なんで俺は…
「……お願いします。ぜひ、うちに任せてください」
声を張り上げ、必死にプレゼンを続ける。
クライアントの表情は硬い。頷いてはいるが、決め手に欠けているのは自分でも分かっていた。
(頼む、食いついてくれ……!)
ひと通り話し終えた後、クライアントは曖昧な笑顔を浮かべただけだった。
「検討します」
その一言に、俺の努力はあっさりと片付けられる。
会社へ戻る足取りは重かった。
何度も準備したのに、結局成果はゼロ。
同僚に「どうだった?」と声をかけられても、笑ってごまかすしかない。
(……俺には向いてないのかもしれない)
そんな思いが頭をよぎった瞬間、オフィスに歓声が上がった。
「さすが一条さん!」「また大口契約ですか!?」
視線を向けると、颯真が上司に握手をされているところだった。
爽やかな笑顔、拍手喝采。俺とは正反対の景色。
(また、あいつかよ……)
心がきしむ。努力しても報われない自分と、何をやっても成功する颯真。
比べたくなくても、比べずにはいられなかった。
そんな俺の前に、颯真がふいに現れる。
「篠原くん、今日のプレゼン良かったよ」
「……は?」
「クライアントの反応、見てただろ? 俺の話をしたときより、君の資料を出したときの方が目が光ってた。君が作ったあの提案書、すごく効いてたんだ」
颯真は本気の顔で言っていた。
からかいでも、慰めでもない。
まるで俺の努力をずっと見てきたみたいに。
「……そんなの、気のせいだろ」
思わず突っぱねた。
素直に受け止めればいいのに、認めたら負けだと思った。
俺は颯真が嫌いで、だからこそ認めたくなかった。
だが、その背中を見送るとき、胸の奥に小さなざわめきが残った。
(……なんで、あいつは俺なんか気にかけるんだ?)