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やっぱ男なら ”武器談義” だよねー。
てなわけで、インベントリーからナイフ・ショートソード・短槍・クナイ・盾などを出すと、それをリビングテーブルの上に並べていく。さすがに盾は大きいので、テーブルの横に立て掛けているけど。
「これって本物かい? っていうか、今どっから出した!?」
「ハハハッ、実は俺、インベントリー持ちなんですよ」
「インベントリー? 無限収納のことかな? 異世界ものではド定番のスキルだよね。本当にあったんだ」
剛志 (つよし) さんの目が輝きだした。(剛志さんはマリアベル (葵) のお父さんです)
ああ、やっぱりそうなのか~。
だって、そこにあるフリーラック (本棚) 。
俺でも知ってるような有名どころの ”ライトノベル” がずら~り並んでるもんなぁ。
相当、読み込んでいるとみた。
先程から紗月 (さつき) が、そのフリーラックにとり付いたまま、ラノベを読み耽っているのだ。
きちんと正座をして読んでいる姿は好感がもてるところだが、人の家に来てそれでいいのかと問いたい。
「触ってもいいのかい?」
モノホンの武器を目の前に、剛志さんは興奮している様子だ。
「はい。どうぞ手にとってご覧ください。刃の部分には手を触れないようにしてくださいね」
そう言って紫色の袱紗を剛志さんに渡してあげた。(茶の湯で使うぐらいのもの)
あて布の代わりだな。
白手袋や新しい手ぬぐいでもいいが、刃の部分は素手で触ってはいけない。
厳密にいえば、息も当たらないように心がけたい。
鋼で出来た刃 (やいば) というのは、とかく錆びやすいものなのだ。
一本のショートソードを手にとり、じっくりと見つめている剛志さん。
(気に入っちゃったのかな)
武器のできた経緯や材質、戦ったときの使用感なども交えながら解説していった。
さらには、ダンジョンの概要 (あらまし) についても説明していく。
黙っていても、ダンジョンが覚醒すれば、どうせ分かってしまうことだしね。
それにマリアベルのお父さんなら、俺にとってもお父さんになるのだ。
隠し事はなしでいきたい。
できることなら、こちら (福岡) でレベリングの手伝いもしてあげたい。
レベルが上がれば、有事の際に対応しやすくなるからね。
それに、あの【ダンジョン】があるんだよ!
ラノベを読んでるものなら、誰だって【ダンジョン】と聞いて心躍らないわけないよね。
なぜならそれは、憧れて止まない夢 (ロマン) のかたまりだから。
いつもなら小言をいってくる、マリアベルがここに居ないのをいいことに、
剛志さんの夢を叶えるべく、俺はグイグイ話を進めていった。
しかしだ……、何となく煮え切らない感じの剛志さん。
「何か気にかかる事でもあるんですか? なんでも言ってみてください」
不思議に思った俺は、思いきって剛志さんに尋ねてみた。
「……………………」
すると、長い沈黙のあと、剛志さんは履いていたスエットパンツの裾を捲り上げ、左膝を俺に見せてきた。
(おぅ!…………)
そこにはケロイドになった皮膚。それと大きな手術痕が膝を割るように走っていた。
「まあ、見てのとおりさ。こんな足ではまともな戦闘なんて無理だよ…………」
話を聞いてみると、
若い時分にやんちゃして、オートバイで事故を起こしてしまったらしい。
その後、何度も手術を繰り返し、ようやく普通に歩けるまでになったそうだ。
「娘たちが小さい頃には、運動会にも参加できず、肩身の狭い思いをさせてしまった……。山登りやアスレチックなんかも一緒に行ってあげたかった……」
膝をさすりながら涙を浮かべている剛志さん。
マリアベル (葵) よ……、いいお父さんじゃないか。
俺はシロを召喚することにした。
本来はホテルに入ってから呼んであげるつもりだったが、ここに来てもらうことにしたのだ。
一応、剛志さんに了承を得たあと、額に指を当て、そして念じる。
(シロおいでー!)
すると次の瞬間、シロが尻尾を振りながらリビングに現れた。
「しょ、召喚術!? その白い犬は従魔なんですか?」
「そうです。こいつは従魔のシロ、俺の相棒ですね」
「あっ、シロにぃだー。シロにぃ来た!」
メアリーはシロに抱きついている。
「シロ様、お疲れ様です」
シロに労いの言葉をかけているキロ。
そんな中でも、”我関せず” といったものが若干一名。
リビングの隅で、ひたすらラノベを読んでいる紗月である。
何事にも動じない集中力は見事だといえるが、横にキープしてある本がまた増えていた。
まさか、それ全部読んでいくつもりじゃないよね。(汗)
「シロ、この方はマリアベルのお父さんだ。治療を頼みたいんだが、古傷でもいけるかな?」
「ワン!」
シロは剛志さんの膝にちらりと目をむけ、
『かんたん、おいしい、まかせて、しげる、おすし、きず』
自信ありげに念話を飛ばしてくる。お昼は茂 (しげる) さんとお寿司を頂いてきたようだ。
……なんとかいけそうだな。
「剛志さん、テーブルの上で膝を伸ばせますか?」
俺はバスタオルを取り出すと、リビングテーブルの上に広げた。
まずは膝の状態を鑑定して確かめよう。
右手を膝の上にそっとのせ、――鑑定!
何回も手術をしてきたという剛志さんの左膝は、少しいびつな形になっていた。
(シロ、どうだ?)
シロはコクコク頷いている。 ――可愛い。
よし、じゃあいくぞ……。
右手は膝にあてたまま、左手をシロの背中においた。
「リカバリー!!」
発声すると同時に、膝全体が強い光に覆われる。
そして、その光は徐々に膝の中へ吸い込まれていく。
みんなが固唾を呑んで見守る中、光が消え膝が露わになる。
「…………」
「おお……」
「すご~い!」
そこにあるのは、ケロイドも手術痕もない、まっさらで綺麗な膝であった。
「お、お、おれの膝が…………。ははっ! はははははははっ!」
剛志さんは立ちあがると、ソファーの隣で屈伸運動をはじめた。
そして笑っていた。
ポタッ、ポタタッ、涙で床を濡らしながら笑っていた。
「なになに、どうしたの? あっ、シロ来てたんだ~」
マリアベルが妹の部屋から飛び出してきた。
「それで、あなたは何で泣いてるの?」
「お父さん大丈夫?」
マリアベルに続き、お母さんと妹さんもリビングに集合するかたちとなった。
俺はメアリーを隣に呼び、お母さんに挨拶をしながらエレベーターでのいきさつを簡単に説明していった。
「そうなの、それは大変ねぇ。閉所恐怖症かしら。都会ではなおさら不便になるわね」
お母さんの名前は久実 (くみ) さん。少しふくよかで優しそうな美人さんだ。
「お母さん、この人が私の婚約者なのよ。どう? イケメンでしょ」
マリアベルが俺の隣に座り、腕を組んでくる。
「いーなー、お姉ちゃん。お姫様でイケメンの婚約者がいるなんて。ホントうらやましいなぁ」
妹さんの名前は楓 (かえで) 。ブラウンの髪はショートボブで活発そうな印象をうける。
「はいはい。でもね、封建社会はそんなに甘くはないのよ~」
「そっかー、いろいろあるんだね」
「それとねぇ楓。公園にいた ”チャト” を覚えてる?」
「あーうん、チャトも突然居なくなったの。おねーちゃんもチャトも居なくなって、ウチすっごく寂しかったんだよぉ」
そして、マリアベルはチャトを召喚する。
「ウニャン?」
チャト登場。いつものデカ猫サイズである。
どこに呼び出されたのかわからず、しばらく戸惑っていたチャトだが、
テーブルの向こうに座る楓を見つけると、足元に寄っていきスリスリと体を押しつけている。
「キャー、チャト! 本物だー。なんで? なんで?」
楓はチャトを抱きあげると、頬にあてウリウリしながら喜んでいる。
大きさは気にならないのだろうか? 一抱えあるとおもうが。
………………
「お、おい、聞いてくれよ。オレの膝が…… 膝がな…………」
何か訴えようとしている剛志さん。
女性たちに圧倒され、いつの間にかキッチンテーブルの隅に追いやられていた。
みんなが揃ったところで、俺はこれから起こることについて語っていく。
ダンジョンが引き起こすであろう地震などについては、できるだけ分かりやすく丁寧に話していった。
できることなら、協力してほしいともお願いした。
「うん、話は大体わかったよ。たしかにこちら (地球) の事はこちらの人間がやるべきだね。そういうことなら、私も及ばずながら協力させてもらうよ」
剛志さんが遠くから応えてくれている。顔は見えないけど。
「本当ですか、宜しくお願いします! なにせ俺は身分証もない身の上ですから」
「そうだね~、国が出てくれば身分証なんかどうにでもなるとは思うけど。この国はそういった未知なるものへの対応は遅くなりそうだからね~」
「アメリカなんかと比べるとそうかもしれませんね。でも、サブカルが発達している分、意外と面白くなるかもしれませんよ」
「とすると、まずはそのダンジョンというものを体験してみないとね。話をするにしても説得力がないといけないからね」
「はい、いつでもこちらに来ていただければ対応できます。宿泊する施設も準備できますし」
「そうよお母さん。温泉の大浴場があるんだから」
「えっ温泉! 葵それって本当なの? あなた行きましょう。すぐに行きましょう! 盆明け会社に出たってどうせ暇なんでしょう。有給もたっぷり残ってるし、決定ね!」
おやおや、お母さんが乗り気になってしまったようだ。
「暇……、有給……、おれの膝…………」
この後みんなで池袋に繰り出して、美味しいご飯を食べようとうことになった。
シロとチャトも光学迷彩があるので大丈夫。
紗月もそんな顔をしないの。剛志さんに言えば本は貸してもらえるから……、ねっ。