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「でもさ。そうじゃないのかなって思ったんだ。あの日、透子に出会ってから」
「私?」
「そう。『自分に嘘はつきたくない。だから自分をもっと好きになりたい』って言ったあの言葉。オレはその時までは自分に嘘ついて誤魔化して、好きな自分なんてどこにもいなくて生きて来たから」
きっとあの時のオレは、自分の本当の姿とかも見せられなくて。
虚しさを感じながら生きている毎日だった。
だけど、それがどうすればそうじゃなくなるのか、この心は満たされるのかオレにはわからなかった。
一人になるのは寂しい。
だから、甘い言葉と偽りの言葉でその時の寂しさと感情を満たす。
決してそこに自分の本当の気持ちはなかったとしても。
きっと誰かに自分がいいと言われたら、それで気持ちが満たされている気持ちになっていた気がしたから。
お前は必要じゃないと言われるんじゃなく、どんなカタチであっても自分がいいと、自分が好きだと言ってくれるなら、そこで自分は存在出来ていたような気がして、その時のオレはそれが満たされていることなんだと思い込んでいたから。
だけど、きっと心のどこかでは気付いてた。
そんなことじゃ決して満たされないこと。
身体も心も結局は虚しさが残って満たされることはないということ。
だけど、それがオレの生き方なんだと思っていたし、それは変わらないものなんだと思ってた。
「ずっと・・そんな寂しい生き方だったの?」
「まぁね。それが親のためになるとも思ったし、それがもうオレの使命なんだろうなとも思ってたし」
だけど、そこで親の気持ちを裏切ってまで、そこから逃げたいとまでも思わなかった。
きっと両親なりに、お互い何らかの考えがあって、その状況に至ってるのだろうし、それでオレを突き放さずレールを歩かせるということが、少し希望があるんじゃないかという気がして。
心のどこかでそんな両親に認められたい、自分の存在を必要だと感じてもらいたい、なんてそんな気持ちがきっと少なからずあったのだと思う。
「でもさ。自分が犠牲になるんじゃなく、もっと違う方法があるんじゃないのかなって思い始めた」
だけど結局は、親父の言いなりになっているような気がして。
仕事も、それ以降の人生もその相手もすでにオレは決められていたから。
「違う方法?」
「オレも親父も会社も犠牲にならない方法。オレも親父も皆が自分を好きでいられる方法が何かあるんじゃないかって」
「皆が?」
「そう。だから、とりあえずオレは今までの自分を変えて仕事で業績を上げて来た。それによって会社の利益にも貢献出来るし、それによって自分も好きになれる」
だけど、あの日。
透子が言ってくれた言葉で、自分の考え方を変えれば何かが変えられるんじゃないかと思った。
ただ嫌だという気持ちと共にその道を歩むんじゃなくて、そのレールの上であっても、自分の心も満たされる方法。
自分でその道を切り開ける選択を。
まずは自分という存在意義を見つけたかった。
オレじゃなきゃダメなその意味。
そこまでしてオレがその使命を全うするだけの意味。
せめて、透子のように、今の自分をどんなカタチでも好きになりたいと、そう思った。
「でも今までの業績なんて、親父にしたら大したことないらしくてさ、まだまだ認めてくれようとはしないんだけど」
「今までの業績でも?」
「まぁ、親父にしたら今の会社を一代でここまでの大きさまで成長させた自負もあるんだろうね。その会社を任せられるように多分オレを一人前になるまで厳しく育てたいんじゃないかな」
実際に親父は、母親とオレじゃなく、会社を選んだ。
オレたちへ注ぐ愛情の分を、親父はひたすら自分の会社を大きくしていることに力を注ぎこんだ。
それは、その時いい加減に生きていたオレでさえも、凄いなと思ってしまうくらい、今のこの会社は有名になり沢山の人から愛される会社へと発展していった。
だからこそ、そんな会社を今でもオレに継がせたいと思っているのかは正直わからない。
だけど今は。
この会社で、親父に認めてもらうことが、オレの中で、過去の自分を乗り越えて成長出来ることのような気がして。
今はこの道を、今の状況から目を背けることなく、自分の力を活かせることが、今のオレの試練で、オレの使命なのだと思うから。