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祐希Side


「祐希君、どうしたの?」


いつまで経っても座る様子のない俺を見かねて、ヒナが遠慮がちに呟く。

上目遣いに見つめる瞳に、何でもない‥と声を掛け、座り込もうとしたが‥



「ねぇ祐希、袋、落としたけど、それ何?」



俺の足元に落としたままの袋を指さし、尋ねるユミ。しかし、伝える前にはもうすでに中を覗き、あ‥と声を上げていた。



「えー、これ、アソコのガトーショコラじゃない?めっちゃ美味しいって有名な。買ってきてくれたの?嬉しい♡」


「え‥いや‥」


「あっ、そっか。これ好きって言ってたの確か、ヒナだよね?だから、買ってきたの?ズルい、ヒナ!!」


何がズルいのか、ヒナを妬ましそうに見つめ頬を膨らませるユミになんと言っていいか分からず、黙り込む。



ヒナが好きって言っていたのか‥。


記憶を探るが、ちっとも覚えていない。そもそも、これは藍の為に買ってきたものだ。藍が喜ぶかなと‥。



「そう‥なの?祐希君?」


だが、遠慮がちに俺に真意を問うヒナにそんな事が言える訳もなく‥


「あ‥う、うん。良かったら、食べて」


「ありがとう。嬉しい」


満面の笑みに多少後ろめたさを感じつつも頷いた。ガサゴソともう袋を開けて広げているユミの背中を見つめる。


余分に買って置いて良かった。


店員さんに2人分と伝えるのを躊躇して、多めに購入していた。


早速、食べ始めたユミが美味しいと口元を綻ばせる。太志もいつの間にか、食べ始めているし。


ヒナも小さな口を開き、一口頬張ると口元に手を当てながら、うんうんと頷いて堪能している様子だった。


さすが人気店のものらしく、皆、喜んでいた。


嬉しく思うが、心がざわつく。


アイツも喜んで食べてくれただろうか。


それとも、こんな物を買ってきた俺を笑うだろうか。似合わないって。





「‥‥‥祐希君は‥食べないの?」


「え?、ああ‥俺はいい。俺の分も食べていいよ」



一人黙って見ていたからか、隣に座っていたヒナがそんな俺に声を掛ける。


「ねぇ‥祐希君‥もしかして‥これって‥さっきの人にあげるつもりだったんじゃない?‥私じゃなくて‥」



「さっきの人?」



「うん‥えっと、藍君って言ったかな?その子にあげるつもりだったんじゃない?私達、急に来たから‥本当は、部屋にいた彼のために買ったんじゃないかと思って‥」



「‥‥‥‥」



探るような彼女の瞳から逃げるように逸らしたまま、視線を宙に彷徨わせる。


なんと言えばいいのか分からず、結局黙り込む。

もう一度、ヒナ達の為に買ってきたと嘘をつけばいいのに、何故かそれが言えなかった。



そんな俺を黙って見つめていたヒナだったが、おもむろにフッと微笑み、俺の肩を軽く叩く。



「それにしても、さっきの藍君、綺麗な人だね。いくつなの?年下かなって思ったけど」


「高2」



「高2‥6歳下なんだ。どこで知り合ったの?」


「藍なら、いつの間にか祐希の試合観に来てたよな?確か、アイツが小学生の頃からじゃね?それからほとんど、試合の時は来てたから。すげぇ祐希のファンなんだろ!」



話に割り込んできた太志が、モグモグと頬張りながら経緯を説明する。


小学生の頃からという言葉に、ヒナは驚いたのか、大きな瞳をさらに見開く。



「小学生‥そんなに前から祐希君に出会えてたんだ。羨ましいな、藍君。それからずっと仲良いの?他にもそんな人がいるの?」


「祐希は、ファンクラブみたいなのもあったからな。男女どっちにも好かれてたし。でも、藍だけじゃね?そんなに親密になったのは。他の奴なんて聞いたことないし」



「藍君だけなんだ‥ふーん。祐希君にとって藍君は特別な存在なんだね、なんだか妬けちゃう」


「別に特別っていうか‥」


「照れてる?可愛い、祐希君。でも、確かにカッコ良かった、藍君。あれなら、彼女もきっと心配になるね」


「彼女?」



ヒナの言葉に思わず食いつく。どうしてここで彼女というワードが出るのか‥



「祐希君、彼女の存在、知らない?さっきね、藍君、女性からの電話で慌てて帰って行ったんだよ。」


「‥は?」


「うん、可愛い女性の声が聞こえて、藍君ったら、嬉しそうな顔してた。待ち合わせしてたんじゃないかな?私達が留守番するよって伝えたら喜んで走って行ったよ。早く会いたかったんだろうね、その彼女さんに」



その場面を思い出しているのか、クスクスと笑う。



彼女がいる。


そんな事は考えたこともなかった。



俺の告白に、真っ赤になりながらも、何度も頷いてくれた表情を思い出す。


想いを伝えたのはアイツが高校に入学して間もない頃。真新しい制服が初々しさを醸し出し、まだ少しあどけない表情をしていたあの頃の藍。


それから、付き合って1年弱。


知り合ってからはもう何年も経っていたが、女性関係を聞いたことは、 一度だってなかった。




あの整った顔だ。女性からも好かれるに決まっている。



どうして考えなかったのか。


俺以外にも相手がいるかも知れないということぐらい。昨夜、経験がないと知った時は、嬉しさで安堵したが、そうじゃない。男との経験がないというだけなのかもしれない。


そんな事もわからなくなるほど、俺は藍に陶酔していたんだろうか。



いや‥薄々は予感していた。だから、なるべく連絡を控えていたんだ。


取り返しがつかなくなる前に。




藍から離れられなくなる前に。




ふと、気づくと食べ終えたユミが俺の腰に手を回し、当たり前のように抱き着いていた。これは毎回というほどされる。


最初の頃は拒否を示していたが、それを言うとユミが口煩くなるのが億劫で、好きなようにさせていた。



そして、今はそれよりも、藍が気になって仕方なかったのもある。


だから、


「‥あの電話、女だったかな‥聞こえてきたのは‥でも‥ヒナがそんな事言うはず‥ブツブツ‥」



何やら独り言のように呟くユミの声にもさほど気にも留めなかった。













藍Side




「ごめん、待った?」



いつものcafeのテラス席に慌てて走り寄ると、すでに到着していたたっちゃんが、手元のスマホから視線を上げ、ニコッと微笑む。



「めっちゃ、待った。てことで、ここは藍の奢りなっ!」


「ひどっ」



元々言えば、約束を忘れて遅刻してきた俺が悪いんだけど、そんな風に返し、拗ねた表情を見せると‥目の前のたっちゃんは優しそうに笑って、冗談だよと手を降る。



たっちゃんは、俺の一個上の部活の先輩だ。


本来ならば敬語であるべきだろう。だが、それ以前からの付き合いもあり、タメ口で話している。


何より、たっちゃんが敬語だと嫌がるのもある。俺には普通に接して欲しいと最初に頼まれたのはもう何年前だったのか‥




席につき、頼んだ珈琲が目の前に置かれたタイミングで、たっちゃんに話しかける。



「んで?今日はどうしたん?話がしたいって言うてたけど‥」


「うん、あのさ‥藍、祐希さんと付き合ってるじゃん?」


「‥う、うん」


いきなりの話題に吹き出しそうになった珈琲を何とか堪え、咳き込む。



祐希さんとの関係。誰にも話していないと言ったが、あれは一つ誤りがある。


たった一人。たっちゃんにだけは、祐希さんとの関係を打ち明けていた。


男同士なんてと、蔑むかもしれない。そんな不安もなかったわけじゃないが、何故か、たっちゃんには話すことが出来た。


初めて打ち明けた夜。「そっか‥」と短い言葉を吐いた、たっちゃん。その声音には、嫌悪感も不快感も感じなかった。


そうして、何度か頷いた後に、俺の顔を眺め、ニコッと微笑んでくれた。


「話してくれて、ありがとう。良かったな、藍」


と、いつもの笑顔で。ただ、ほんの少しだけ、寂しさを含ませたような表情にも見えたような気がしたが‥それは瞬きする間に消え去っていた。







「おいおい、大丈夫かよ?」


吹き出しかけた俺に笑いながらも、優しく背中を擦ってくれる。

祐希さんとの仲を知っているたっちゃんだが、ほとんど、その事については聞かれることもないし、話した事もない。


だから、突然の祐希さんとの事について聞かれ、動揺してしまったのかもしれない。



大丈夫と、座り直しようやく落ち着くと、さっきまで笑っていたたっちゃんが、真面目な顔をしているのに今度は戸惑った。


「たっちゃん?どしたん?」


「あのさ‥祐希さんの事なんだけど‥」


「‥‥‥うん?」




「はっきり言う。別れろ」






「‥‥‥え?」




‥は?‥たっちゃんは何を言ってるん?


言葉の意味が飲み込めず、真正面に座るたっちゃんを凝視した。




冗談やろか‥


そんな期待を込めつつ、顔を覗き込んだが、たっちゃんの真剣な顔は変わることはなかった。




この作品はいかがでしたか?

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コメント

3

ユーザー

2人の恋の行方に目が離せなーい!たっちゃん一体何を知ってるんだ!この後の展開めっちゃ楽しみです😄次回も楽しみにしてます☺️

ユーザー

不定期更新でも待ってます😭 ゆうらんさんのお話大好きです🫶

ユーザー

いや、本当にもう最高です!泣 まじ、尊敬してます。 これからも頑張ってください!

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