葛葉はなんの疑いもなく受け取った瓶のフタを開け、口をつけた。喉仏が上下し、嚥下しているのを確認する。
しめしめ。
葛葉って意外とチョロいよな~♪
なんて。おれがのんきに思っていると。
ふいに葛葉が飲む手を止めた。それからおれの方に向き直ると、こともあろうに、おれのTシャツの襟首をつかんできた。ぐっと顔を引き寄せられ、思い切り唇同士がぶつかった。
おれが驚愕していると、アゴを上に向けさせられ、葛葉の舌がねじりこんでくる。それと同時に、おれの喉奥へと液体が流し込まれていった。
「——んん!?」
うっ!
炭酸の抜けたエナドリを、さらにめちゃくちゃ甘くしたような味である。
葛葉は勢い余って、思わずゴクッと飲み込んでしまった。
「な、なにすんだっ!?」
葛葉を突き飛ばすと、口元をぬぐった。
飲んでしまった。
媚薬を——おれが——飲んでしまった……!
「それはこっちのセリフ。ローレン、俺になに飲ませた?」
「うぐっ」
バレてる。
ソッコーでバレてるではないかッ!!
「ローレンが俺に物くれるなんて、珍しいからなぁ」
日頃の行いが裏目に出た。
ええ、ええ、そうですよ!
年がら年中金欠のおれが、葛葉に物をあげるなんてこと、滅多にないですからね!
あたふたしているおれを尻目に、
「●眠打破と味がちげえんだよ。それに俺もう激強●破じゃねえと効かねえし」
とかなんとか。葛葉はブツブツ言っている。それからおもむろに、ポンとおれの肩に手をのせた。
「で? コレ、なんだ?」
葛葉を見遣れば、完全に目がすわっている。疲れから… …ではなく、これは怒ってる時の目つきである。
「… …ハイになる… …おクスリを」
「ク・ス・リ?」
葛葉の声色に、散らかった部室の室温が五度下がった。おれは青ざめる。
「ち、ちがうちがう! ヤバいヤツのクスリじゃなくって! えっと、その… …あ~~~なんだ…そのっ、ええっとぉお~~~… …」
おれが目を泳がせ言い淀んでいると、「ローレン?」と葛葉が微笑んだ。
ヒィッ!
これ、完全に怒ってる時の葛葉の顔!
「… …び、びやくデス… …オレはオマエに、媚薬を飲ませようとシマシタ… …」
まぁおれが飲んじゃったけどな〜♫
ぬわははは!
なんて、陽気に言える雰囲気ではない。
はぁ~~~っと葛葉が、腹の底から盛大に溜息をついた。
「アホ?」
The⭐︎どストレート罵倒。
つづけざまに、葛葉は呆れた声でおれに言う。
「さすがに毒じゃねえとは思ったけど。俺ら、身体が資本だろ? 悪い成分でも入ってたらどうしてたんだ。ローレンてほんと、危機管理能力っちゅーもんがねぇもんなぁ」
ぐぬぬぬぬ、ぬ。
おれはなにも反論できぬ。
正論ほどダメージを食らうものはない。
「だいたいなぁ、媚薬て。そんなんジョークグッズに決まってるだろ。」
痛い、痛い。
耳が、心が。
葛葉の口から吐き出される言葉が、漫画の吹き出しのような形になって、おれの頭をグサグサと突き刺していく。
「プラシーボ効果って知ってるか? こういうの、単純なやつにしか効果ねぇんだって。あっローレンには効くかもしれんけどなぁ~」
もはやこれは、言葉の暴力だ。
鋭利な言葉の刃である。
おれのメンタルは心臓ごと、サイコロみたいな肉塊に、すっかり切り刻まれてしまった。
「それで。俺に媚薬飲まして、どうする気だった?」
「うっ…」
葛葉にジッと見つめられ、質問の答えを促される。痛みを通りこして、おれは急激に恥ずかしくなる。
葛葉と、エッチがしたかったんデス——なんて、口が裂けても言えやしない。
おれがだんまりしていると、葛葉の口からはさらに、ため息が吐き出された。
葛葉とエッチがしたくて。でも、言い出せなくて。だからこんな媚薬に頼りました、だなんて。とてもじゃないが白状できそうもない。
これ以上、葛葉に幻滅されたくなかった。
おれが俯いてキュッと唇を引き結んでいると、
「… … … …身体、異常ねぇか?」
と、唐突に葛葉が言った。
その言葉に顔を上げてみれば、困ったような顔をした葛葉と目が合った。
「ついカッと来てしまった。言い過ぎた。すまん… …」
葛葉が頭をかきながら、しおらしい声を出した。そんな葛葉の態度を見て、おれの方はといえば、いよいよ立場がなくなってしまう。
媚薬を飲んでも、身体にはいまだなんの変化も起こっていない。
おれは首を横に小さく振った。
こんなもの、パチモンだったのだ。
媚薬だなんて得体の知れないものを飲ませて。怒って当然だ。それなのに葛葉は、おれの身体のことを心配している。
葛葉が、全部正しい。
おれが押し黙ったままでいると、葛葉の手がおれの頭をぽんぽんと優しく撫でた。
それは、『もう怒ってない』と、おれに分かるように伝えてくる時の葛葉の仕草だ。
おれは自分の浅はかな行動に、無性に胸が苦しくなった。
「ちょっとここで寝てもいいか?」
「… …あ、ああ」
「一時間経ったら起きるから。身体にちょっとでも異変あったらすぐ起こして」
「… … … …わかった」
葛葉はそのままソファに腰掛けると、眠る体勢に入ったようだった。おれもそばに寄り、ぺたりと床に座り込んだ。
カクンと葛葉の頭が傾いた。どうやらあっという間に寝入ったようだ。
おれは葛葉の寝顔を、静かに眺めた。
寝るなら別の部室行けよ——そんな言葉が口から出かかって、喉の奥に引っ込めた。
だって。
葛葉がこんな風に疲れた姿をさらけ出しているのは、おれにだけなのだと思うから。
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