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マカロン
609
pd
1
「付き合ってください。」
覚悟を決めて貴方に言った。
そして貴方は俺の大好きな笑顔で
『はい.よろこんで』って
この告白が2回目とは知らずに
「ただいま」
『おかえり』
帰ってきて、暖かい家といい匂い。
『先作れるもの作っちゃった』
『買い出しありがと』
「うん」
今夜はカレーらしい。
今日は少し肌寒く感じたから、今日という日にぴったり。
テーブルに目をやると、福神漬けとスプーンが置いてあった。
俺はカレーに福神漬けは入れたい
少なかったら困るけど、多かったら特に損はない。
キッチンにはコンロの上に鍋。
そこにはじゃがいもや人参が切られて入っていた。
『出来たら呼ぶから』
貴方の言った言葉に反応する
「俺できることあったらやるよ」
任せっきりはいけない。
『大丈夫だよ.好きな事やっててもいいし』
好きなことか…特にないんだよな
それに任せっきりで好きな事に集中できないだろうし。
「じゃあ見てるわ」
貴方は小さく驚いた。
『っえ、緊張するじゃん』
「俺に見られて緊張すんの?」
『いや…そういうことじゃ』
貴方は言葉を切って目を逸らしたあと、黙って作業に再度取り組んだ。
俺はその時なんとも思ってなかったけど、
後々になって気付いた。
「『いただきます』」
一口.暖かくて美味しい。
貴方の作るカレーは具が沢山入ってて好きだった。
[…え〜…では、次のニュースです。]
[◯月✕日、△✕県、◯◯市にて、被害者1人を巻き込む、人身事故がありました。]
[被害者は信号無視の車と接触し、命に別状は無いものの… の損傷が……]
『最近、事故多いよね』
カレーに夢中だった俺は、ニュースなんて見る暇もなく、スプーンで掬ったカレーを口に只管運んでいた
「まぁ、確かに」
『って…食べるのはや』
貴方は俺の食べているカレーを見て呆れたように笑った
「美味しいんだもん」
『喉詰まらせるよ、ゆっくり食べな』
そう言って俺の口の周りを拭いた
どうやら口の周りにカレーが着いてたらしい。
なんだかぎこちないな.
お風呂も入って、歯磨きもして、
もう寝る時間。
俺が夕方に歩いてた道は殆ど真っ暗。
夜になって寒さも強くなってた
『おやすみ』
「うん.おやすみ」
もう1日が終わった。
そして俺も目を閉じた
…ここは…
見覚えがある。匂いも。
現実?夢?
周りに人はいるだろうか。
薄暗くて少し気味が悪い。
近くにあった扉を開けた。
そこもまた薄暗くて長居はしたくなかった。
棚らしきところに薬が沢山.
「……」
…ここから出よう。
体が拒否してるみたいだ。
この建物自体から出たい。
なんだか頭も痛くなってきた
一旦休もう。歩くと目眩がする
都合がいいのか分からないが、横に長い椅子があった。
成人男性が3人程座れそうだ
少しは楽になったか.
安心したのか眠くなってきた.
ここで寝てもいいのか?
疑問が浮かんだが、寝て起きたら何かが変わるかもしれない。
自分にそう言い聞かせ、
横になって目を閉じた。
「…ん…?」
眩しくて再び目を開けた。
また…知らない場所。
いや…違う.また見覚えがある
さっきの場所とは正反対の、
木から生える無数の、綺麗な緑。
足元にも。
体を起こすと体の所々が痛かった。
どうやら俺はベンチに横になって眠っていたっぽい。
周りを見渡しても緑。
自然界とも言って良いだろうか。とそのぐらいに
どうやら草が刈られた跡が薄く残っている。
道があったんだな。
道があったらしき所は草がまた頭を出している。
「…噴水?」
石で造られた立派な噴水。
水は流れていない。
…それにしても、天気が良い。
日向ぼっこができそう。
ちょうどいい暖かさだ
というか…現実じゃないよな?
俺はさっきまで薄暗い気味の悪い場所にいた.
たしか…寝たらここに来たよな…
寝たら何か起こると願い、草の上に寝転がって目を閉じた。
とても居心地が良くて、すぐに深い眠りに入った。
「ん゛〜…」
瞼が重い。
体も重くて起き上がるのもやっと。
目を擦って辺りを見回した.
明るい日差しがカーテンの隙間から差し込んでいる。
そして、自分がいるのはベッドの上。
「…夢…?」
夢だったのかと自分の頬をつねぐった
痛い.これは現実だ。
さっきまで見ていたのは夢だった。
1階で音がする。
ふと、時計を見ると、7時を過ぎていた。
「やべ…寝坊だ」
そう言いながらゆっくり歩いた。
なんて言ったって今日は休日だったから。
1階に降りると最愛の人が料理をしていた。
「ごめん…寝坊した…」
『大丈夫だよ.ぐっすりだったね』
「うそ、そんなに?」
『うん、気持ちよさそうに寝てたから』
「起こしても良かったのに」
『ごめんごめん』
他愛もない話をしながら歩み寄る。
今日は目玉焼きとベーコン。
味噌汁も。
とても美味しそうだ.
両者、朝はご飯派だ。
パンも良いが、朝はご飯の確率が多い。
今日も向かい合ってゆっくり食べる。
朝の味噌汁は気持ちがスッキリする。
味噌汁は厚揚げにワカメ。とてもシンプル
そのシンプルさが俺にとっては丁度良かった
今日は自分の部屋でも掃除しよう。
少し散らかってたし.
部屋の乱れは心の乱れとか言うもんな。
ベッド下を掃除していたら何かの紙が出てきた。
「なんだこれ」
紙に書いてある文字を読んだ瞬間、紙を落とした。
手の力が一瞬抜けた。
「……」
[×☓病院]
[ ■■ 様]
[ と に損傷あり]
俺はその紙を4つに折ってゴミ箱に捨てた。
なんだか見ない方が良いと感じたし
「…はぁ…」
なんだかやる気がなくなってしまった.
今日はもうやめておこう。
『あれ、早かったね』
「やっぱやめた」
『なにそれ』
貴方は笑って返してくれた。
…思い出しちゃったな…
眠れない。
あの時のことから.
目を閉じても眠りにつけない
「はぁ…」
睡眠薬…あったよな…
これで…眠れるだろ…
意識が遠くなるなか、薬の摂取制限をみていないことを思い出しながら眠りに落ちた.
波の音.
鷗の声.
「ん?…」
また、昨日と同じような夢か。
また見覚えがある。
綺麗な青。
波が此方を押し寄せて足が1歩後ろに下がる
太陽も燦燦と光って眩しい。
海か…久しぶりに見たな…
最後に来たの何時だっけ
だけど…何か…足りない気がする…
また寝れば違う場所で目が覚めるのか.
次の場所は何処だろうか
もし…また、彼処だとしたら。
もう少し此処にいよう。
「っぇ…」
また…薄暗くて気味の悪い場所だ.
いつの間に眠りに落ちたんだ
前の場所での記憶が薄れてるきが…
やっぱり.頭が痛くなってきた
なんなんだ…
目が覚めた。また知らない場所。
いや.天井。
『ぇ…?』
『起きたの…?』
「起きたって…?」
『倒れてたんだから…』
そんなワケ…俺はさっきまで…
『しかも目覚めないから…』
「…ごめん…何日寝てたの?俺…」
『2日…』
なんだ…たったの2日じゃん…
「…たったの2日じゃん…」
『2日だよ?流石に心配するから…』
「わかった…!わかったから…泣かないで…」
『うん…』
「それで…なんで俺は倒れてたの?」
『記憶無いの?』
「全く」
『あのさ…寝る前に薬飲んだ…?』
「飲んだ…かも…」
『多分…それのせい…』
薬って…飲んだの3粒ぐらいだったよな?
「俺…3粒ぐらいしか飲んでないけど…」
『え…でも、大量摂取で…』
あれ…3粒じゃなかったのか
『一応…明日には退院できるって聞いてるから…』
「わかった」
病院での生活は退屈って言えば退屈だった。
『またね』
「うん.また」
目を背けなければ良かったなぁ…
俺ってなんで何時まで経っても立ち直れないんだ
◯月✕日
家で自分のスマホが震えて鳴った。
「っは…?」
「おい、嘘じゃ…」
[嘘じゃねぇよ…早く来たほうがいい]
「…今行く」
話を聞かされて気が付いたら家を飛び出していた。
車を走らせて5分。
俺は病院に入るなり近くにいた看護師に言った。
「あの…!じ…事故に遭った…」
【あ…こちらです】
「失礼します…」
[やっと来たか………コイツ起きねぇんだわ]
…
[びまん性軸索損傷だって]
「は…?」
[数ヶ月目を覚まさないかも…知れん…]
嘘だ…そんなの…
[あと…]
…
[ぁ…言っていいか?]
「どんな話だ」
[びまん性軸索損傷だから…打ったの後頭部…
でさ…]
「記憶…ないのか…?」
[たぶん…]
あぁ…なんで…やだ…
[信号無視の車…運転手…居眠り運転だったらしくて…]
…
「ごめん…ありがとう」
[あぁ…お前も無理すんなよ]
部屋に2人。
ごめんね…君に買い出しを任せなければ…
どう足掻いても君は起きなかった
何時もより冷たい手
頭に巻かれた包帯
右目までも覆っていた。
そうこう考えている内に視界がぼやけた。
やっぱりダメだ。
君に涙は見せないと誓ってたのに
今、何処かで見てるの?
今、何してるの?
ずっと目を瞑って.ビクともしない。
「お願いだ……起きてくれ…」
「何回でも…謝るから…」
俺は同性愛者だったんだ.
君は、俺に優しかった。いや、誰にでも
君の近くにいると心が軽くなったんだ。
そして唯一、話しやすくて.
君も同じだったんだ。
好き同士でさ。
勢いで告白したときはどうなるかと思った。
でも君は笑顔で、喜んで、okしてくれたんだ
それは今でも忘れられない.
でも…君は忘れているかな.
また、俺に君の笑顔を見せてくれないかな
それでさ、
何時まで経ったら目を覚ましてくれる?
お願いだから.1秒でも、早く、戻ってきて
●月✕日
ねぇ、もう夏が終わっちゃうよ。
もう1ヶ月も経ったんだ。
今年の夏、なんもできなかったんだ。
君がいてくれたらって、何回も思うんだ
ただ…行ったのは海だけ。
やっぱり1人だと楽しくないや.
君がいないと寂しくてさ
なにもかも楽しめない.
帰ってきてくれ.
神様.返してくれ.
なんの罪もないのに.
裁きもどうでもいい.
返してくれれば.それでいいのに
〇月✕日
夏終わっちゃった。
まだ、暑いけど.
家でも、ここでも、何も喋らなくなってさ.
やっぱり君が居ないと家も暗くて.
ねぇ…何時になったら…
「ぇ…」
今…動いた?
指が微かに動いた気がした。
「……広島…」
「…ぁ…」
細い目と目が合った。
すぐさまナースコールを押した。
【私の声が、聞こえますか?】
そう聞かれて君は弱々しく首を縦に振った。
【あの、】
「はい」
【目を覚めてくれてこちら側もとても嬉しいんですが、
目を覚ましてから質問をし過ぎるとパニックになってしまう可能性があるので、
廊下の椅子で腰を掛けてお待ちになっていただけますか】
「分かりました」
【ありがとうございます。】
あぁ…目を覚ましてくれたんだな…
「彼奴にも一応連絡するか…」
[はっ…はぁ…]
[…ホントか…]
「本当。」
[…部屋…入らないのか…?]
「医者にここで待ってろって言われたから」
[…そうか…]
【お待たせいたしました】
【衝撃を受けるかもしれませんが…いいですか?】
[大丈夫です。]
「はい。」
もう覚悟はできていた。
分かってたから。
【広島さん自身の名前はどうにか思い出したようです。ですが…】
【貴方方を覚えておりません。】
…
【今日は、広島さんとはご対面できませんが、明日、ご対面できるので明日またご来院ください。】
「はい…分かりました…」
「ありがとうございました」
「失礼します」
「はじめまして.君の看病をする岡山です。」
「君の名前を聞いてもいいかな」
『…広島です…』
「うん…いい名前だね。」
あぁ…やっと君と喋れた。
2ヶ月も待ったんだ。
これから、また.よろしくね
あれから2年だね。
今じゃ、立場が全く違うね。
ごめんね.
あの時さ、君に買い出しをしなければ、どうなってたのかな。
時間が、少しでもズレていたらって.
ちゃんと向き合えばこんなことにはならなかったのに
俺がワガママだった。
ごめんね.ずっと迷惑かけてる
退院したら何しようか.
広島のやりたいことなんでもやらせてあげる
今度こそ、2人でずっとずっと一緒に居ようね
コメント
1件
うわ…第1話からこんなに重く来るんだね。日常の温かさと、事故による記憶喪失のギャップが切なすぎるよ。主人公が「はじめまして」って言われた時の気持ちを考えるだけで胸が苦しくなった。でも最後の「これから、またよろしくね」に希望を感じた。pdさん、素敵な作品ありがとう。続きが気になるよ🖤