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限界社畜リーマン青×代行業桃パロ(番外編)
すっかりテラーにも投稿した気でいましたが、あれ…投稿してない?
もし重複してたらすみません
第三者(特に他メンバー)から見た青桃さんのいちゃつきって…いいですよね…。
水視点→おまけ桃視点
「殺してほしい人がいるんです」
可憐な女子の唇から漏れた、その容姿や雰囲気とは程遠い物騒な言葉に僕は「…ん?」と尋ね返した。目は丸く開き、あまりにも予想外の言葉に唇は弧を描いたまま固まる。…今なんて言った?この子。
「殺してほしい人がいるんです。代行業なんだから何でもやってくれるんですよね?」
返事が遅れた僕に、畳みかけるようにその子は同じ言葉を繰り返した。そこに身勝手とも言えそうなセリフを付け足して。
「ちょ、ちょっと待って…!確かに代行するのが僕の仕事だけど、さすがに犯罪になるようなことは引き受けられないって…!」
「殺すのは無理?なら社会的に抹殺してくれるのでもいい」
「いやそれも無理…!!」
「二度と浮気とかしないように男としての尊厳を失わせてくれるだけでもいいんだけど」
何この子…怖い……彼氏が浮気したか何かだろうか? 男としての尊厳を失うってなに? 大事な部分を切り取ってこいとかそういうことだったらどうしよう。それだって十分僕は犯罪者になってしまう。
だけどとりあえず、落ち着いて話を聞こう。それから丁重に断ろう。今頭ごなしに断ったら、きっと彼女を刺激するだけだ。ここは傾聴し、「君の気持ちも分かるよ」と共感した上でそっと窘めるしかない。
「えっと…そのターゲットの写真とかある?名前とか住所とか、分かる限りの個人情報を教えてほしいんだけど」
彼女と対面しているこのカフェは、明るい雰囲気で最近若者に人気の店だ。ソファタイプの席に通された僕らは、隣のテーブルとの距離も割と遠く、声が盗み聞かれる心配もないだろう。
それでも一段階トーンダウンさせた声で尋ねると、彼女は自分の鞄からスマホを取り出した。ピンク色でごてごてに飾られたそれをすいと操作して、画面をこちらに向ける。
そこには1人の男性の写真。目に留めた僕は、目玉が零れ落ちそうなくらいに見開いた。写真の中の人物は遠くからの横向きで、こちらのカメラになど気づいていない。…隠し撮りだろうか。
だけどそれでも、見間違えるはずがない。ごくりと息を飲んだ僕に、彼女が言葉を継いだ。
「おたくの社長さん」
無情に紡がれた言葉が、僕の耳朶を打つ。目の前にずいと押し出されたスマホ画面の中の小さなないちゃんを、信じられない面持ちで凝視するしかなかった。
怒りやら恨みやらで興奮気味の彼女を宥めるためにも、状況整理と称して、抱えている問題を全て吐き出してもらった。じっくりと僕の頭を整理する時間も確保したかったからだ。
彼女の話はこうだ。自分にいい顔をしてその気にさせておいて、最近ないちゃんに裏切られたのだと言う。
「だけどさぁ!よくよく聞いてみたら全然違うんだよ!」
会社に帰り、僕はまだ残っていた初兎ちゃんを捕まえて一連の話を怒涛のように繰り広げた。今日遂行したらしい自分の代行業務の報告メールを書きながら、初兎ちゃんは「ふぅん?」と相槌を打つ。
「彼女の口ぶりから、最初はてっきりないちゃんの元カノだと思ったの!そしたらさ、実際会ったのは1回だけだって言うんだよ!?」
「…やべーヤツじゃん」
僕の言葉に苦笑い気味に応じながら、初兎ちゃんはキーボードを打ち続けている。
「でしょ!? 何か友達に誘われた大人数の飲み会にいたんだって、その子とないちゃんが。しかも自分にいい顔してその気にさせておいて…なんて言うからあのしゃちょー何したのかと思ったらさ、飲み会終わって帰るときにその子がお店に傘忘れてたから、追いかけてきて渡してくれたんだって!」
「…え、それだけ?」
「それだけ!やばくない???」
その後「お礼したいし連絡先交換してほしい」と言った彼女に、ないちゃんは名刺を渡したらしい。
「…完全に営業用やな」
「そうでしょ? で、帰ってからお礼のメッセージ送ったら一度返事が来てそれっきりだって。それを恨んでるらしいよ」
「…こわ」
彼女からしたら、メッセージアプリで繋がったんだからその後の展開も期待したんだろう。プライベート用のスマホをいくつも持つないちゃんが、仕事用の連絡先を教えただけとは思いもせずに。
「で?どうするん?いむくん。ないちゃん殺すん?」
「そんなことできるわけないでしょ!?」
「社会的に抹殺するん?」
「社長が社会的に抹殺されたらうちの会社終わるよ!?」
「後はなんやっけ? 男としての尊厳をなくすんやっけ?」
「いや知らないよ…なに『男の尊厳』て」
うんざりしたようにソファにもたれかかると、初兎ちゃんは「おつかれさんやね」ともう一度苦笑いを浮かべた。…絶対今、「自分のとこに来た案件じゃなくて良かった」なんて思ってるに違いない。
「連絡待ってるのに全然来なくて、最近ないちゃんを街中で見かけたんだって。その時前よりきらきらして幸せそうなオーラを纏ってるように見えて、『あれは絶対誰かに懸想してる顔に違いない』って思ったみたいよ」
「『懸想』て…今日日そんな言葉口にする女子おるんや」
「それを浮気だって言ってるみたい」
「ますますやべーヤツじゃん」
エンターキーをたん、と音を立てて強めに押すと、初兎ちゃんは椅子をこちらにくるりと向け直した。どうやらメールを送信し終えたらしい。
「…でも女の勘って怖いなぁ…ないちゃんが今幸せオーラ纏っとるんは間違いないしね」
「あぁ…最近誰かと付き合い始めたって言ってたよね」
ちょっと前に、ないちゃんには「告白代行」なんて変な依頼が舞い込んでいた。一週間自分の代わりに告白をしてほしい、なんてものだった。そしてそれを裏で手伝っていた初兎ちゃんからの情報では、結局その依頼人の恋は成就しなかったらしい。…それどころか、代行したないちゃんがそのターゲットと付き合い始めたなんてとんでもない展開になったとかなんだとか…。
「とりあえず『殺す』とか『尊厳を奪う』とか話が飛躍しすぎだからさ、まず最初の段階としてないちゃんがどんな人と付き合ってるのか調査して報告するってことで納得してもらったんだよね。その後は「そもそもないちゃんとは付き合ってたわけじゃないんだから浮気でもなんでもないでしょ」、「今の彼は本気で別の人と恋愛してるんだよ」ってことを時間かけて説得するしかないよね」
「…大変やね、いむくん」
ご愁傷さま、と呟いて初兎ちゃんは同情的な眼差しをこちらに向ける。
「同情ならいいからさぁ、初兎ちゃんのコレクションの中から一番高性能の盗聴器と盗撮カメラ貸して」
「何に使うん!?」
「ないちゃん監視するに決まってるでしょ。まずどんな人とどんな付き合いしてるのか調べなきゃ」
「…ほとんど犯罪やと思うけど…」
「あのねぇ、これはないちゃんを守るためでもあるの! 僕が頭ごなしに断ったらあの勘違い女子、今度は殺し屋に依頼に行くかもしれないよ!?」
「…なんかいむくん、だんだんちょっと面白がってない?」
失礼な言いがかりだ。そんな言葉を苦笑まじりに呟きながらも、初兎ちゃんは棚から小型機械をいくつか取り出し、使い方のレクチャーを始めてくれた。
問題はこのカメラをいつどうやってないちゃんに仕掛けるか、だ。
そう言えば今日はここには来ていないらしい。どこで捕まえようか首を捻っていると初兎ちゃんがヒントをくれた。
「ないちゃんやったら、今日は例の代行業務入っとる日じゃない?」
「『例の』?」
「そう、あの高級ホテルのやつ」
首を捻った僕に、初兎ちゃんはそう続けた。高級ホテル…そうだ。依頼が舞い込んだときに社員総出で奪い合いになった案件。結局あみだくじでないちゃんが勝ち取ったんだった。
お金持ちの依頼人からの仕事内容は、高級リゾートホテルの限定グッズを獲得してきてほしいというものだった。どこぞのハイブランドのアメニティ、有名店のシェフが監修したディナーまでスイートルームで堪能できるというもの。依頼人は忙しくて行けないけれどグッズとアメニティはどうしても欲しいらしく、代理で宿泊してきてほしいなんていうおいしいことこの上ない依頼だった。
特別に誰かを指定しての依頼ではなかったから、争奪戦になったのは言うまでもない。じゃんけんやゲームで勝負なんて案も上がっていたけれど、最終的に初兎ちゃんが作ったあみだくじが採用された。あんなにあみだくじで盛り上がったことはないんじゃないかってくらい騒がしかった。
「ペア宿泊やったから、恋人誘うやろうし待ち合わせ場所の想像はつくかも」
「え、ほんと!?教えて!」
「相手が社畜サラリーマンやからさぁ、ないちゃんが迎えに行くんちゃうかな。多分『告白代行』の時の延長でオフィスの裏手とかで待ち合わせやと思うんよね」
そう言えば初兎ちゃんは、ないちゃんのその「告白代行」の時カメラマンという役割を担っていたんだった。毎日カメラを構えてその光景を収めていたはず。それがその相手の会社だったんだろう。
「今すぐ行って待ち伏せしてくる!場所スマホに送っておいて!」
初兎ちゃんにそう言い置いて、僕は部屋を飛び出した。
初兎ちゃんに教えてもらったオフィスは、都内の中心部にある有名企業の名が連なる場所だった。その裏手は急に人気が少なくなる。だからすぐに見つけられた。ボラードに腰かけるようにして足を交差させ、スマホを弄っているないちゃんの姿を。
「ないちゃん!」
カメラを仕掛けるなら今しかない。右手の中に仕込んだ小さな小さな機械をぐっと握り、僕は大きな声で呼んだ。ピンク色の髪が揺れ、こちらを仰ぎ見る。
「あれ、いむじゃん。なにしてんのこんなとこで」
「いやー奇遇だね。僕もちょうどこの辺りで依頼があってさぁ」
適当な嘘を並べながら近づくと、ないちゃんは「…?そんな案件あったっけ?」と首を捻る。舞い込む仕事全てを社長が把握するわけではないから、このまま押し切ればいける。自分にそう言い聞かせて、ごまかすためにへらりと笑顔を浮かべた。そうしてまた更にないちゃんの方へ歩みを進める。
「あ、ないちゃん。襟ちょっと変になってるよ」
真正面まで行って、右手を伸ばす。「え、どれ」とないちゃんが手を伸ばすよりも先に、そのジャケットの襟部分に触れた。特別乱れてもいない箇所を直すふりをして、さっと小型の機械をくっつける。
「直ったよ」
「ありがと」
そうないちゃんが薄く笑みを浮かべた時だった。近くのビルのガラス扉が自動で左右に開く音がする。その音にないちゃんが目線をやるのと、僕が後ろを振り返るのが同時だった。
「まろ!」
ないちゃんが嬉しそうにその名を呼ぶ。そのオフィスビルから出てきた人物は、呼びかけられてまっすぐ視線を上げてこちらを見た。それからその目にないちゃんの姿を目に留めて、ふわりとした微笑を浮かべる。
手前にいる僕になんて気づいていないらしいその人物。スーツ姿の青い髪。初兎ちゃんが言っていたないちゃんの恋人だろうということは考えるまでもなく思い至ったけれど、僕はそれよりも別のことに頭を支配されてしまった。思いきり瞠目する。
「いふくん!?」
辺りに響き渡りそうなほどの大きな声に、ようやく僕の存在に気づいたらしい青い瞳がこちらを向いた。
「…え、知り合い?」
僕のすぐ前でないちゃんが首を傾げる。ボラードに腰かけていた態勢から立ち上がり、僕をまじまじと見つめてきた。
「ほとけやん」
その間にこちらに歩み寄ってきたいふくんからも声が降ってくる。懐かしいその声は、久しく数年は聞いていなかったもの。
いふくんは、僕がまだ子供だった頃近所に住んでいた。幼馴染みというには年が少し離れているし、「一緒に遊んだ」というよりは「遊んでもらった」の方が近い。中学高校になった頃には勉強もみてもらったことがある。なんだかんだと悪態をつきながらも教え方はうまいし丁寧だから、僕の成績も親と先生を納得させられるくらいのラインは常にキープできていた。
そんないふくんが一人暮らしをすると家を出てしまってから会うことはなくなった。たまに実家に帰ってきてるなんて話も聞いたけど、その時は僕の方が忙しかったりでタイミングが悪く会うこともなかった。
それをかいつまんで説明すると、ないちゃんは「へぇー」と感心したように頷いた。
「世間て狭いね」
「…それはこっちのセリフだよ」
まさか子どもの頃よく遊んでいた近所のお兄さんと、今自分が働く会社の社長が恋人同士になってるなんて思わないでしょ。男同士云々はこの際置いておくとしても、本当に人生何が起こるか分からないし世界は狭い。
「高級リゾートホテルのスイートルーム行くんだっけ?いいねぇ楽しんできて」
「写真だけはいっぱい撮ってきてやるわ」
優良案件を勝ち取った勝者の高笑いをしながら、ないちゃんは僕に手を振った。…写真ならその襟元のカメラで撮れるから大丈夫だよ、とはさすがに言わずに、僕は下手くそな笑顔を張り付かせた。
カメラは動画も撮れるからもちろん音声も拾える。ないちゃんの襟に付いたそれからはいふくんの顔はばっちり映るだろうし、依頼人に「ほらこんな人と誠実に付き合ってるよ」なんて説得する材料の一つにはなるだろう。
だけど現実はそれほど甘くない。僕と別れてからホテルに着くまでの間の会話をイヤホンで盗み聞きしているけれど、この2人に甘さなんて皆無だ。会話は取るに足りないような雑談か、それこそビジネス的な小難しい話ばかり。初兎ちゃんから聞いてなかったら、この2人が付き合ってるなんて僕は思いもしなかったと思う。
これじゃ依頼人に仲睦まじさを見せつけて諦めさせるなんて僕の作戦は失敗に終わるかもしれない…そんな一抹の不安が胸をよぎった。…その時だった。
カチャンとドアが閉じられる音がして、ないちゃんが「おーーすげー」なんて声を上げているのが聞こえた。映し出された画像にも目線をやると、ホテルの部屋に入ったところだと分かった。スイートルームってことはベッドルームだけじゃなくてリビングみたいな場所もあるだろうしお風呂もトイレも広いだろうし、最高なんだろうな…やっぱりあのあみだで一番右側を引いておけばよかったなんて今更ながらに思う。
『めっちゃ景色いいなぁ。さすが高層階』
『な』
『うわ限定グッズってこれか。めっちゃいいじゃん』
『これは依頼人に持ち帰らなあかんのやっけ?』
『そう。俺らが堪能できんのは宿泊と食事だけ。パジャマとかスリッパも限定品だから使わないでね。それも持ち帰れるやつだから』
『へぇー』
『しまった。使えないんだったら自分のルームウェア持ってくればよかった』
ないちゃんがそう呟くのが聞こえたと思った瞬間、少しの妙な間が空いた。ないちゃん本人もそう思ったのか、「…まろ?」と呼びかけ直している。
『いや、どうせいらんやんルームウェアとか』
『へ?』
『どうせ脱ぐやん、全部』
今度はないちゃんが一瞬黙りこんだ。そして僕も「ん?」と首を捻る。それからいふくんの言わんとするところに思い当たると同時に、カメラのマイクの向こう側からないちゃんが「はぁぁ!?」と声を上げるのが聞こえた。
『おま…っそういうおっさんくさいこと言うなって前から…!!』
『にゃははは、ないこたんかわいいねー』
思いきりからかうような口調のいふくんの声が、この上なく弾んでいる。…なに、この密室に入って2人きりになった途端にじゃれ合うみたいな会話。さっきまでつまらないビジネストークを繰り広げていた2人とは思えない。
『ないこ』
『……なんだよ』
『おいで』
きっと照れ屋で天邪鬼なないちゃんがぶっきらぼうに顔を顰めているだろう側で、いふくんの幾分か落ち着いたトーンの声が聞こえてくる。さっきまでのふざけた空気は消え、ただただ甘い。とろけるような…ううん、相手の心すらも蕩かすような声音。
『~~っ』
何やらぶつぶつ文句を口の中で転がしているらしいないちゃんだけど、それも上手く声にならない。小さなモニターで小型カメラが映す光景を見やると、そんなないちゃんがソファに座るいふくんの方へ向かうのが分かった。
だんだんと近づき、やがて傍まで行ったかと思うとぐいと腕を引っ張られる。ないちゃんがやられていることなのに今の僕の視点は彼のものであるせいか、まるで自分が誘われているような感覚に陥りそうだった。
『飯までまだ時間あるから、先に風呂入ろ』
激甘ボイスで囁くいふくんは、僕が今まで見たこともないような優しくて幸せそうな笑みを浮かべている。
「誰これぇぇぇ!!!!」
こんなの僕の知ってるいふくんでもないちゃんでもない!無理無理無理、これ以上は無理!いふくんがないちゃんにキスをする瞬間、ついに耐え切れずにイヤホンを耳から外してモニターを伏せた。
…いやそりゃそうだよね。付き合ってる2人が高級リゾートホテルにうきうき宿泊したらやることなんて限られてるよね。分かり切っていたことだけどそこまで深く考えてはいなかったせいで、改めて現実を突きつけられた気分だ。
動画に収められたホテルの食事は本当においしそうで、羨ましいことこの上なかった。ただその後は当然全部見れたものではなかった。
『早く挿れてよ、まろ…っ』
なんて懇願するないちゃんとか!!!
『…っあぁ…っ』
『…ないこ今日めっちゃ声出るやん。いっつも我慢して堪えるのに』
『うっさ…ぃ』
とかとかとか!脱ぎ捨てたジャケットの位置が悪かったのか行為そのものが全部丸見えなほど映っているわけではないけれど、その辺のAVよりも官能的で煽情的だったことに間違いない。
ただこれが自分の知る2人だというのがよくない。僕は要所要所耳にしただけでげんなりしてしまって、動画の編集自体はりうちゃんに頼んだ。さすがに依頼人にもこれ全部を送るわけにはいかないから、相手が諦める決心がつく程度にいちゃつく2人を抜粋してもらう。
「りうらだって見たくないんだけどこんな動画…!」
切り抜くなら当然見聞きしなければいけない。文句を言いながらも作業をするりうちゃんの傍らで、僕は画面を見ないように気をつけながら手を合わせた。
「そこを何とか!ほら、僕ないちゃんのこともいふくんのことも知ってるからなんか複雑なわけよ」
「りうらだって複雑だよ!うちの社長なんだからないくんのことは知ってるわけだし」
「でもりうちゃんはほら、ロボットとか人の心ないとか言われてるじゃん」
大丈夫大丈夫、なんて訳の分からない理論で丸め込んで動画を編集してもらう。そうして短く切り抜いた動画、後は写真を数枚。それを依頼人のあの物騒な女子に提出した。
幸せそうなないちゃんを見たら、この子はまた逆上するかな…。そうなったらどうやって説得しよう。そう考えを巡らせていた僕の前で、後日カフェで落ち合った彼女はホットコーヒーに砂糖を入れてスプーンでぐるぐると掻き回していた。…さてこの後どう出てくる?
「……」
長い沈黙の後、やがてぽつりと彼女が何かを呟いたように聞こえた。「え?」と少し身を乗り出すと、彼女は今度はきちんと顔を上げて僕をまっすぐ見据えてくる。
「…依頼の代金。後払いにしてもらってたやつ払います」
「え?」
「請求書あります? 振込でいいですか?」
「あ、うん!…はい」
思ってもみなかった第一声に、面食らってしまった。慌てて鞄の中から金額の書かれた用紙を手渡すと、彼女は「すぐ振り込みます」とだけ言ってコーヒーのカップに口をつけた。
そしてそのまま、時間をかけてそれを飲み干す間も特に何を言うわけでもなかった。空になったカップをソーサーに戻すと、「ありがとうございました」と僕に向けて礼を言って立ち上がる。
……え、それだけ? 取り残されて目を見開いた僕の背中に、「まぁ納得したってことなんかねこれも」なんて初兎ちゃんの呟きが投げかけられる。一応彼女が逆上したときのために、宥め要員として後ろのテーブルについてもらっていた。
「えぇ…あんなにキレてたのにあっさり納得する…?」
「イケメン同志のまぐわいには寛大な女子多いらしいで、一部で」
「『まぐわい』て…やめてその言葉選び」
アイスコーヒーのグラスを手にして、ストローでずずと啜る。はぁ、とため息が漏れた。
「ないちゃんの恋人が女子やったらさ、彼女はキレたままやったかもな。土俵が同じって言うん? 『自分がその女に負けてるってこと?』って対抗心燃やすんちゃう?」
「…そんなもんかねぇ」
「でも相手が男やったらさ、もうそれは土俵がちゃうやん。自分に魅力がないせいじゃなくて、ないちゃんの好みがそっちやからって自分を納得させられるんちゃう?」
「…まぁそれもあるかもしれないけど……」
でもそれよりも、僕がげんなりしてしまうくらい…初兎ちゃんが苦笑いするくらい……そしてりうちゃんが呆れるくらいに、あの2人はとても幸せそうだったのだ。彼女があっさりと諦める気持ちになったのは、その現実を突きつけられたせいかもしれない。
嫉妬する隙も逆恨みする気も起きなくなるくらいに。
「あー僕も恋したくなったなぁ」
背もたれに身体を預け伸びをすると、後ろ側で初兎ちゃんが笑った。
「いむくん、明日レンタル彼氏の依頼入ってなかった?」
「レンタルとかニセモノじゃなくて、本当の恋がしたいの僕は!」
ぷん、と頬を膨らませ、僕は残りのアイスコーヒーを勢いよく飲み干した。
ベッドの上での行為が全て見える画角にはならない位置に、俺はジャケットを脱いで置いた。軋むスプリング音と自分の声、そして相手の息遣い。それらがよく聞こえるだろう場所ではあるけれど、さすがに映像で全てを丸映しにされるわけにはいかない。
「…ないこ今日めっちゃ声出るやん。いっつも我慢して堪えるのに」
まろがその行為の最中に俺にそう言ったのも無理はない。わざとだからだよ。いつもは必死で堪える声も、今日はわざと抑えなかった。詳細は一切知らないけれど、こんなくだらない依頼をした誰かに向けて。いつもより激しいその行為を見せつけるかのように。
依頼人が誰かなんて知らないし、その目的も分かるわけがない。だけどいむが俺にこんなカメラを仕込んで来るくらいだから、きっと誰かからの「代行依頼」なんだろう。
「後でいむを締め上げて吐かせるか」
翌朝、素っ裸のまま起き上がってひとりごちた俺に、ベッドの中からまろが「…なんて?」と寝ぼけた声で尋ねてきた。
昨日一晩中録画していたせいか、すっかり充電が切れたらしいカメラ。データは遠隔で既にいむの手元にあるだろうから、これはきっともう用済みだ。
「なんでもないよ」
笑ってまろに応えて、俺はジャケットの襟元につけられた小さな小さなカメラをゴミ箱に放り入れた。
コメント
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まさか続きが来ると思ってなくて飛びました😭🙌🏻あの二人には誰も付け入ることのできないなにかが存在するんでしょうね😌💓毎回水くんいちゃこら見せ付けられてるの可愛いです笑🤭桃くんまさかの気がついてたなんて…さすが社長です🤦🏻💓最初まじかと思ったんですがやっぱり最高でした😭😭私が苦手意識してるジャンルたくさんあるのにあおばさんの作品はそんなこと関係なく全て好きです😖💘💘
あおばさん、最新話読んだよ〜!!😭💕 いむくんが「♡♡♡てほしい」って依頼受けてからのドタバタ、めっちゃ面白かった! しかもまさかのいふくんと幼馴染だったって展開に「えええ!?」って声出たわ…! あの2人のイチャイチャを盗聴しちゃういむくんの気持ち、めっちゃ分かるしリアルすぎるwww 最後の桃視点での「いむを締め上げる」ってとこ、ないちゃんらしくて痺れたよ〜! あっさり納得した依頼人も「男同士なら仕方ない」って納得させる流れ、自然で良かった! 次も楽しみにしてるね!🌸✨