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夜は、音が少ない。
だからこそ、小さな違和感が際立つ。
玄関で靴を脱ぎ、部屋の明かりをつけた瞬間、
その静けさが、不自然だなと気づいた。
いつもなら聞こえる、遠くの車の音。
隣室のテレビ。
それが、何もない。
……静かすぎる。
鞄を置き、上着を脱ぐ。
視線が、自然と窓に向いた。
カーテンが、わずかに揺れている。
風だろうか。
そう思った直後、音がした。
――カタン。
軽いけれど、はっきりした音。
「……お、おばけ…!?」
足が止まる。
耳を澄ます。
今度は、金属が擦れる音。
鍵を、こじ開けるような。
(嘘でしょ……人…?)。
窓枠に、影が落ちる。
「だ、誰ですか……?」
返事はない。
次の瞬間、窓が開いた。
男が入ってくる。
顔は見覚えがない。服装は地味で、特徴がない。
「来ないで……!」
距離が、詰まる。
逃げ場はない。
腕を掴まれた。
「やっ……、やだぁ!!」
必死に振りほどく。
手が何かに触れた。
重い。
振り下ろす。
鈍い音。
男が崩れ落ちた。
しばらく、何も考えられなかった。
(なにをしてたんだっけ。)
現実に戻ったのは10分ほど後のことだ。
床に倒れた男は、動かない。
「……あ……」
息が、うまく吸えない。
携帯を掴む。
画面が、揺れて見える。
誰に電話すればいいか、考えようとして——
考える前に、指が動いた。
呼び出し音。
「……せん、ぱい……っ」
泣き声が、先にこぼれた。
その電話で、相沢は飛び起きた。
眠気は、一瞬で消えた。
「……誰?」
(こんな時間に誰よ…、眠いのに…!)
名乗る声がない。
ただ、泣いている。
「……ごめんなさい……っ」
(謝る?)
「落ち着いて。どうしたの」
「し、知らない人が……っ」
相沢は立ち上がり、靴を探す。
(とりあえず警察だし。)
「怪我は?」
「……ないです……」
(丁寧語、柔らかい声…。)
胸が、ざわつく。
「今どこ?」
「……家です……」
(家、ね。)
「電話、切らないで」
「……はい……」
「部屋に、他に誰かいる?」
短い沈黙。
「……動かない人が……います……」
相沢は玄関を出た。
(最悪の想定。)
「いい?何も触らないで、待ってなさい。今行くから。」
「……せんぱい……」
その呼び方で、すべて分かった。
( あぁ、芽衣ちゃん…。)
到着した部屋は、異様だった。
窓は壊され、床には争った跡。
そして、男が一人、倒れている。
(単独犯……?)
芽衣は、部屋の隅で膝を抱えていた。
「…芽衣ちゃん」
声をかけた瞬間、泣き崩れる。
(よく電話できた、がんばったね。)
「怪我は?」
首を振るが、言葉は続かない。
「……しゃべれないよね、いい。」
相沢は判断する。
(今は無理ね。)
黒瀬警部が到着する。
「相沢くん」
「あ…警部」
黒瀬警部は、まず芽衣を見た。
「……怖かったな、よくがんばった」
芽衣は反応しない。
(今日は慎重ね、警部にしては。)
医師の確認後、芽衣は眠りに落ちた。
「……寝ちゃいましたね」
「そうだろう」
「警部」
相沢は声を落とす。
「侵入者、単独じゃない可能性があります」
「ほう?」
「靴跡が二種類、あります」
黒瀬警部は、床を見る。
「……確かに」
(ここからだ。)
窓の外。
もう一つの足跡は、途中で消えている。
「見張り役か、仲間…」
「逃げた可能性が高いな」
相沢は、倒れた男の手元を見る。
(……印。)
手首に、小さなタトゥー。
「警部、このマーク」
「……最近出ている侵入窃盗グループと同じだ」
「やっぱり」
(偶然じゃない…!。)
「役割分担型。侵入役、見張り役、回収役」
「今回は?」
「侵入役が芽衣ちゃんの部屋に入り、想定外の抵抗を受けたんですね、」
「仲間は見捨てた、か」
(最低ね、)
「芽衣ちゃんは、完全に被害者です」
「異論はないな。」
黒瀬警部は頷いた。
「正当防衛だ」
相沢は、ようやく息を吐いた。
(でも…終わってない。)
「あぁ、かわいそうな芽衣ちゃん…、よくも僕の大事な後輩ちゃんを…!」
(今回ばかりは突っ込まないでおこう、)
朝。
芽衣が目を覚ました。
「……あ……」
「芽衣ちゃん」
「……せんぱい……」
涙が、また溢れる。
「……私……」
「芽衣ちゃん」
相沢は、はっきり言った。
「芽衣ちゃんは、被害者」
「……でも……」
「侵入、暴行、抵抗。全部、記録されてる」
黒瀬警部が続ける。
「君は、助けを呼べた。それが全てだ、がんばったな。」
芽衣は、小さくうなずいた。
「……電話して……よかった……」
「正解」
相沢は心の中で言う。
(でも)
(次は、私たちの番だ)
窓の外に、朝日が差し込む。
事件は終わった。_1つだけ。
だが、白波市の夜には、
まだ、見えない影が残っていた。