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本気にさせたい恋

81 - 第81話  襲って来る不安な現実②

2024年09月21日

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しばらくして病室を出て、透子の待っている場所へと向かう。


「樹・・・大丈夫?」


心配そうに声をかけてくれる透子の声が、今のオレには優しく切なく響く。


そして、透子が座っていたソファの隣へと座るものの。

今起きている現実とこれからの状況、そして自分の気持ちや透子への想いが、まだ上手く頭の中でまとまらない。

だけど、座ったままただ俯いて考え込んでいるオレを、透子は何も言わず隣で静かに見守ってくれる。

ただそっとそばにいてくれるだけで、少しずつ気持ちが落ち着いてきて。

オレはようやく顔を上げた。


「親父さ・・」


そして、ようやく今の状況を透子に伝え始める。


「うん・・」

「少し前から調子は悪かったみたいで。まぁ、そこそこ歳だから何かあってもおかしくないんだけどさ・・・。持病も持ってるし、しばらくは仕事せずに安静にしてろって医者から言われたみたいで」

「うん・・。命には別条はないの・・?」

「あぁ、うん。それは大丈夫みたい」

「よかった・・・」


ホント、そこまでになっていたら、オレはどうなっていたのだろう。

まだ何の結果も出せないまま、何の自信も力もつけてないままで。


「透子さ。病室の前で親父の名前見た?」

「ん? いや、そんな余裕なかったし、特に意識して見てなかったけど・・なんで?」

「親父の名前。東条雄一郎。聞き覚えない?」


そしてそこでようやくオレは透子に父親の存在を伝える。


「東条雄一郎・・・」


透子も知ってるであろうその名前。


「うちの会社の社長・・・だよね?」

「そっ。うちの会社の社長の東条雄一郎」

「え。ちょっと待って。うちの会社の社長が倒れて、それで樹のお父さん・・?」


さすがの透子もその話を聞いて少し驚いてる様子。


「ビックリした?」

「そりゃそうでしょ。いろいろ情報量が多すぎてちょっと整理出来ないんだけど・・」

「だよね。いきなり言われてもビックリするよね」


実際これは会社の人間は誰も知らない話。

知ってるのはオレと親父と、そして秘書の神崎さんだけ。


「うん・・。でも、名字違うよね?」

「あぁ。両親離婚してさ。母親側の名前なんだよね」

「あっ、そうなんだ・・」

「オレ、親父厳しい人だから苦手で、母親のが好きで母親に引き取られてさ。学生時代は母親と一緒に暮らしてたんだけど、親父もまぁ歳とってきて、実際子供もオレしかいないからさ。結局会社はオレに継がせたいみたいで」

「うん・・・」

「学生ん時はさ、母親側で好きに過ごしてたんだけど、結局社会人になってからは、会社継がせるために、この会社に入社させられて。でもまだオレにはその重圧がプレッシャーで嫌でたまらなくてさ」


特殊な環境の自分のこんな話、当然誰にもしたことなくて。

誰かに話すつもりもなかったし、知ってほしいとも特に思わなかった。

今まで全部オレ一人で向き合うべきことだった。


だけど、今は。

透子に知ってほしい。


「だから、新人研修の時、あんな感じでやる気なかったの・・?」

「そっ。まだあの時は無理やりここに入れられてやる気なんて全然なかったから」

「そっか、そういうことか・・」


透子は特別だから。

そんな時から、例え偶然でも透子と出会えていたことが、今のオレには意味あることのような気がして。


「親父も一人前になるまでは当然この会社を継がす気もないからさ。甘やかさない為に、名前も母親側の名前そのままで皆にバレないように親子ってこと隠して」

「なるほど。それで名前違うままなんだ」

「昔から親父の一言で離婚して家族も離れ離れになって。なのに会社は継げって言われてずっとオレの自由もなく束縛されて親父が用意したレールを歩いていくだけ」


決められた人生。

結局親に振り回されてるだけで、オレの意志なんてどこにもなかった。


「でも当然オレには逆らえる力もないから言う事聞くしかなくてさ。まぁだからと言って他にやりたいことあるとか特にそういうモノもなかったし」

「うん」

「まぁオレが我慢して言うこと聞いてれば丸く収まるんだろなって思ってた」


どうして二人は離婚したのか。

なのになぜオレは親父の会社を継がなければいけなかったのか。

だけど、昔からそれぞれ忙しくしていた両親に対して、素直に甘えることも頼れることも出来ない子供になっていた。

それは甘えたくないという意志からなのか、迷惑かけたくないという意志からなのか、つかず離れずの両親との繋がっている関係が、オレにはなんだか息苦しくて。

だからせめて自由にならなくなる時までに、オレは自由に遊び回っていたのかもしれない。

離婚してからの母親は忙しく働いてて、だけどイキイキしている母親の邪魔をしたくなくて、オレは気付けば家を出て一人の生活をしていた。

だけど、そばにずっとある愛みたいなモノを感じることがなくて、いつからか誰でもいいからその寂しさを埋めてくれる相手を探していたような気がする。

だけど、そこには本物の愛はなくて、そしてオレの心もやっぱり満たされなくて、結局そこにはカタチの無い愛が偽って存在しているだけだった。




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