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僕と京介はハルのお墓にやって来た。僕がここ来るのは初めての事だった。
お墓には、確かに「永田家之墓」と記されている。
道中で買ってきた花を添え、お墓に向かって手を合わせた。雨が強かったから、線香を上げるのは無しにした。目を瞑り、ハルと、ハルの家族を想う。
……僕を受け入れてくれて、ありがとうございました。…ハル、ごめん。
伝える事ができなかった言葉を、伝えた。
「……」
「帰るか、」
黙って頷いた。
墓地を抜け、拓けた場所まで出た。
「ねぇ、京介」
「何だ?」
「ハルは、何で自殺なんかしたのかな」
「、、死にたかったんだろ」
京介は特に何とも思っていないように、そう言った。
「…」
僕は立ち止まった。
「、ゆき?」
京介が急に立ち止まった僕を見た。
「ハルは、死にたいなんて言わなかった。」
たったの1度だって。
(「俺なんて、死ねば良かったのに」)そう言ったハルは、自殺なんかする気配はなかった。ただ。家族の死に悲しんでいただけだ。生きる事に絶望なんてしていなかった。
「それでも、アイツが自殺したのに変わりはない。」
何で、京介はそんな風に言えるのだろう。確かに、ハルは自殺だった。でも、
「僕なんかが居なければ、何もしなければ、ハルは自殺なんてしなかったはずだ、、」
「は?」
もし、僕が拒まなければ、ハルに躊躇わずに触れていれば、抱きついてでも縋っていれば、ハルは自殺なんてしなかったはずだ。
「僕は、目の前にいたのに。とめられたはずなのに、僕はっ、」
手が震えた。自分でも何なのか分からなかった。だが、腹の底から込み上げてくるものがあった。
「なんで、そうなるんだ!」
京介が声を上げた。
「ゆき、もう過ぎた事なんだ」
もう、過ぎた事?そんな事、分かってるよ。
「じゃあ、ハルが自殺する前、ゆきは何で閉じこもってたんだ?」
何でって、それは、、ハルが、。暗い部屋での記憶が蘇る。
「、言えよ」
言えない、言える訳がない。
「言えないような事されたくせに、何であんな奴を庇い続けるんだ」
「…」
京介は、あの出来事を知っているのだろうか。
僕は持っていた傘を手放した。冷たい雨が髪を濡らす。
「何してるんだ」
京介は持っていた傘を傾けた。でも僕はその傘を振り払った。
「ゆき、」
「庇ってなんかいない」
大量の雨が体を打つ。
「僕はただ、」
視線を足元に落とした。
「解りたかった、。」
ハルの。気持ちを。
冷たい雨に体温を奪われていく。
そうだ、あの日もそうだった。僕が、どれだけ泣こうと、名前を呼ぼうと、強い雨音にかき消された。
「…」
沈黙が訪れた。
雨音だけが鳴っていた。
「…俺は、アイツが憎い」
京介が沈黙を破った。
「アイツは、ハルは、ゆきの全部を奪った。心も、初めても、ゆき自身も、全部。死んだくせに今も、ゆきをあの日に縛りつけて、。本当は、今日俺がゆきをここに連れてきたのは、ハルの事を諦めて欲しかったからだ。見たら、分かってくれると思った」
「…わかんないよ、」
「ゆき、」
京介が言っている言葉の意味が分からなかった。
あの日の記憶は、昨日の事のように鮮明に溢れ出てくる。
自分が泣いているのかも、分からなかった。
(「ゆきって、ほんと泣き虫だよな」)僕はハッとして目を擦った。
泣いてしまっている自分に、嫌気がした。
「…っ…」
ハルは死ぬ直前、死ぬというのに嬉しそうな顔をしていた。そして笑顔で、僕に向かって「好きだ」と、そう言った。何で、最後にこの言葉を残したのか聞いても教えてくれなかった。
動かなかった。
「わかんないよっ、、」
僕は、こんな自分が大嫌いだ。
どうせ半年後に死ぬのに、諦めてしまえばこんなに苦しむ事はないのに、何も手放せないのが僕だった。
ふわりと、京介の腕の中にに包まれた。
「きょう、、すけ、」
「ゆき、帰ろう、?」
京介は穏やかにそう言った。京介の体温は暖かった。冷えきっていた体が、心が、暖まっていく気がした。
京介の瞳には、僕が映っていた。他でもない、僕1人だけを捉えていた。
「知りたいなら、俺が教える。だから、アイツじゃなくて、俺を見てよ、」
「京介、」
京介はずっと、そんな事を思っていたのだろうか。
「、知りたい」
僕は、真っ直ぐ京介を見た。
目が会う。気づくと、唇を重ねていた。
嫌じゃないと思ったのは、初めてだった。