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第三話「夜に残った合図」


夜は、音が少ない。

だからこそ、小さな違和感が際立つ。


玄関で靴を脱ぎ、部屋の明かりをつけた瞬間、

その静けさが、不自然だなと気づいた。

いつもなら聞こえる、遠くの車の音。

隣室のテレビ。

それが、何もない。

……静かすぎる。

鞄を置き、上着を脱ぐ。

視線が、自然と窓に向いた。

カーテンが、わずかに揺れている。

風だろうか。


そう思った直後、音がした。

――カタン。

軽いけれど、はっきりした音。

「……お、おばけ…!?」

足が止まる。

耳を澄ます。

今度は、金属が擦れる音。

鍵を、こじ開けるような。

(嘘でしょ……人…?)。

窓枠に、影が落ちる。

「だ、誰ですか……?」

返事はない。


次の瞬間、窓が開いた。

男が入ってくる。

顔は見覚えがない。服装は地味で、特徴がない。

「来ないで……!」

距離が、詰まる。

逃げ場はない。

腕を掴まれた。

「やっ……、やだぁ!!」

必死に振りほどく。


手が何かに触れた。

重い。

振り下ろす。

鈍い音。

男が崩れ落ちた。

しばらく、何も考えられなかった。

(なにをしてたんだっけ。)


現実に戻ったのは10分ほど後のことだ。

床に倒れた男は、動かない。

「……あ……」

息が、うまく吸えない。

携帯を掴む。

画面が、揺れて見える。

誰に電話すればいいか、考えようとして——

考える前に、指が動いた。


呼び出し音。

「……せん、ぱい……っ」

泣き声が、先にこぼれた。



その電話で、相沢は飛び起きた。

眠気は、一瞬で消えた。

「……誰?」

(こんな時間に誰よ…、眠いのに…!)

名乗る声がない。

ただ、泣いている。


「……ごめんなさい……っ」

(謝る?)

「落ち着いて。どうしたの」

「し、知らない人が……っ」

相沢は立ち上がり、靴を探す。

(とりあえず警察だし。)

「怪我は?」

「……ないです……」

(丁寧語、柔らかい声…。)

胸が、ざわつく。

「今どこ?」

「……家です……」

(家、ね。)


「電話、切らないで」

「……はい……」

「部屋に、他に誰かいる?」

短い沈黙。

「……動かない人が……います……」

相沢は玄関を出た。

(最悪の想定。)

「いい?何も触らないで、待ってなさい。今行くから。」

「……せんぱい……」

その呼び方で、すべて分かった。

( あぁ、芽衣ちゃん…。)


到着した部屋は、異様だった。

窓は壊され、床には争った跡。

そして、男が一人、倒れている。

(単独犯……?)


芽衣は、部屋の隅で膝を抱えていた。

「…芽衣ちゃん」

声をかけた瞬間、泣き崩れる。

(よく電話できた、がんばったね。)

「怪我は?」

首を振るが、言葉は続かない。

「……しゃべれないよね、いい。」

相沢は判断する。

(今は無理ね。)


黒瀬警部が到着する。

「相沢くん」

「あ…警部」

黒瀬警部は、まず芽衣を見た。

「……怖かったな、よくがんばった」

芽衣は反応しない。

(今日は慎重ね、警部にしては。)


医師の確認後、芽衣は眠りに落ちた。

「……寝ちゃいましたね」

「そうだろう」

「警部」

相沢は声を落とす。

「侵入者、単独じゃない可能性があります」

「ほう?」

「靴跡が二種類、あります」

黒瀬警部は、床を見る。

「……確かに」

(ここからだ。)



窓の外。

もう一つの足跡は、途中で消えている。

「見張り役か、仲間…」

「逃げた可能性が高いな」

相沢は、倒れた男の手元を見る。

(……印。)

手首に、小さなタトゥー。

「警部、このマーク」

「……最近出ている侵入窃盗グループと同じだ」

「やっぱり」

(偶然じゃない…!。)

「役割分担型。侵入役、見張り役、回収役」

「今回は?」

「侵入役が芽衣ちゃんの部屋に入り、想定外の抵抗を受けたんですね、」

「仲間は見捨てた、か」

(最低ね、)


「芽衣ちゃんは、完全に被害者です」

「異論はないな。」

黒瀬警部は頷いた。

「正当防衛だ」

相沢は、ようやく息を吐いた。

(でも…終わってない。)

「あぁ、かわいそうな芽衣ちゃん…、よくも僕の大事な後輩ちゃんを…!」

(今回ばかりは突っ込まないでおこう、)


朝。

芽衣が目を覚ました。

「……あ……」

「芽衣ちゃん」

「……せんぱい……」

涙が、また溢れる。

「……私……」

「芽衣ちゃん」

相沢は、はっきり言った。

「芽衣ちゃんは、被害者」

「……でも……」

「侵入、暴行、抵抗。全部、記録されてる」

黒瀬警部が続ける。

「君は、助けを呼べた。それが全てだ、がんばったな。」

芽衣は、小さくうなずいた。

「……電話して……よかった……」

「正解」


相沢は心の中で言う。

(でも)

(次は、私たちの番だ)

窓の外に、朝日が差し込む。

事件は終わった。_1つだけ。

だが、白波市の夜には、

まだ、見えない影が残っていた。


こんなんだけど、解決しちゃう!

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