テラーノベル
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玲央は煙の立ち上る方向へ慎重に進んだ。
太陽はすでに高く昇り、気温も上がっている。
喉の渇きが限界に近づいていた。
「……水を探さないと、まずいねぇ……」
足元の土は乾いてひび割れており、この付近には川がなさそうだ。
それでも、集落の近くなら水源がある可能性は高い。
玲央は疲れた体に鞭を打ち、歩き続けた。
——そして数時間後、森を抜けた瞬間、玲央の目に奇妙な光景が飛び込んできた。
そこには、石造りの建物が並ぶ小さな集落があった。
人の気配もある。
数人の男女が、集落の中央で何か作業をしていた。
(……文明レベルは、石神村と同じくらいかねぇ?)
石造りの建物に、簡易的な道具を使う人々。
原始的ながら、整った暮らしをしているように見える。
玲央はしばらく茂みに身を潜め、様子を窺った。
(……ここでどう動くか、だねぇ。)
突然現れて警戒されるのは避けたい。
だが、体力も限界。
このまま動けなくなれば、逆に危険になる。
玲央は深呼吸し、慎重に足を踏み出した。
「……よう。悪いけど、水を分けてもらえないかねぇ?」
静寂が走る。
集落の人々が一斉に玲央を見た。
男の一人が、警戒したように近づいてくる。
「……お前、どこから来た?」
玲央は軽く肩をすくめた。
「それが、俺にも分かんないんだよねぇ。気がついたら、ここに流れ着いてた。」
男は険しい表情を浮かべ、周囲の者と目配せをした。
「……余所者か。何か企んでるんじゃないだろうな?」
「水をもらうのに、企むも何もないさ。こっちは干からびそうなんだよねぇ。」
玲央はゆっくりと両手を上げ、敵意がないことを示した。
その時——
集落の奥から、一人の老人が現れた。
「その者を傷つけるな。」
低く響く声に、周囲の人々が道を開ける。
老人は玲央の前に立ち、鋭い目で見つめた。
「お前、名は?」
「玲央。……律野玲央だ。」
老人は目を細め、何かを考えているようだった。
「……面白い。お前を試してやろう。」
「試す?」
「余所者がこの村に入るには、信頼を得ねばならん。お前に、その覚悟があるか?」
玲央は口の端を上げた。
「……ノってきたねぇ。」
こうして、玲央はこの未知なる集落で、新たな試練に挑むことになった——。
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