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吉田おいちゃん
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⚠️warning
ホ-ス-ト-パロ/ywsyn🤍❤️/m!全員出ると思われる/女装要素有り
視点めっちゃコロコロ変わります。
すいません。1話で収まると思ったんです。そしたらなんかとんでもないことに……
かなり長いです。
それではどうぞ↓
【1】
女の子になれたら。
何度そう思ったやろか。
俺は男やから、あの人の隣に並べへん。
でも、せめて。
少しでも隣にいたくて。
頑張ってメイクして。
可愛い服を、選んで着て。
なるべく足を見せないようにタイツを履いて。
少し俯いて、身長は目立たないように。
声は柔らかく、小声で、喉を開く。
そして、ウィッグを被れば。
もう立派な女の子やろ?
形だけでもええ。
俺は可愛い女の子になって。
あの人の隣にいたい。
「はぁ〜………」
最悪や。
今日の俺前髪終わっとる。
うまいことせな、あの人に嫌われてまう。
そう思いながら俺は重たい店のドアを押した。
「いらっしゃいませ…あ、舜子ちゃん!今日も来てくれたの?」
「ぁ、……はいぃ!そうですぅ」
「こんな雨の中お疲れ様。指名は柔太朗かな?」
「うふふ、オーナーさんわかってるぅ」
「舜子ちゃんはずっと柔太朗だからねえ」
ここは、売れないホストクラブ。
売れない理由は簡単。
立地が、悪すぎる。
あまりにも人が住んでいない場所にポツンと建っているから。
しかも路地裏だし。
テーマは『迷宮』で、一回入ったら抜け出せない的なことらしい。
本当にその通りだと思う。
…俺が、誰かって?
ふふ、そやな。
俺は曽野舜 太もとい舜子。
れっきとした男やよ。
でも…男の人はホストクラブなんて行けへんし。
何より、恋しても叶わんやろ?
やから俺は女の子のフリして、ずっとここに通っている。
「舜子ちゃん、今日も来てくれたの?ありがとう、」
この人は柔太朗くん。
ここで働いていて、No.2。
……そして。
俺の、好きな人。
「柔太朗くんに会いたくて、ふふ」
「そっか。嬉しいな、こんな来てくれるの舜子ちゃんだけ」
「ほんと?…よかった、」
なるべくふわっと笑う。
柔太朗くんの視線を少しでも独り占めしたくて。
…俺みたいなキモい男が中身やったって知ったら、引かれるだろうけど。
それでも、好きなんよ。
俺って馬鹿だなあ、と思いながら飲み物に口をつけた。
「舜子ちゃん、今日の服可愛い…俺のため?」
「ぁ、…うんっ」
「そーなんだ…マジ可愛い」
「ほんとぉ?ありがとうっ」
精一杯笑う。
俺という化粧が剥がれないように。
「大好きだよ、舜子ちゃん」
「私も大好き」
俺やなくて、私。
方言も抑える。
あなたの好きな俺になれるように。
「シャンパン飲む?」
「いいの?ありがとう」
「いいよ、柔太朗くんのためやもん」
「……ね、舜子ちゃんってやっぱり関西圏の人?」
「へっ、!?え、えっと、三重、だけど」
「やっぱり。訛ってるなぁって前から思ってたんだ」
くすりと笑う柔太朗くんが可愛くて、かっこよくて。
あかん心臓潰れてまう……!!
というか俺訛ってたん?恥ずかしい…
「あ、そうだ」
「んー?」
「舜太ちゃんのこと、しゅんって呼んで良い?」
「え、」
「舜子ちゃんのこと知れた記念日、ね?」
「ぉ、おん……ええよ……?」
「ありがと、めっちゃ嬉しい」
綺麗に笑う柔太朗くん。
…もっと好きになってしまう。
「しゅんも俺のこと好きな呼び方で呼んで良いよ」
「エッ!?」
「柔太朗でも太朗でも」
「え…太朗はアレやない?」
「ふはは、今日のしゅん方言全開だ」
「あ……」
思わず口元を抑える。
方言にはもっと気を付けないと。
好きな、呼び方か。
「じゃあ…じゅう」
「じゅう、か。ふふ、めっちゃ可愛い」
嬉しそうに笑う柔太朗くん…じゅう。
彼はシャンパンを傾けると、にっこりと笑った。
「じゅう」
「なぁに?」
「じゅうはさ、誰にも言えない秘密とかある?」
「秘密…か」
じゅうは少し目を見開き、考えるような仕草を見せた。
「…ないことは、ないよ」
「ほんまに、?」
「うん」
じゅうはそう言うと、俺の顎をくいっと持ち上げた。
「………しゅんが思ってる以上に、しゅんに夢中になってるところ」
じゅうの熱っぽい視線が俺に絡みつく。
思わず目を逸らすと、じゅうは俺の頭をぽんっと撫でた。
「…なんてね。もう時間だよシンデレラ」
「………ぇ、あ、せや!今日この後用事あるんやった…ごめん、じゅうっ」
「いいよ。また来てね?俺しゅんがいないと寂しくて死んじゃうからさ」
じゅうは少し眉を下げて笑ってくれた。
……ああ、やっぱり、じゅうのこと大好きやわ、俺。
叶わない恋だとわかっていても、好きなものは好きだし。
「じゃあ、またねぇ、じゅう!」
「うん、またね。気を付けて」
じゅうに手を振り返し、小走りで外に出ていく。
……あれ?
俺、じゅうにこの後用事あるって言ったっけ。
…昨日来た時言ったのかな。
まあいいか、急がないと。
もう止みかけている雨の中、俺は走り出した。
たまたま目に止まった大きな画面で、流れていたニュース。
『今の時代は同性愛にも寛容ですからねぇ』
『僕の時代だったら男が男を好きとか…叩かれますよきっと、笑』
『そうですかー、笑 じゃあ次の話題です………』
「…………ッ」
溢れそうになる涙を拭った。
歯を食いしばって、また走り続ける。
何が、同性愛や。
好きなもんは好きでええやろ。
………それが許されないから。
「……生きづらいなぁ、笑」
こんなにもこの世界は苦しいのだろう。
「おつかれっしたー」
かったるいスーツを脱ぎ捨て、ソファにダイブする。
『柔太朗くんに会いたくて、ふふ』
『私も大好き』
『またね、じゅう!』
あの子の少し低くて明るい声が、俺の脳を焼き続けている。
ホストとしてじゃなくて、一人の男として出会えたら。
どれだけ良かっただろうか。
「………あー、くそ」
もどかしい。
あの子の本当の姿を暴きたい。
もうとっくにわかってる。
あの子が、男だってこと。
全部知りたい。
俺しか知らないあの子を見たい。
俺に全部捧げてほしいし、あの子に俺の全部をあげたい。
…こんなの気持ち悪いってわかってる。
「………」
俺のスマホの中の君はいつも笑っている。
でも、こちらを向いてはいない。
君のことをもっと知りたい。
そう言ったら引かれてしまいそうで、怖い。
だから俺はいつも曖昧に笑ってしまう。
「柔太朗」
「どうしたの、よっしー」
「服着なよ」
「…あ、ごめん」
よっしー……もとい吉田仁 人。
うちのホストクラブの黒服。
結構付き合いは長い方。
「…お前さー、」
よっしーは、呆れた顔で言った。
「特定のお客様への贔屓は駄目っていつも言ってんだろ」
「う゛………ごめんって」
「さっさとこんな仕事から足洗ってプロポーズしてこい。ったく、四回目なんだけどこれ言うの」
「わかってるんだけどさ、でも…色々あんの、こっちにも」
「へーへー、そうでございますか」
「信じてねえな」
よっしーの方を睨むと、よっしーはへっと鼻で笑う。
「両思いにしか見えませんけどね」
「それな」
「柔太朗はじれったすぎるわ〜!俺やったらもうガッて行ってまうで!」
俺と同じくホストである勇人と太智がやいやいと騒ぎ立てる。
相変わらず元気な人らだな、と思いながら俺はジャケットを羽織る。
「…両思いだったとしても、超えられない壁ってのがあるんだよ」
男と男。
ホストと客。
たったそれだけの、分厚い分厚い壁。
「……超えられない壁なら、壊せば良いのに」
勇人は、そうぽつりと呟いた。
……壊す、か。
全て壊して、無理矢理あの子に手を伸ばせば。
届くのだろうか。
…いや、そうでもしないと、届かないのだろう。
あの子に触れるためには、自分からその壁にヒビを入れないといけない。
俺は君の、君のだけの俺になりたい。
そのためには、自分から…か。
「…ありがとう、はやちゃん」
「ハ?何が?」
「いーや、なんでもない、笑」
けらけらと笑ってから、俺はスマホをスワイプした。
君の笑顔も、声も、全部全部手に入れたい。
君と繋がりたい。
ごめんね、しゅん。
そのために、俺は君を傷付けなくちゃいけないんだ。
【2】
今日も俺は、店で君とグラスを交わしていた。
「うふふ、じゅうは今日もかっこいいね」
「しゅんの方が可愛いよ」
「えぇ、そうかなぁ」
にこにこと笑う君は、やっぱり愛らしい。
君が欲しい。
でも、待っていても何も起きないことを知った。
だから俺は君を傷付けてでも、君を手に入れることにした。
「しゅん、顔赤いよ?大丈夫?」
「ん〜だいじょうぶ……」
何か嫌なことがあったのか、しゅんの飲むペースはいつもより断然早い。
…仕事?それとも人間関係?
全部俺に教えて欲しい。
「なぁ、きいてやぁ、じゅう」
きた。
方言も丸出しになっている感じ、すっかり酔っ払っているのだろう。
「きょう、仕事で、ミスばっかりしちゃって…」
「そうなの?」
「うん……部長さんにも、迷惑かけてしもうて…っ、う゛」
「あ〜、泣かないで…しゅんは毎日頑張ってるよ、偉い、偉い子だからね…」
「う゛う、じゅう……、そういってくれんの、じゅうだけやもん゛、」
可哀想に。
そんな会社辞めて俺のところに来れば良いのに、なんて口説き文句は飲み込んだ。
「うう………っ」
ぐずぐずになっているしゅんを抱きしめて、頰にキスを落とす。
「……かわいいなぁ、もう」
「ッ、え?ぁ、えっと、じゅう?」
目を白黒させるしゅんの頭を撫でて、また抱き寄せる。
……しゅんの心臓の音が聞こえる。
はえーな、ドキドキしてんのかな、笑
髪の毛の隙間から覗く耳も真っ赤で、思わず笑みが溢れた。
「かわいー……嫌なこと、今日はいっぱい飲んで忘れちゃいなよ」
「ぉ、おん………」
ちかい、と呟くしゅんが可愛くて、またグラスを傾ける。
酔えば嫌なことも全部忘れられるはずだよ。
ね、しゅん。
「じゅう………」
「あらら、潰れちゃった」
こてんと可愛らしく俺の首元に顔を埋めるしゅんを撫でて、軽く声をかける。
「しゅーん、起きれるー?」
「むりぃ〜〜〜えへへ〜〜〜」
「無理かあ」
やっぱりしゅんはお酒に弱い。
ぽやぽやした顔のまま、「きょうのおかね」などと言って財布ごと置いて行こうとしている。
慌てて財布をしゅんの手に戻し、俺は尋ねる。
なるべく平静を装って。
「………しゅん、そんなんで帰れるの?」
「えぇ〜?へへぇ…」
「駄目そうだなー」
しゅんを立たせ、一旦出口へ向かう。
………さて、と。
「ねぇ、しゅん」
「なぁに?」
「………俺が送ってあげようか」
「ぇ、いぃのぉ?ありがとぉ〜!」
ぱあっと、花が咲いたように笑う君に思わずたじろいだ。
こんな可愛い君に、俺は今から最低なことをするんだ。
そう思うと、少しだけ胸が苦しくなった。
「……ごめんね」
そう呟いて、俺は君と歩き出した。
向かう先は言うまでもなく、男女の愛の巣だった。
そこから先は覚えていない。
ホテルで部屋に入った瞬間、しゅんを押し倒して身体を重ね合った。
ウィッグは無理矢理剥ぎ取ったけど、それすらも気持ちよさそうに俺の名前を呼んでいた。
とにかく、君が可愛らしくてしょうがなかった。
「しゅん…………っ」
「じゅう、じゅうっ、」
やっぱり君は男の子だった。
でも君はそんなこと気にする余裕もないのか、頭が回らないのか。
とにかく可愛いなあ、とだけ思いながらまた唇を重ねた。
身体だけでも君が欲しかった。
君の全部を知りたかった。
「しゅん、名前、ほんとは、なんて言うの…?」
「…ッ、しゅんた……その、しゅんた」
「舜太…そっか、良い名前だね」
「ん、ぅ…はっ、ふ、」
背伸びしてキスをねだってくる君が可愛い。
「じゅう…すき……ずっと、すきだよ……」
本当かどうかもわからない愛の言葉も、今だけは本当のような気がして心が震える。
「俺も、ずっと大好きだよ、しゅんのこと、」
「んぁ、ん、」
俺の下で女の子みたいに啼いている君を抱きしめる。
「…………ごめんね、好きだよ」
こんなやり方で、ごめん。
それでもいい。
それでも君と繋がりたかった。
舜太。
君が、好きだ。
やって、しまった。
朝目が覚めて思ったのはただそれだけ。
「……………ぁ、」
下半身はまるで裸で、隣には俺の片想いの人が寝ていた。
慌ててベッドから抜け出し、鏡の前に立つ。
化粧はほとんど涙なのか、汗なのかわからない何かで落とされていた。
ウィッグなんて勿論被っていない。
何より、全身につけられたキスマークと噛み跡が全てを物語っていた。
「………」
じゅうが、つけたのだろうか。
彼はまだベッドですやすやと眠っている。
…………どうする?
見られた。
見られてしまった。
知られてしまった。
俺が男であるということを。
きっと昨日行われたであろう行為も、俺が無理矢理迫ったものなのだろう。
「ッ…」
頭が痛い。
昨日は随分お酒を飲んだような気がする。
そこから先の記憶が………ない。
最悪だ。
俺は好きな人に、迷惑をかけてしまったのだ。
嫌な思いをさせてまで、己を抱かせてしまったのだ。
なんて薄汚い己の感情。
全てが憎らしくてたまらなかった。
「………寝とる、よな」
そっとじゅうの顔を確認し、俺は自分の物であろう荷物をまとめる。
…もう、店には行けへん。
ホストに無理矢理枕営業をさせてしまった俺は、最低な人間や。
だから、もう、これで最後。
じゅうと会うのは、これが最後や。
「…………っ、ほんま、馬鹿やなあ、おれ」
情けない。
自分で自分の身を滅ぼしてしまったのだから。
芽生え始めた恋を、潰してしまったのだから。
「…ありがとう」
最後くらい。
俺はそう思って、じゅうの額にキスを落とした。
触れたら壊れてしまいそうなあなたに、そっと触れてみた。
「さようなら」
俺にはもう、あなたの隣にいる資格はない。
【3】
あれから、1週間が経っただろうか。
俺は店に通うのはばったりとやめてしまった。
俺はもうあそこに行く資格はない。
じゅうに合わせる顔なんてない。
身勝手だった。
謝ればよかった。
ごめん、とだけでも言いたかった。
あわよくば許してほしかった。
……………そんな勇気、俺にはなかった。
駄目だった。俺じゃ、駄目だった。
もう、いいんだ。
“オトコノコ”の俺には、最初から勝ち目なんてなかったし。
なんだかそう考えると笑えてくる。
「っは、あほらし…笑」
俺はずっと阿呆やった。
叶うはずない恋をずっと追いかけていた。
挙げ句の果てにじゅうを傷付けて、逃げた。
最低。
人間の、屑。
俺はこれを一生背負って生きていくのだろう。
「………ッ、あ」
ぽろ。
涙が溢れた。
慌てて拭ってまた歩き出す。
仕事の帰り道、重たい足をなんとか動かしながら。
いつもだったら、この後は店に行って、じゅうと会うんだよなあ。
………いつも、だったら。
その『いつも』を壊してしまったのは紛れもなく自分自身なのに。
「ッ、うう゛」
俺だけじゃない。
じゅうの『いつも』だって俺は壊してしまった。
彼の経歴にも、身体にも、記憶にも。
俺は傷を残してしまった。
「………ぅ、あ゛、だめだ…」
涙は止まらなかった。
頬を伝って、アスファルトへと落ちていく。
「う゛、ふっ゛、ッ……」
苦しい。
ごめんなさい。
ごめんなさい、じゅう。
俺はあなたを傷付けた挙句、逃げた。
俺の首筋を、冷たい何かが掠めた。
「雨………」
幸運なことに雨が降ってきた。
どうやらこれで涙は目立たなくなりそうだ。
「不幸中の幸い、かなぁ…」
そう言いながら俺は、狭い路地裏を歩き出した。
人がいないところは落ち着く。
何も見なくて良い。
何も聞かなくていい。
思考が整理されていく。
ああ、ほんま俺、馬鹿なことしたんやなあ。
お酒って怖いなあ。飲んでも呑まれるなって、その通りすぎるなあ。
…しばらくお酒、控えよかな。うん、それがええな…笑
だんだんと戻ってきた、普段通りの冷静な思考回路。
ふう、とゆっくり息をつく。
「………はぁ」
俺、じゅうのこと、本気で好きやったんやな。
初めての恋やったなあ。
『舜子ちゃん、また来てくれたの?』
本当に、かっこよくて。
『ねーえ、もっと俺のこと見てよ』
可愛くて、甘えたで。
『あんま無理しないでよ?心配だから』
優しくて。
『………俺、結構本気で好きなんだけど』
「…………すき、だった……」
ずっと。
ずっと好きだった。
大好きだった。
貴方の隣に立てる人になりたかった。
また零れ落ちる涙を拭って、俺は走り出す。
「っと、」
「きゃ、っ!?」
前を見ていなかったせいで、誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさ、怪我は………ぁ」
俺は、顔を上げて、絶望した。
ああ、どうして、かみさま。
「…見つけた、舜太」
恐ろしいほど美しく笑いながら、柔太朗は俺の前に立っていた。
「もう、鬼ごっこは終わりにしようか」
舜太の腕を掴んで、自分の方へ引き寄せる。
ようやく見つけた。
捕まえた。
俺の舜太。
「な、んで、ここに」
「…なんでも、いいでしょ。こっち来て」
「やっ、だめ、まって」
「待たない。はやく」
驚き、焦り、絶望。
色んな感情が混じったままの舜太の手を引いて俺はズカズカと歩き出す。
向かう先は、勿論店。
「じゅ、じゅう」
「なに」
「なんで」
「何が」
「ッ、だって…」
舜太は泣いていた。
…俺が見つける前から泣いていたんだろうか。
わかってる。
俺は君を傷付けた。
本当は愛のないセックスなんて君とはしたくなかった。
……いや、正確に言えば。
俺は、愛していたのかもしれない。
でも君にとって俺はただのホストで、欲を満たすだけの木偶の坊に過ぎなかった筈で。
仮に恋愛感情の一つや二つあったとしても。
君はこんなこと望まなかっただろうに。
「……それに、なんで、俺の名前」
「教えてくれたでしょ。あの日」
「、ッあ………」
舜太の顔はみるみる青ざめていく。
可哀想に。
俺が傷付けた。
俺は君の心に、身体に、記憶に。
全てに俺という傷を刻んだ。
「……ぅ、離して、おねがい」
「…なんで」
「俺は、もう、じゅうの隣には、」
「…なんでそんな、酷い事言うの」
舜太は泣きながら、手を離そうとしている。
…そんなに、俺が怖いか。
俺のことが、嫌いになったのか。
当たり前と言ってしまえば当たり前なのだけど。
俺の脳はそれを受け入れようとしなかった。
店が見えてきた。
舜太が小さく息を吸う音が耳を掠めた。
「ぃ、いやだ………っ」
そんなに怯えて可哀想に。
でも。
君のその絶望の中心にいるのが、俺でよかった。
「しゅん」
「ッ、ごめんなさ、ごめんなさい!!やめて、ごめんなさい」
「落ち着いて、しゅん…」
「ごめんなさい、ごめんなさい、本当に、ごめんなさ………っ」
舜太は泣きながら、その場に崩れ落ちるように転んだ。
「っ、舜太!!だいじょう、ぶ…」
舜太は自分の首元を捲って、肌を見せていた。
そこに、俺がつけたであろう多くの跡が覗いていた。
「ごめんなさい」
「…なんで、謝るの」
「だって…っ、俺、じゅうに、酷いことした……」
「…………………は?」
思わず間抜けな声が出てしまった。
どうやら君は、とんでもない勘違いをしているらしい。
「えっと、舜太」
「だって、俺が、酔って無理矢理じゅうに、ッ、こんなこと…させて、しもうたやんか…ッ!」
「は、違、」
「俺が、男の子やって知って、引いたやろ、嫌やったやろ、?ごめんなあ……」
舜太は止まらない。
俺の声なんて聞こえていないのかもしれない。
「俺がじゅうを傷付けた。俺はあなたを、傷物にした」
……その台詞は、こっちのものなんだけど。
俺は君を傷付けた。
なのに君は、全部自分のせいだと勘違いして、勝手に苦しんでいるらしい。
「俺は…もう、じゅうと会う資格なんて、ないんやから…っ」
変に、優しくしないで。
舜太のその言葉は、俺の胸を締め付けた。
………嗚呼。
こうなるくらいなら、あの関係から動かなきゃ良かったんだろうか。
こんな勘違いで、終わるくらいなら。
いや。
どうせ、もう終わるなら。
「………舜太、顔、上げてよ」
「っ、ごめんなさ………」
「好きだよ」
舜太の唇に自分の唇を押し付けるように重ねた。
目をまんまるにしている舜太を無視して、抱きしめる。
「何か勘違いしてるみたいだけど」
「っ、え………?」
「…誘ったのは、俺だよ」
驚いて、口をはくはくさせているのも可愛いな。
そんなことを思いながら、俺は舜太と視点を合わせるためにしゃがみ込んだ。
「俺が…強要したの。舜太がお酒に酔ってるのを良いことにね」
「え、は、どういう、」
「だから…悪いのは舜太じゃなくて俺。全部俺のせいだよ」
俺が君を苦しめた。
ごめんね、とも言えなくて。
好きだよ、とも綺麗には言えなかった。
「泣かないで、舜太」
「ッ、あ、ぃ、」
「俺のせい。舜太は何も悪くない。俺の方だよ、傷付けたのは」
ごめん。
それだけ言って俺は、舜太の手をきゅっと握った。
「じ、ゅ゛う……」
「…はは。本当に、ごめんね…」
「ッちが、おれ、わるいのはおれで、」
「違うよ。俺が、舜太に、苦しい思いさせた…」
「…………………ち、がう!!!」
舜太のどこか悲しげな叫び声が、俺の耳をつんざいた。
「あのね、おれ、じゅうのこと、すきだよ………」
君のその、か細い声は。
俺の苦しかった心を楽にするには充分すぎるくらいだった。
「しゅ、ん、それって、」
「…そのままの、意味…だいすき、ずっと、すきやった」
「え、」
「片思いやと、思ってた。男の俺がこんなの気持ち悪いって思っとった」
舜太は、俺の手を、ゆっくりと握り返した。
「……期待しても、ええんやろ?」
少し赤く潤んだその瞳が、愛おしくて堪らなくて。
俺は何も言わずに、また舜太の細い体を抱きしめた。
店の外が騒がしかったので見に来てやったら、リア充どもの痴話喧嘩だった。
なんだ、柔太朗のやつ、ちゃんと言えたじゃねえの。
最近あの子も店に来てなかったからどうなるかとは思っていたけど。
俺はつい薄めのガラス越しに2人の声に聞き入る。
「ずっと、片思い…やと、思っとったわ、ほんまに、」
「俺も………舜太は、俺のことただのホストとしか見ていないと思ってた」
…うわあ、いかにもじゃん。爆発しろよ…
こいつら多分、上手くいったっぽいな。良かった良かった。
「ね、ねぇ、じゅう、」
「なぁに?」
「いつから…気付いてたの?俺が、男やって、」
「え、最初会った時から……笑」
「………………………………え゛!?!?!?」
「驚き過ぎでしょ。華奢とはいえ、声低いのと喉仏浮いてるからわかるよ」
「ぇ、あ、そうやったん……恥ず、」
「可愛かったよ?ふわふわのロングヘアも、頑張ってメイクしてたのも」
「もぅ……、やめてや、ほんまにっ」
なんだあいつら、店先でイチャイチャしやがって。
割って入ってやろうかという気持ちを抑え、勇人を手で呼び寄せる。
太智は……あいつさては帰ったな。
「勇人」
「……めでてぇ」
「な」
なるべく小声で話しながら、俺達は見守る。
外はまだ雨だから早く入って来てほしい。どっちも薄手すぎて心配になる。
…祖父みたい?黙れ。勇人だってずっとウロウロしているんだから。
「舜太……あの、改めて、言ってもいいかな」
「うん」
「好き、大好きだよ。俺と、付き合って下さい」
「……俺で、よければ」
「やあっと付き合ったなコンチクショーーーーー!!!!」
「赤飯だ赤飯!!つか風邪引くから店入れ!!」
……我慢できなかった。
勇人と俺は気付けば外に一斉に飛び出し、二人を祝い貶しながら店の中に引き摺り込んでいた。
「わ、っ!?あ…黒服さんと…ハヤトくん!?」
「はやちゃん、よっしー…」
「びしょ濡れだな。…詳しい話は後で聞いてやるから、ゆっくり奥の部屋で着替えてこいよ」
「………!そうだな!それがいい!な、行ってこい!いいから!」
二人を奥の部屋へ連行しながら、勇人がぱちんとウインクする。
ナイス、という意味を込めて俺も勇人にサムズアップしておいた。
「え、えっと、いいんですか…?」
「うん。まあ…今回だけだよ、笑」
「!ありがとう、ございます…」
「早く行け!柔太朗!手出せ!(小声)」
「もう出したよ(小声)」
「えっ!?!?!?(大声)」
……あの下品な二人には、説教と店の掃除丸投げだな。
まあ、それでも。
「おめでとう」
「………!なに、よっしー、デレた?笑」
「ちげえよ。早く行け、待ってんだろ」
「あ…ごめんね、舜太」
「いっ、いや、ええよ!むしろじゅうもこっちで話しとったほうが、」
「はい遠慮禁止。とっとと行け」
「じんちゃん、優しいのか冷たいのかどっちなの」
「ああ?俺は優しいだろうが」
「そうだね、かわいいねぇ」
「勇人は後で買い出し行けよ」
そんな無駄口を叩きながら、俺と勇人は二人の背中を見送った。
「防音だけどあんまうるさくすんなよ〜…」
この後何が起きるかなんて、誰でもわかるだろうに。
個室で俺は服を脱ぎながら、ぼんやりと考えていた。
…付き合えた。
片思いだと思っていたのに。
諦めた恋で、終わった恋だと思っていたのに。
「……しゅん、口開いてる」
「!ご、ごめっ」
「いーよ。可愛いから」
「……っ、あんま揶揄わんといて…」
びしょ濡れのシャツをハンガーにかけながら、俺は目を背ける。
隣で着替えるじゅうはすっかり上裸になっていて、ズボンのベルトを外している。
…うう、目に毒や。
「…なに見てるの、しゅんのえっち、笑」
「え゛ッ…………ご、ごめんなさい!!見とらん!!」
「いいよ見て。これからもっと見ることになるだろうし慣れときな」
「う、うう……………………………ん?」
な、なんて?
俺がつい聞き返すと、じゅうは意地悪に笑った。
「……このまま、する?」
それは、そういう意味なのだろうか。
「え、っと、じゅう」
「いいよ。どうせよっしーもはやちゃんもそのつもりでやったんだろうし…」
「え゛」
「それに俺も…舜太と、ちゃんと…愛し合いたい。ダメ?」
「だ、だめ、では、ない…けど」
何故か気付いたら俺が押されている。
無駄に広いソファで、じゅうの大きな手が俺の腕を掴む。
「………好きだよ、本当に」
「おれも……すき」
「…いい?」
「…うん」
じゅうから優しいキスが降ってきて、その温もりに身を任せる。
ああ、好きやなあ、なんて改めて自覚してしまった。
…俺はきっと、これからも。
あなたという迷宮の中で、生きていく。
【Fin】
コメント
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Labyrinthということですか、! 天才だぁぁ
新しいシリーズ来て最高にハッピーです😭😭😭😭本当に様様です😭😭😭😭😭😭😭😭😭ありがとうありがとうありがとうございます😭
更新嬉しいです!!😭✨️ ホストパロ最高すぎます🎶 他の女の子の姫に嫉妬するsynちゃん見たいなって思っちゃいました⊂( ᴖ ̫ᴖ)⊃