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夜の街は、静かに深い闇を纏っていた。
街灯の灯りがぽつぽつと街路を照らし、遠くに人々の足音や車の音がかすかに響く。
だが、その喧騒は彼の耳にはもう届かなかった。
スーツの肩にかけられたカバンは重く、手に握る書類の束は皺が寄っている。
彼は疲れた息を吐き、早足で家路を急いでいた。
そんな時、背後から静かな声がした。
🇬🇧「……やはり、日本さん、でしたか」
振り返ると、見覚えのある顔があった。
🇯🇵「……イギリスさん……?」
声は変わらず落ち着いていて、どこか余裕が感じられた。
日本は軽く頭を下げる。
🇯🇵「偶然ですね。お元気そうで何よりです」
🇬🇧「そちらこそ、お疲れのように見えますが……無理なさらぬように」
日本は苦笑いを浮かべて答えた。
🇯🇵「まあ、なんとかやっています」
イギリスは満足したように頷き、少し前に歩き出した。
🇬🇧「よろしければ、少しお話ししませんか?」
🇯🇵「別に構いませんけど……」
二人は並んで歩き出した。
中学の頃は、こんな風に並ぶことなどなかった。
日本は気まずそうに視線を逸らしながらも、どこか嬉しそうだった。
足音が静かな街に響く。
ビルの谷間を抜けると、月の光が降り注ぐ小さな広場に辿り着いた。
月は満ちて、冷たくも暖かい光を世界に注いでいる。
その光の中で、イギリスはふと足を止め、空を見上げた。
🇬🇧「……月が、綺麗ですね」
静かな言葉が夜空に溶けていく。
日本はその言葉にぎょっとして、少し顔を背けた。
あの時代のことが、ぼんやりと蘇る。
イギリスは優しく微笑み、ゆっくりと日本を見た。
🇬🇧「……覚えていませんか?」
日本は戸惑いながらも小さく首を横に振った。
🇯🇵「……申し訳ありません、あの頃の記憶は薄れてしまって」
イギリスは少し残念そうに目を伏せたが、すぐに落ち着いた表情を取り戻す。
🇬🇧「そうですか……」
少しの間、静寂が二人の間に流れた。
🇬🇧「ですが、こうしてまたお話しできることを嬉しく思います」
日本はその言葉に少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
🇯🇵「はい……私もです」
イギリスはもう一度空を見上げてから、ゆっくりと言葉を紡いだ。
🇬🇧「……月が、綺麗ですね」
その言葉が再び、夜の静けさに染み渡った。
日本は息を呑み、心臓が激しく鼓動を打った。
言葉は同じだが、今度はただの挨拶ではないとわかった。
顔が熱くなり、目を伏せる。
胸の奥が締め付けられるようで、震える声になりそうな思いを必死に押し込めた。
🇯🇵『もう、死んでもいいわ……』
そう、心の中でだけ呟いた。
夜風がそっと頬を撫で、月光は二人を柔らかく包み込んだ。
日本は静かに顔を上げ、遠くの海を見つめながら言った。
🇯🇵「……海が綺麗ですね」