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ルコサはユキを抱っこしてそのまま保健室へやって来ていた。
保健室の先生は文化祭の応援で別室に移動中。つまり今は、ルコサとユキのふたりきり。
ベッドにユキを座らせたルコサは、ため息をひとつついてその隣に腰を下ろす。
「あ、あの……助けてくれて、ありがとうです……」
「ん? まぁ……何があったかは知らないけど、気にするのが……めんどくさいだけだよ」
「でも、ほんとに……ほんとに恐かったです……」
「うん……そうだね。恐かったね」
二人の間に、ぽつりと沈黙が落ちた。
大人のくせに子供の扱いがまるでわからないルコサと、大人の男に慣れてないユキ――その距離感がぎこちない空気を生む。
「あ、あの……お礼、したいです……」
「ん? ……え、ちょ、待って!?」
ユキはもじもじと立ち上がり、顔を真っ赤にしながらモグリ邸の制服のボタンに手をかけた。
「やめろやめろやめろ!!」
あわててルコサが手を伸ばし、服の前を押さえる。
もう少しであられもないところが見えそうだった。
「な、何をしようとしてたの!?」
「だ、だって……お兄さんさっき、女の人の下着が好きだって……言ってたです……だから、ユキの見せれば喜ぶかと……」
小さくうつむいたまま、ユキは袖をきゅっと握る。
「お、お前……マジで言ってんのか!?」
「だ、だって……お礼が思いつかなくて……それならって思ったです……」
「……うぉぉぉぉぉぉ……!!」
ルコサは頭を抱える。
――そういう意味で言ったんじゃない、などという大人な言い訳は通じる相手ではない。相手はピュアでバカ正直な少女(しかも正体不明)なのだから。
「……いいか、俺はパンティーが好きだ。これは真実だ。揺るがぬ信仰だ……だが!だからって子供に見せてもらう趣味はない!!断じてない!!」
「……あう」
「はぁー……いいか、お礼ならもう十分受け取ったよ。助けた子に“ありがとう”って言ってもらえるなんて、それだけで十分だ」
「……そう、ですか?」
「そうだ。だからもう……脱ぐなよ、絶対にな」
「は、はいです!」
ピシッと姿勢を正すユキ。
そしてようやく、ルコサの表情にも少しだけ、安心したような柔らかい笑みが浮かんだ。
「ふぅ……こんな状況、クロエに見られたらぶち殺されるわ……めんどくさい」
「でも、ユキに今できるお礼は、それくらいしかないです……」
「うんうん、お礼をちゃんとしようとする君の姿勢、きっと親御さんがいい人だったんだろうね」
ユキは、ぽかんと一瞬間を空けてから、ぱぁっと笑顔を咲かせた。
「ふへへ、おかぁさん、イイ人です」
泣きじゃくっていた顔に、少しずつ色が戻っていく。
「よし、じゃあこうしようか。君が大きくなって、もし今日のことを覚えてたら——その時は、パンティーを一枚、譲ってくれないかな?」
「え……でも、また会えるかわからないです……」
「大丈夫、また会えるよ。必ずね」
「……うん!わかったです!」
「それと、これをあげる」
ルコサは懐から一枚の古びた魔皮紙を取り出し、くしゃっとなったユキのポケットにそっと滑り込ませた。
「これ、なんですか?」
「宝の地図さ。【君達がレールに乗るには、まだ若すぎるから——神からのプレゼント】ってとこだね」
「????」
ユキは首をかしげながらも、お母さんが言ってた『貰えるものは貰っておけ』をしっかり実行した。
「ありがとうです!」
「うん。それと……ごめんね?」
「え……?」
ルコサは静かにユキの額に指を当てる。
ぽふん——淡い魔法の光と共に、ユキはベッドに倒れて眠りについた。
「君が今日見たものは、まだ心に置いておくには重すぎる。……これは俺のエゴかもしれない。でも【君にはまだ早い】」
静かな寝息が、保健室に穏やかに響く。
「そして——【真実を知ったら、世界はもう“夢”ではいられない】。君の夢が終わるその時まで……」
ルコサは窓の外を見上げた。
「……全ては【神の導きのままに】」