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5月。
怜が来なくなって、あっという間に夏が来た。
もう3年生になったよ。怜。
私のせいとは言えど、ここまで傷つけるなんて思ってなかった。
私は複雑な気持ちで、蝉の声に耳を傾ける。
夏の朝。みんなの話し声がうるさい。
私がぐっと下唇を噛み、トイレに行こうとした時。
ガラッ。
教室のドアが、さりげなく、目立たぬように開く。
「お、おはよう。奈々ちゃん」
ボブヘアーの少女は、私をドアから覗く形で、こっちを見ていた。
夢かと思った。
肌の白い少女は、外に出ていなかったからか、より一層肌が白くなり、いじめられていたショックで食欲がなかったのか、もともと細かったが、もっと痩せていた。
カバンのキーホルダーは、学校を休む前と何ら変わらない。
水色のくまが、楽しげに揺れていた。
私はもう一度、その人の顔に視線を映す。
はにかみながら私を見つめる、純粋で綺麗なその目は、
怜だ。
「怜っ!!!!」
私は思わず、怜に抱きつく。
抱きしめたその肩は、骨骨しく痩せていた。
「寂しかったよ〜!!!!」
私は怜に抱きつきながら泣いた。
怜は笑いながら、また、私を抱きしめる。
ああ。この声が聞きたかったんだ。
私は心に空いた穴を塞ぐように、惨めな自分を隠すように、怜を抱きしめていた。
それから。また怜のもとに人がたくさん集まるようになった。
慰めの言葉をかける人もいれば、外見の変わりようについて話す人、怜がいなかった間、どんなことをしていたかを話す人もいた。
憎たらしい。私が1番に怜のことを思っているのに。
みんなは、2年生の三学期のことを忘れたかのように、怜にべたべた寄り付いていた。
怜は、それをなんとも思ってなさそうに、楽しげに話している。
なんで?その柔らかい、美しく澄んだ瞳は私に向けられるべきなのに。
ひどい。ひどいひどいひどい。
こうなるのなら、学校に来なくていいのに。
私だけの、怜でしょう?
私はもう一度、犯行に移すことに決めた。
次の日の朝。
私は朝一番に来て、怜の机にゴミを散らばいた。
ひどい。クラスメイトのあいつも、あいつも、あいつもあいつもあいつも。
みんな怜のことを無視していた癖に!!!
そんなひどいやつらは怜に近づく権利はない。
私は憎しみと憎悪を込めて、机と椅子にゴミをばらまいた。
ばらまいた後。私は教室の鍵をかけ、カバンを背負ってもう一度学校の外に出た。
私が犯人だってばれたらすべてが台無しになる。
こんなめんどくさい事をしてでも、怜を私のものにしたかった。
私は、生ぬるい風を浴びながら、玲が来るのをじっと待っていた。
その時。ガシャン。何か物音がして、私は急いでそっちに向かった。
そこには、1匹の黒い猫がすわっていた。
可愛い。私は黒猫に手を伸ばすと、猫は、シャーッと威嚇し、私の手の甲を引っ掻いた。
「いたっ」
手の甲からは、生々しく引っかかれた痕から血が出ていた。
………
痛さとイラつきが混ざり、私は黒猫を蹴る。
猫は、ニャ゛ッと鳴いて、近くの茂みに飛び込んで行った。
私は空を仰ぐ。なんか、変な気持ち。
腹立たしい気持ちを抑えながら、私は口の中が、だんだんと乾いてくるのを、
感じていた。