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それから、滉斗に新しい日常が加わった。
大学の授業やバイトの合間、週に数回、滉斗はあの組の屋敷に足を踏み入れるようになった。
最初は門をくぐるたびに背筋が凍るような緊張感があったが、今ではもう慣れ親しんだ場所になりつつある。
組員たちの滉斗に対する態度は、驚くほど変化していた。最初こそ、若頭が連れてきた得体の知れない一般人として警戒の視線を送っていた彼らも、今ではすっかり滉斗に心を開いている。
「若井! この間はすまなかったな、あの時は若頭のお気に入りとは知らずに…!」
道を歩いていると、すれ違う組員から突然肩を叩かれ、頭を下げられることもあった。
中には、「若頭のお気に入りなんて、羨ましいよ…」と本気でぼやく若い衆もいて、滉斗はその度に顔を赤くしながら「いや、違いますから!」と必死に否定していた。
ヤクザと言っても、彼らは意外と普通の人間だった。厳つい顔つきの下には、それぞれの生活があり、家族があり。そして何よりも若頭である元貴への絶対的な忠誠と愛情があった。
滉斗は、そんな彼らと世間話をしたり、時にはくだらない冗談を言い合ったりするのが、楽しく感じていた。組の堅苦しい空気の中でも、彼らの人間的な温かさに触れることができた。
しかし、滉斗にとって一番楽しい時間は、やはり元貴と話すときだった。
元貴の部屋の襖を開けると、大抵元貴は文庫本を読んでいるか、茶を淹れているか、あるいは組の書類に目を通しているか。
どんな時でも、滉斗が顔を出すと、元貴の顔がわかりやすくパッと明るくなるのが分かった。
「あ、滉斗! 来たんだね!」
その声はいつも、滉斗の来訪を心から喜んでいるように聞こえた。それが毎回嬉しくて、滉斗は密かに少し可愛いな、なんて思ったり。
元貴との会話は、本当に特段に楽しかった。時間が経つのがあっという間で、気づけばいつも「もうこんな時間!?」と驚くばかりだった。
滉斗は都内のアパートに一人暮らしをしている22歳の大学生だ。元貴も同じく22歳の代。
同い年ということもあって、話の波長が驚くほど合った。最近流行りの音楽の趣味も、深夜番組でやっていたお笑いのツボも、何もかもが同じで、話せば話すほどに共通点が見つかる。
元貴がヤクザの組の若頭ということを、うっかり忘れてしまいそうになるほど、彼はあまりにも普通の青年だった。
世間の常識とはかけ離れた世界に身を置きながら、彼の仕草や言葉、そして何よりもその無邪気で奔放な笑顔は、滉斗まで自然と笑顔にさせた。
大学の授業が終わってから、バイトまでの数時間。短い間ではあったけれど、予定が空いていれば、滉斗は毎日屋敷を訪れるようになった。ヤクザの屋敷に通うという、まさかの日常が、こうして始まったのだった。
滉斗の新しい日常は、概ね順調だった。組員たちとも打ち解け、元貴との時間も楽しくて仕方がない。
だが一つだけ、滉斗には悩みがあった。
滉斗と会えば、元貴はいつもぎゅっと抱きついてくる。再会のハグ、というにはあまりにも密着度が高い。それも毎回。
滉斗はその度に顔を熱くし、動揺を隠そうと必死だった。けれどもうそろそろ、我慢の限界に達しそうだった。
ある日の午後。元貴は組の用事で外出しており、屋敷には暇を持て余している組員たちが何人かいた。これはチャンスだ、と滉斗は思った。
元貴という若頭を心から慕う彼らからなら、きっと何かヒントが得られるかもしれない。
滉斗は、いつの間にかすっかり自分の部屋のようになっている客間に、暇な組員たちを呼び集めた。集まったのは、若手からベテランまで、およそ10人ほど。彼らは、滉斗の呼びかけに、物珍しそうに、けれどどこか嬉しそうに集まってきた。
「えっと…皆さん、今日はお集まりいただきありがとうございます…」
滉斗が緊張しながら挨拶すると、組員たちはニヤニヤしながら頷いている。
「で、若井、一体何の話だ?」
一人が尋ねると、滉斗は意を決して、切り出した。
「実は、元貴…若頭のことで、皆さんの意見を聞きたくて…」
その言葉に、組員たちの目がキラリと光る。彼らの若頭愛は並々ならぬものがある。
「おお!若頭のことか!なんでも聞かせろ!」
「我らが若頭の、どんなことだ!?」
滉斗は、彼らの熱気に少し気圧されながらも、質問を始めた。
コメント
3件
何の会議したん!? 続きめっちゃ気になる〜 てかヤクザ達みんな可愛いな
初 コ メ 失 礼 し ま す !! 惚 れ ま し た ( ? ) な ぎ さ 様 の 作 品 最 高 す ぎ て 大 好 き で す 😖 💘