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「……ルコサ先生?なにしてるんですか?」
「逆に上半身裸の女2人で何してるんだ……どう言う状況、これ」
ルコサが女子トイレに入ってきた瞬間。
その場の吸血鬼達は一瞬で人間の姿に戻り、倒れていた男の子は変身した男の子と一緒に個室トイレに引っ張り込み、扉を閉めて隠した。
まさに、見事な連携だった。
だがルコサはというと――
頭痛と吐き気で目も虚ろなまま、下を向きながらふらふらと入ってきたため、その瞬間を一切見ていなかった。
「ルコサ先生?ここ、女子トイレなんですけど……」
すひまるもコクコクと首を縦にふって肯定する。
しかしルコサは眉ひとつ動かさず、
「す、すまん、変態でも何でもいい、というか俺は下着フェチでパンティとか好きだから元々変態だ……だが今は……オエ……男子トイレの大が全部閉まってたんだよ!のいてのいて!吐いちゃう!」
「! あ!そっちは!」
すひまると女リーダーを押しのけながら、フラフラと向かっていく。
その先には――
ユキの居る、個室トイレの扉。
「ひ、ひ!」
「ん?あぁ、今日来る予定だった子供達の一人か……ちょっとごめんね」
ルコサは明らかに異常な様子のユキを一瞥するも、特に気に留めず。
「見、見ないでね、もう……無理オロロロロロロロロロロロロロ……」
思いっきり便器に顔を突っ込み、盛大に吐いた。
吐く。
胃の底から――魂ごと――。
通常なら絶対に見たくない、聞きたくもないビチャビチャという音がトイレに響き渡る。
だが、それが逆にユキの恐怖心を和らげた。
「ちょっと楽になった……まだ少し頭痛がするけど」
流すボタンを押してトイレを流したルコサの白いローブを、正気に戻ったユキが必死に引っ張る。
「た、助けてくださいです!」
「……?? どうしたの、君?」
そのとき、女リーダーが静かに口を開いた。ルコサが片付けを終えるタイミングを狙っていたのだ。
「ルコサ先生、その子、どうやら迷子でここに来たみたいなんです。私が責任もって連れていきますので、先生はいつも通り保健室に……」
「うそです!ユキを……ユキを助けてくださいです!お願い、お願い……!」
「わかったわかった、泣きそうになるんじゃないよ、めんどくさい……ん、ユキ?」
「は、はいです……ユキです」
「なるほどね……」
ルコサはふぅっと息を吐いてから立ち上がり、腰が抜けたユキをすっとお姫様抱っこする。
「ルコサ先生?」
「悪いけど、この子は“先生”である俺が届けるよ。……そっちは頼む」
「……」
「……」
すひまると女リーダーは動けない。
この状況で深く突っ込まれたら、すべてが露見する。
だが、女リーダーは決めていた。
――排除するなら、いましかない。
「じゃあ!」
ルコサがユキを抱えて女子トイレの扉へと歩き出したその瞬間。
背中を見せた隙を狙い、女リーダーは隠していた尻尾を伸ばして突き刺そうとする。
だが――
「やめといた方がいいよ」
ルコサは一歩も振り返らずに言った。
ピクリ、と女リーダーの尻尾が止まる。
「……何を、ですか?ルコサ先生」
「……さっきの件はね、女子トイレに入っちゃった罪悪感、ゲロ吐いたのを見せた謝罪、あと君たちの素敵な下着姿を見てしまったいろんな諸々含めて――」
ルコサは、くるりと振り返りながら。
「【この子】以外は、ぜんぶ見逃してあげるよ。めんどくさいし」
その笑顔は、まるで冗談のようだった。
だが――
「だから、何を見逃すって……独り言が大きいですよ?」
女リーダーは、薄ら笑いで返す。引かない構え。
ルコサは、ゆっくりと、ユキを片手に抱いたまま女リーダーとすひまるを見据えた。
「舐めすぎだよ。お前たちの目の前にいるのは――」
「【神の使徒】だ」
静かに、だが確実に空気が変わる。
ルコサの目が細められたその瞬間――
あのふにゃけた雰囲気は、どこにもなかった。
女リーダーは、ぞくりと背筋を凍らせた。
「じゃぁね、2人とも……下着のセンスは良かったぜ」