テラーノベル
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「まず、皆さんが思う、元貴さんの印象を、一言で言うと?」
「そうですね…『完璧』ですかね!」
「『美しい』に決まってんだろ!」
「『カリスマ』、だな。」
次々と飛び出す、元貴を称賛する言葉の数々。
「じゃあ、元貴さんの尊敬できるところはどこですか?」
「決断力と行動力、だ!」
「俺たち下っ端にも優しいところだ!」
「どんな難しい交渉も、最後は若頭の微笑みで全て丸く収まる!」
組員たちの若頭愛が溢れ出し、滉斗は感心すると同時に、若干引いていた。
そして、本題に入る。
「あの…元貴さんって、いちいち距離近くないですか!?俺だけじゃないですよね!?」
滉斗が切実に問いかけると、それまで元貴を崇拝していた組員たちの顔に、「分かる!」という共感の表情が広がった。
「あ〜それな!」
「若頭のパーソナルスペースは壊滅的だ!」
「慣れるまでは心臓に悪いよな」
「安心しろ、俺らも未だにドキドキする時あるから!」
組員たちは、ここぞとばかりに頷き、身振り手振りで元貴の距離感の近さを語り始めた。滉斗は、自分だけではなかったと安堵すると同時に、彼らの話を聞きながら、元貴の異常な距離感がより一層際立って感じられた。
ある程度会話の盛り上がりが収まり、部屋に少しだけ静寂が訪れたその時、一人の組員が、ポツリと本音を漏らした。
「いやー…それにしても、若頭って…色気あるよな」
その言葉に、他の組員たちは一瞬、気まずそうに顔を見合わせた。しかし、すぐにその言葉を否定することなく、激しく賛同し始めた。
「おい、言うなよ!…でも、分かる」
「そうなんだよな…普段はああいう感じなのに、ふとした瞬間に…」
「背中とか、見ちゃうよな…」
「い、色気…!?」
滉斗は、「色気」という、これまで元貴に対して全く意識したことのなかった言葉に、顔を赤くして動揺を隠せない。
組員たちは、そんな滉斗の様子を見て、ニヤニヤと茶化し始めた。
「おい、大丈夫かよ!」
「やっぱ若頭のお気に入りなだけあるな!」
「側近のお方よりもピュアなんじゃねぇか、お前?」
彼らの言葉に、滉斗はさらに顔を赤くした。
初めて会った日、手当ての後、元貴の部屋で寝間着に着替えさせてもらった時のことだ。元貴が浴衣の帯を結んでくれた時、彼が身を乗り出した拍子に、着ていたシャツの襟元がはだけ、その奥に隠されていたうなじ、そしてそこから背中に続く刺青がちらりと見えた。
あの時感じた、ゾクリとするような背筋の冷え。それは、ただの恐怖だけではなかったのかもしれない。
そして、翌朝。元貴の悪ふざけで頬にキスされた時、寝起きで少し乱れていた寝巻きの隙間から見えた、彼の白い肌。その時に感じた、心臓が跳ね上がるような衝動。
確かに……。
滉斗は、元貴に対して「色気」という言葉を当てはめて考えたことは一度もなかった。彼の存在は、いつも純粋な無邪気さや、若頭としての威厳、そしてどこか掴みどころのない奔放さで満たされていたからだ。
しかし、今組員たちの言葉と自分の過去の記憶を照らし合わせると、あの時の説明のつかない動揺や衝動は、まさに「色気」という言葉でしか表せないものだったと、気づいてしまった。
「……いや、こんなの変態みたいじゃん!!」
滉斗は、急に、堪えきれないような大声をあげた。自分の心の中に湧き上がった感情と、それを「色気」と認識してしまったことに、激しく葛藤する。両手で頭を抱え、蹲る滉斗を見て、組員たちは再び大笑いした。
「おいおい! どうしたんだよ!」
「顔色悪くなってるぞ! まるで初めての恋に悩む中学生みたいじゃねぇか!」
茶化す組員たちの声が、滉斗の頭の中に木霊する。このヤクザの屋敷で、彼はまた一つ、新たな感情の扉を開いてしまったようだった。
その時、襖がスッと開いた。
「なんだか騒がしいね…楽しそうでなによりだけど」
部屋の襖の間から、元貴がひょっこりと顔を出す。その目は、楽しげに笑う組員たちを、何かを怪しむように細めて見つめている。
元貴の突然の登場に、滉斗は一気に顔が青ざめた。
「も、元貴……!?」
滉斗は慌てて叫ぶ。組員たちも、まるで手品でも見せられたかのように激しく動揺し、一斉に姿勢を正した。
「お、おかえりなさいませ、若頭!!」
「なっ、なななな何でもないです! 今日の天気は最高ですね!」
「い、いえ、ただの世間話をしておりました…!」
動揺を隠しきれない彼らの姿に、元貴はふっと笑みをこぼした。
「ふうん? まあいいや。そろそろ解散したら? 君たちも仕事があるんだろ?」
元貴がそう言うと、組員たちは「はいっ!」と勢いよく返事をした。そして、慌てて立ち上がり、滉斗に一言ずつ声をかけて部屋を出ていく。
「若井またな!」
「若頭によろしくな!」
「頑張れよ、お気に入り」
彼らの最後の言葉に、滉斗はさらに顔を赤くしたが、元貴はそれを楽しそうに聞いているだけだった。
部屋には、元貴と滉斗の二人きりになった。滉斗は気まずさのあまり、俯いてしまう。
元貴は、そんな滉斗の様子をじっと見つめ、ゆっくりと目を細めて滉斗を睨んだ。その視線は、まるで獲物を追い詰める捕食者のようだ。
「…で? 何の話してたの?」
元貴の声は、普段の優しいトーンとは違い、意地悪な響きを含んでいた。滉斗は、顔を上げることもできず、目を泳がせる。
「元貴には…言えない……」
滉斗の苦し紛れの返答に、元貴は口元を歪めて、楽しそうに笑った。そして、ゆったりとした足取りで、滉斗の方へ歩み寄る。一歩、また一歩と距離が縮まり、滉斗の心臓は激しく跳ね上がった。
元貴は、滉斗の目の前でピタリと止まった。滉斗より身長が低い元貴は、軽く首を傾げるだけで、簡単に滉斗の顔を覗き込むことができる。
そして、意地悪く口角を上げると、元貴は滉斗の耳元に囁くように呟いた。
「…ねぇ、何が、『変態みたいなの?』」
その言葉に、滉斗の顔は一気に赤く染まった。先ほど、自分が叫んだ言葉を、まさか聞かれているとは!
「は…?え、えっ、聞いてたの…!?」
滉斗が慌てて尋ねると、元貴は、当然だと言わんばかりににこやかに微笑んだ。
「うん。だって滉斗…『いや、こんなの変態みたいじゃん!!』って、結構大きな声で叫んでたよ?」
元貴は、まるで先ほどの滉斗を再現するように、楽しげにそのセリフを口にする。滉斗は頭を抱えたくなった。完全に聞かれていた。最悪だ。
滉斗は、なんとかこの状況を上手く躱そうとするが、元貴相手にそれは不可能だと悟った。かといって、全てを正直に伝えることもできない。
「そ、それは…その……俺、が…変態みたいだなって…」
しどろもどろに、なんとかそう答えるのが精一杯だった。
元貴は、そんな滉斗の様子を見て、楽しげに、くるくるとその場で回った。そして、自分の部屋の襖に手をかける。
「… 滉斗、変態なの?」
悪戯っぽく微笑み、首を傾げる元貴に、滉斗の冷や汗が止まらない。
「ち、違う……! こ、こともない……かも……」
必死に否定しようとして、結局否定しきれない、間抜けな返答。元貴は、その滉斗の言葉に、またしても声を上げて笑った。その笑い声は廊下中に響き渡り、滉斗の頬をさらに熱く染めた。
コメント
9件
最高すぎる… 続き楽しみです!!
にゃふ〜😽🫶🏻(?) (お久しぶりです🥹💓) なぎちゃん!!??(勝手になぎちゃんと呼んでます…) めっちゃ最高じゃん!!?? ただ今一気読みしてきました…!!!😭✨ 最初の方はwkiさん受けかな…?と思っていたのですが…まさかomrさん受けとは…😖💘 めっちゃwkiさんのこと煽ってwkiさんの顔赤くさせてるomrさんですが…逆に顔赤くなっちゃうんじゃないの?!😭💞 続きめっちゃ楽しみです…!🥹✨
続きが早く見たいです